幸せ星6
それは山すそに、ぽっかりと空いた洞窟であった。
自然物のように思える。
カカシとイルカは一先ず持っていた荷物を洞窟近くの木の下に置いて、洞窟の中の様子を窺った。
人の気配はない。
しかし気配がないからといって本当に人がいないという確証はない。
「どうしますか?」
イルカはカカシに訊いてみた。
この場合、発見した今、洞窟の中を探ってみるのが一番と
思われたが上忍であるカカシの判断を待つ。
カカシは洞窟の入り口から目を凝らして中を見ている。
「そうですね、中に入ってみましょうか」
「はい」
「内部が、どんな風になっているのか様子を見てみましょう」
「分かりました」
イルカは頷く。
カカシは「まずは」と指先に、ふっと小さな炎を点した。
「火遁の応用です」とイルカに告げると次々に炎を洞窟の中に飛ばした。
小さな炎は洞窟の中に飛んでいくと、すーっと消えていく。
洞窟の闇に溶け込んでいくように。
それを見てカカシは言う。
「炎は正常な消え方をしますね、有毒なガスなどはないようです」
そしてイルカを促した。
「行きましょう」
洞窟は入り口付近はカカシとイルカの背の倍ほどの高さがあり横幅が広く大きなものだった。
中は、どこまで通じているのだろうか?
イルカは薄っすらと、そんな不安を抱いてしまった。
だが、その不安もすぐに掻き消える。
カカシさんがいるから大丈夫。
絶対の信頼をカカシに置いていた。
だから洞窟に入る時に自然にカカシがイルカの手を握ってきた時も、特に何も疑わなかった。
暗い洞窟内を導いてくれるのかとカカシの親切に感謝してしまう。
子どもじゃないのだから、と振り切ることも可能だったけれども逆に、
それが大人げないように思ってしまった。
握ってくれたカカシの手が、あったかくて力強かったのも振り切れない要因でもある。
カカシさん、こんな時も親切なんだな。
イルカは細かい気配りをするカカシに感動すらしていた。
「イルカ先生、洞窟の入り口の周りが崩れそうだから触らないでね」
「あ、はい」
「暗いから足元も気をつけて」
暗闇に目が慣れてくると洞窟の内部に、ごつごつとした石、岩が散乱しているのが見て取れた。
カカシに手を握られたまま洞窟の奥深くへと入っていく。
徐々に入り口は遠ざかり、暗闇ばかりで光はない。
洞窟は奥に行くにつれ狭くなっていった。
「どこまで続いているんでしょうか」
洞窟の内部に誰か潜んでいないか、と気配を消して黙って歩を進めてきたのだが暗闇と重苦しい沈黙に耐えかねて、
イルカはカカシに身を寄せると密かに囁いてしまった。
「もう随分、奥まで来ましたよね・・・」
暗闇の中で、ふっとカカシが笑ったのが空気の震えで伝わってきた。
「こわいの?イルカ先生」
からかわれる。
「怖いなんて・・・」
仮にも忍が暗闇が怖いなんて有り得ない。
有り得ないが相手がカカシだったこともありイルカは心の声を口に出してしまった。
「ちょっとだけですけど」
すると更にカカシが笑うのが分かる。
言わなきゃよかった、とイルカが激しく後悔していると、ぐっとカカシに引き寄せられた。
手で探ってみると忍服のベストの前の備品や巻物を入れる胸ポケットの感触があり、
カカシの胸の中にいることが知れた。
抱きしめられている状態だ。
「カカシさん?」
「かわいいなあ、イルカ先生は」
楽しそうに笑っている。
「そんなに笑わなくても〜」
暗闇で、どうせ確かな表情なんて分からないとイルカは拗ねた顔をしたのだが、
それもばっちりカカシに見られていた。
「拗ねた顔も格別です」なんて嘘なのか本当なのか分からないが真面目な顔して言っている。
「ま、ここらでいいでしょ」
カカシは、どさくさに紛れて抱きしめたイルカの背を叩く。
安心して、と言うように。
「内部に異常なし。この先、奥に行っても何もなさそうですしね。
後は里に報告して地図の一端に書き加えてもらえば終了です」
「そうですね」
洞窟から出られると分かってイルカは、ほっとする。
暗闇が苦手ではないが余り好きでもない。
洞窟から出られると安心して体の力を抜いたのがカカシに伝わったのか、カカシがまた笑う。
「暗いのが怖いなんて子どもみたいですねえ。そこも可愛いですけどね」
「ちょっとだけだって言ったじゃないですか」
「では、イルカ先生のためにも早く外へ出ましょうか」
もちろん、イルカに異論はなかった。
「早く外へ行きましょう、カカシさん!」
嬉しさが滲み出た声で催促するとイルカを抱きしめていたカカシの腕が、ぎゅっと力が入った。
「ここから出たいけど出たくないなあ」
訳の分からぬことを言っている。
「出たくないって何でですか」
そういえば、何でカカシさん俺を抱きしめているんだっけ?
やっと、そのことを思い出しイルカは、この状況にあたふたしてしまう。
「カカシさん、離してくださいって。このままじゃ歩けません」
外、明るい所へ行きましょうとイルカは懇願した。
一刻も早く、暗くて狭い場所からおさらばしたい。
だけどもカカシはイルカを離してはくれなかった。
「だってねえ、誰にも邪魔されない二人きりの場所にいるのにもったいないです。
あー、このままイルカ先生と、ずーっと二人でいたいなあ」
ますます、抱きしめる腕に力を入れてくる。
上忍のカカシの力から抜け出すのはイルカには困難であった。
「カカシさん、冗談なんて言っている場合じゃないですから」
「うーん、冗談じゃないんですけどねえ」
「冗談じゃなかったら、もっと性質悪いですよ。こんな所にいたいなんて」
「あはは、俺は悪い男ですか」
一頻り笑い声を立てたカカシは、やっとイルカを開放した。
「ごめんね、イルカ先生。外へ出ましょう」
「・・・はい」
入ってきた時と同じようにカカシに手を握られて入り口の方へと向かう。
その時だった。
急に地面が揺れ始めた。
横に揺れて縦に揺れて、とてもじゃないが立っていられない。
「イルカ先生!」
何を、と思う暇もなくカカシがイルカに覆い被さってきた。
「じっとしていて」
カカシはイルカの体を自分の体で庇うように覆っている。
揺れた洞窟内は天井から壁から土砂や石、岩が転がり崩れ落ちてきていた。
「地震です」
端的にカカシは言った。
「地震・・・」
ひどい揺れは地震だったのだ。
木の葉の里で地震は珍しく滅多にない。
時折、忘れた頃に起こっていた。
「やっと揺れが納まりましたね」
ゆっくりとカカシはイルカの体の上から身を起こした。
「結構、強い地震でしたね。震源地に近かったのかな」
非常事態でもカカシは冷静であった。
そのことは尊敬に値する。
カカシさんて、すごい・・・。
カカシの冷静な判断や分析力をイルカは心から賞賛してしまう。
そしてイルカも身を起こしかけた時、それは起こった。
頭上から、ずざざっと何か大量に滑り落ちてくるような音がしたのだ。
凄まじい速さと音がする。
その正体は、すぐに知れた。
どさどさっと洞窟の入り口に落ちてきたから。
土砂、土くれ、岩、砂利が瞬く間に洞窟の入り口を塞いでしまった。
入り口からの光は閉ざされた。
暗闇の中にカカシとイルカは取り残されてしまったのだ。
たった二人だけで。
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