至難のわざ3
「なーに、してるの?こんなとこで。」
痛みを堪えるために目を閉じていたイルカの前に一人の忍が立っていた。
額当ては木の葉のマークで、片目を隠している。
顔も布で隠れていて、顔の中で唯一、右目だけが出ていた。
背が高く、強健そうな造りの体躯をしていて、髪の色は特徴的な銀の色。
それが、イルカとカカシの初めての出逢いであった。
カカシは面白そうにイルカを見下ろしていた。
珍しい生き物でも見るような感じである。
なんとなく、むっとしてしまったイルカは強がって答えた。
「休んでいるだけです。」
相手は、どう見てもイルカより階級が上で多分、上忍か、もしくは特別上忍クラスであろう。
普段なら、勿論、階級が上の者には礼儀を弁えているイルカではあったが、この時は、なんというか魔が悪かった。
「ふうん。」
出ている片目を細めてカカシはイルカを観察している。
「・・・なんですか?雨が激しくなってきましたよ、早く里に帰られては如何です。」
強がっているイルカからは、そんな言葉が出てしまう。
「威勢がいいねえ。」
カカシは笑ったようだった。
「右足、怪我してるんでしょう。見れば分かるよ。」
かっと、イルカの体は熱くなった。
カカシに、一発で怪我の場所を言い当てられたことにだ。
「捻ったの?捻挫かな。」
まさか自分で転んでアキレス腱を切った、とは言えないイルカは、ぐっと黙り込んだ。
カカシは、そんなイルカを介することもなく、じっと見詰めてくる。
そんなカカシの目を見ていたイルカだったが、あることに気がついた。
自分に雨が当たっていない。
イルカを見下ろしているカカシの体が、傘の代わりになるように、イルカに覆いかぶさって、イルカの体に雨を当たらないようにしてくれていたのである。
急にイルカは自分が恥ずかしくなった。
怪我の理由とは別の意味での恥ずかしさだ。
子供っぽい態度の自分に恥ずかしくなる。
そう反省したイルカは正直に言った。
「・・・実は転んで、足の腱を切ったようなんです。」
それで動けないんです、と言うとカカシはイルカを安心させるかのように笑う。
「それは災難だったねえ。で、どこで転んだの?」
イルカは、そこ、と近くの地面と指差した。
「そこって、そこの場所?」
指差された場所を見たカカシは不思議そうな顔をする。
「なーんにもないよねえ。」
確認するようにイルカを見るから、イルカは不承不承、頷いた。
「・・・何もないですよ。」
「何にもないところで転んだの?」
「・・・・・・そうなりますね。」
「で、腱を切ったの?」
「・・・・・・・・・そうです。」
胃が痛くなるような会話が続いて、イルカは急に、どうっと精神的な疲労に襲われた。
そして津波のような後悔も押し寄せる。
やっぱり、言わなきゃよかった・・・。
笑われる、つうか笑うよな、絶対、とイルカは思ったのに、意外なことにカカシは笑ったりしなかった。
「そっか、大変だったね。どれ、足、見せて。」
イルカの足に、そっと触り「腫れているね。これは痛むよねえ。」と呟く。
「鎮痛剤は飲んだの?」
「・・・まだ。」
忘れたとは言えず、イルカは首を横に振る。
「じゃ、これ飲んで。」
カカシは自分の懐から錠剤を出してイルカに渡す。
「即効性だから、直ぐに効くよ。」
イルカは錠剤を噛み砕いて飲み干した。
飲んだ途端に、かっと体温が上がり、くらりと眩暈もする。
痛みが和らいできた代わりに、猛烈に眠くもなってきた。
そんなイルカを見てカカシは首を捻っている。
「鎮痛剤、効きすぎたのかな。体重、何キロくらい?」
イルカが答えるとカカシは、しまったという風に舌打ちした。
「そんなに体重が軽いとは思わなかった。倍くらいの体重を想定していたから、今、飲んだ薬は強すぎたね。」
そうなんですか、と言おうとしたが、イルカの目は閉じかけている。
今にも眠ってしまいそうだった。
「いいよ、眠って。負んぶして里まで連れて行ってあげるから。」
こくり、とイルカは頷いた。
「あ、そうだ。名前は何て言うの?俺はカカシっていうんだけど。」
思い出したようにカカシは聞いてくる。
「・・・・・・イルカ。」
カカシに名前を聞かれながら背に負ぶさられてイルカは、うつらうつら、と船を漕ぐ。
「へえ、イルカって言うんだ〜。年は幾つなの?」
背中の体温が心地よくて、安心したイルカは、その質問に、どう答えたのか覚えていない。
既に半分以上、意識は夢の中だった。
年齢を聞かれて、十四と答えたのか、誕生日がもうすぐだったから十五と答えたのか。
ただ、イルカの答えを聞いたカカシが呟いた言葉は覚えている。
「十・・・?へええ、十歳なんだ、イルカは。小さいのに頑張っているんだねえ。」
十歳じゃない、と否定したかったが、そこでイルカの意識は途絶え、眠りに落ちたのだった。
至難のわざ2
至難のわざ4
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脹脛(ふくらはぎ)