幸せ星7
辺り一面、真っ暗だった。
こんな時、忍でよかったとイルカは思ってしまった。
だって夜目が利くから。
明るい場所のように完全に色や顔の表情の区別がつくわけではないが、たいていのことは分かる。
無言でカカシは体を起こして立ち上がった。
イルカも、それに倣う。
土砂に埋まった洞窟の入り口を再度、見てみたが一条の光も射していない。
完全に閉じ込められている。
「どうしよう」
誰に言うともなくイルカは、ぽつりと呟く。
イルカの呟き声は暗い洞窟では、よく響いた。
「そうですねえ」
カカシの、のんびりとした声がした。
緊張感を感じさせない。
「多分、この辺は地盤が緩くて先ほどの地震で、それが崩れ落ちてきて洞窟を塞いだ形となったのでしょうね。
洞窟の入り口付近の壁や天井も脆そうだったし」
カカシの言葉は淡々と続く。
「入り口を土遁で吹っ飛ばすことも出来ますが」
暗闇の中で、そっとカカシがイルカの手を探り触れてきた。
「まあ、救助を待った方が無難でしょう、下手に触ると洞窟全体が崩れ落ちてくるかもしれませんし。
外に荷物が置いてあるから、後続のやつらも異変に気づきますよ」
俺たちを探して助けてくれますよ、とカカシは見解を出した。
崩れ落ちた土砂を取り除くのは外から行った方がよい。
「そうですね、きっと」
イルカは真っ暗闇の中で息を吐いて、また吸った。
気を落ち着かせるためにだ。
閉じ込められてしまって変に、どきどきしている。
怖いというか、慣れない環境に緊張してしまっていた。
アカデミーの先生で忍者なのに、とイルカは唇を噛む。
こんな時に緊張するなんて、と。
さっきのカカシののんびりとした声はイルカの緊張を見越して和らげるためだったのかもしれない。
カカシさんは、いつでも上忍なんだなあ。
「そう時間も掛からず助けは来ますよ」
イルカの手に触れていたカカシの手がイルカの手を握り、下に引いた。
「立っていても疲れます。座って待ちましょう」
腰を下ろしたカカシの横にイルカも座る。
暗闇の中で「火は・・・」と言葉が漏れ出た。
少しでも明るい方が気が紛れるような気がする。
「それはやめときましょ」
カカシは、あっさりと言った。
「酸素は救助されるまで充分に保つと思いますが念には念を入れてね」
「はい」
そういえば水も食料もない。
そのことはイルカを急速に不安にさせていった。
しかし、その不安や緊張を出さないようにとイルカは自分に言い聞かせる。
一応、忍者なんだし危機的状況にも臨機応変に。
それに、と横に座っているカカシを、ちらとを見る。
カカシさん、全く動揺していないし大丈夫だよな、うん。
イルカの手はカカシに握られたままだったがカカシの手からは体温の変化もなく手の平に汗も掻いていない。
対してイルカは僅かに体温は上昇して手の平に汗ばんでいる。
そんな自分が情けないと思いつつもカカシの握られた手から自分の手を離すことが出来なかった。
「時間もありますし、話でもしましょうかね」
あくまでもカカシは焦りを感じさせない口調だった。
「暗い場所で黙っていると長く感じますよね、時間が」
「え、はい」
「イルカ先生。俺が任務でいない間、元気でしたか」
「あ、まあまあです」
「まあまあか〜。ご飯はちゃんと食べていたの?」
「ええ、まあまあ適当に」
「適当か、イルカ先生らしいです」
カカシが面白そうにしているのが分かる。
悔しくなってイルカも訊き返してみた。
「カカシさんは怪我はないんですよね?」
「怪我もなく元気です」
「任務、お疲れ様でした」
「いえいえ、イルカ先生が待っていてくれると思えば頑張れました」
「そんな・・・」
「里で待っていてくれるはずのイルカ先生と任務の帰りに出会えた時は驚きと嬉しさで胸が震えました」
「何を言っているんです、カカシさん」
カカシの軽口でイルカの緊張も解れてきた。
暗闇だと普段、言えないこと言えるらしい。
「だってねえ、本当なんですよ」
カカシの口調が甘えたものに変わった。
「俺、イルカ先生が好きなんです」
ぱっちりと暗闇でイルカの目が大きく見開いた。
カカシは今、何と言ったのだろう。
聞き間違い?
暗闇が聴覚に異常をもたらしたのか・・・。
カカシはイルカの握った手を離さずにイルカの方へと寄ってきた。
胸と胸がぶつかる。
カカシの吐息がイルカの頬にかかり接近しているのを寄り身近に感じた。
「俺、イルカ先生が好きなんです。ずっと前から」
呆然とイルカはカカシの言葉を聞いている。
聞いてはいたが内容が頭で整理できない。
混乱しているといってもいい。
「本当に本当に好きで誰にも渡したくないんです。俺のものにしたいんです」
カカシの告白は続く。
「イルカ先生が誰かといると嫉妬の炎がめらめらと俺の背後で燃えていますし、
イルカ先生が俺のいないところで何を誰としているのかと想像していると神経が焼ききれそうになります」
告白は熱くて下手をしたら火傷しそうなほどだ。
「だから」
カカシはイルカの座ったまま、詰め寄った。
握られた手は、そのままで、もう片方のカカシの手はいつの間にかイルカの背に回っていた。
「里を出る前にイルカ先生に二人きりにならないようにお願いしたんです」
・・・・・・そうだったのか。
イルカは今更のように気がついた。
「イルカ先生、好きです」
そう言ったカカシの瞳は暗闇でも真剣だった。
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