幸せ星10
里に帰ってからイルカはカカシと会うことが中々、出来なかった。
正確には二人きりで会うことがなかったのである。
受付所で会うことはあっても、忙しい時間帯だったりでプライベートな会話を交わす余裕がない。
またカカシも任務を受けていて里を出て帰って来て、また任務を受けてと忙しそうにしている。
イルカもイルカで何かと忙しかった。
一回だけ、時間が出来たと思われるカカシに夕飯を誘われたのだが、そんな時に限ってイルカの方に時間の猶予がなく
話も碌にせず断って終わってしまった。
・・・あれは夢だったのかな。
一人になるとイルカは考える。
カカシさんに告白されたのは夢だったのかもしれない。
会えない日々が続き話も出来ないことが続くとイルカは、だんだんとそう思うようになってきた。
時間が過ぎれば過ぎるほど、その思いは募る。
告白されたという事実が薄れてきていた。
そして、もう一つイルカが気になることがあった。
噂である。
カカシと例の女性は里にいても一緒にいる姿をよく見かけた。
喧嘩しながらも何故か一緒にいるのである。
イルカの目から見るとお互いがお互いをけん制しているような、相手も行動を妨害しているような
印象を受けた。
それはカカシが、また例の女性が受付でイルカと話そうとすると必ず、どちらかが邪魔する光景を見ているからだ。
「あ、イルカ先生。今晩なんですが、もしよかったら・・・」
カカシがイルカに話しかけると、どこからともなく女性が現れカカシに首根っこを掴み受付所の外へを引き摺っていく。
「うみの中忍は仕事中なの、邪魔しては駄目よ」と。
女性も任務を受けていてイルカに報告書を提出してくるが、その際は毎回、何かをイルカに言おうとして迷っているような感じであった。
「あ、あの、うみの中忍」
「はい」
イルカが返事をすると女性は畏まって俯いてしまう。
「えっと、実はね・・・」
そしてカカシの邪魔が入る。
「はい、ストップ!イルカ先生は仕事中です」
実にいいタイミングだった。
女性は悔しそうに唇を噛むと「分かっているわよ」と呟きイルカに丁寧に一礼すると受け付け所を後にしてしまう。
あの人は自分に何を伝えたいのか・・・。
カカシと女性の、そんな行動が人の口に上がるようになると皆が言った。
「お似合いのカップルだ」と。
カカシと女性は半ば公認の関係になりつつあった。
カップルというのが何を指すのかくらいイルカにも分かる。
皆、カカシと女性がただならぬ仲、つまり恋人関係にあると思っているのだ。
「そうだよなあ」
イルカは、ぼんやりと二人の姿を思い浮かべた。
正にお似合いのカップル、恋人と言ってもおかしくない。
男の自分より、ね・・・。
そんな寂しいことも考えてしまう。
夜遅く、受付で事務仕事をしながらイルカは一人きりになると余計、そう思ってしまった。
今日はカカシも女性も任務で里にはいない。
別々の任務だ。
「なんだかなあ・・・」
洞窟に閉じ込められた時にカカシの言葉が嘘だとは思わないが、
今では本当だとも思えなくなってきてしまっている。
夢か幻だと思った方が苦しい胸に内が楽になるような気がした。
カカシとの擦れ違いの日々が続いた、ある日。
珍しくイルカは任務を受けて一晩、里を空けた。
「イルカ、お疲れ〜」
任務を終えて帰ってくると同僚に労わりの言葉を掛けられた。
「うん、ただいま」
同僚はイルカが親しくしている、少し年上の兄のような感じのする同僚である。
洞窟に閉じ込められている時に一緒に里に帰還した仲であった。
「何か変わったことあった?」
イルカは自分が不在時の仕事の進行状況を確認する。
「特に何もないな。いつも通りだ」
「そっか、ありがと」
「それよりもだなあ」
同僚は内緒話でもするように声を潜めた。
「はたけ上忍、昨晩、あの綺麗な女性の上忍と二人だけで飲み明かしたんだってさ」
「へえ」
「居酒屋で二人で飲むのを目撃したやつが何人かいて」
「ふーん」
「二人して仲良さそうにカウンターに座って話が楽しいのか笑い声が絶えなかったんだそうだ」
「それで?」
「そんで話が盛り上がって朝まで飲み明かしたらしい」
仲がいいみたいだな、あの二人と同僚がイルカを気の毒そうに見た。
「あのさ、イルカ・・・」
「なに?」
「その、大丈夫か」
「大丈夫って?」
「はたけ上忍のことだよ」
同僚が心配そうにイルカを見遣る。
「イルカ、はたけ上忍のこと好き、じゃないのか」
見誤っていたらごめん、と断ってから同僚は話し始めた。
「俺が言うのもアレだけど」
言い難そうに同僚は言う。
「最近、イルカの元気がないからさ」
「そう見える?」
「ああ・・・。前は、はたけ上忍とのこと嬉しそうに話していたけど近頃、話題にも上らないじゃないか」
それはカカシさんと会う機会が減ったから。
カカシに会う機会が減ればカカシのことを話すこともなくなる。
「原因は、あの恋人の存在だろって恋人かどうかなんて分からないけど」
「そうかな・・・。そうなんじゃないのか」
あっさりとイルカは言い切った。
カカシと女性が恋人じゃないのか、と。
何というのか、心が錆きってしまったように感情が沸いてこない。
他人事のように、どうでもいいと思うようになってしまいつつあった。
「俺もさ」
同僚が頭を下げた。
「あの時、噂を鵜呑みにしてイルカに、はたけ上忍と女性が恋人だって言っちまったけど後悔してる・・・」
謝られた。
「ごめん、事実を確認してから言えばよかったのに」
「もういいよ」
イルカは頭を下げる同僚の肩を叩く。
「誰も悪くないんだから」
「でも!はたけ上忍に、きちんと訊いてみたのか?恋人なのかって」
「もう・・・」
何かを悟ったようにイルカは微笑んだ。
「もういいんだ。心配してくれてありがとう」
吹っ切れたような笑顔だった。
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