花の咲く色 9
「さ、もう寝ましょうか」
カカシさんの腕が俺を絡め取る。
「今日は大人しく寝ることにします」
ベッドの中に入ると、ぎゅっと抱き寄せられた。
「おやすみなさい、イルカ先生」
「おやすみなさい、カカシさん」
抱き締められると、とっても落ち着く。
俺もカカシさんの背に腕を回した。
二人で抱き合う形で眠る。
あったかい、カカシさんの体温。
俺が一番好きな温かさ。
大好き。
そうして、目を閉じると深い眠りに落ちてしまった。
いつ、朝になったのかも解らなかった。
「イルカ先生、朝ですよ〜」
カカシさんに肩を揺らされて起こされた。
「あ・・・」
薄っすらと目を開けるとカカシさんの顔がアップで目の前にある。
結構、睫が長いことに気がついた。
綺麗な顔が目の前、対する俺は起きたばっかの寝ぼけ顔。
「おはよう、イルカ先生」
にこ、と微笑まれて俺は咄嗟に顔半分を布団で隠してしまった。
何か恥ずかしい。
「おはようございます」
布団の中から、ご挨拶。
「ご飯出来てますよ〜」
「あ、はい。ありがとうございます」
「顔を洗ってらっしゃい」
タオルは洗面所に用意してありますから。
「はーい」
隣の部屋から、いい匂いが漂ってきて俺のお腹は、グーッと鳴った。
早く食わせろ、と主張している。
「ふふ、可愛いですね、イルカ先生」
お腹の音なんて可愛くない・・・。
とりあえず、起きることにして「よっこらしょ」とベッドから這い出た。
ずる、ずるずる〜。
「あー・・・」
昨日、カカシさんから浴衣が肌蹴て、もはや着てない状態になっていた。
腰だけ浴衣の帯で止まっている状態。
項も肩も胸も出し放題。
俺って寝相が悪いのか、浴衣を着ると次の日の朝、必ずこうなっている。
だから、家ではパジャマなのだ。
「あのねえ、イルカ先生」
肌蹴た浴衣をカカシさんは、さっと直してくれた。
俺を直視しないように目を逸らして。
「朝から、目の毒じゃないですか」
どんだけセクシーなんですかって、顔を赤らめている。
「・・・セクシーなんかじゃありませんって」
いや、ほんと。
「単に寝相が悪いだけで」
ほんとにほんと、それだけだ。
「ま、俺は役得ですけどねえ」
カカシさんは頭を、がしがし掻いていた。
カカシさんの作ってくれた美味しい朝食をいただいて、一緒に出勤した。
そういえば、カカシさんの家から一緒に出勤って初めてかも。
何だか新鮮。
いつもと違う景色が面白い。
「今日も迎えに行きますから、一緒に帰りましょうね」
カカシさんが分かれ際に言う。
「午後から夕方まで受付でしょ」
・・・何で知っているんだろう。
「それから」
きゅっと目を細める。
まるで猫のように。
「イルカ先生の研究の結果が出たら、是非とも俺に教えてください」
研究って、あのセクシーって何だろうって例のやつか?
「そ。楽しみにしてますから」
またね、イルカ先生。
手を振るとカカシさんは任務に行ってしまった。
「はい、また後で」
俺の手を振ってカカシさんを見送る。
後ろ姿のカカシさん。
広い背中とがっしりとした肩幅、少しばかり猫背だけど。
俺にはセクシーに見える。
やっぱり格好いいよなあ、と惚れ惚れとした。
午前中はアカデミーだったので俺は授業の合い間、職員室にいた。
書類を整理したり、答案の採点をしていると休憩中の女性たちの声が聞こえた。
くの一の先生だ。
きゃーきゃーと色めき立っている。
「ねえ、あの人ってセクシーよねえ」
「そうそう。男の色気があるわ〜」
「格好いいもんね!」
とか話している。
セクシー?
色気がある?
格好いい?
その言葉からカカシさんが連想されたが、どうやらカカシさんのことではないらしい。
カカシさんの他にも、そんな男の人がいるのか・・・。
興味深い。
思わず、聞き耳を立ててしまった。
誰なのか、知りたくて。
その人を見てみたかったから。
話を総合すると、そのセクシーで色気があって格好いいのは最近、長期任務から帰還した上忍の人らしかった。
名前も聞こえたが覚えがない。
受付所をしているので仕事柄、忍の名前はたくさん覚えているのだが。
「ふーん・・・」
その人が本当に、セクシーで色気があって格好いいのか、興味が出てくる。
里に帰還したのなら、受付所で会えるかな。
午後から受付の仕事をしていたのだけれどタイミングが悪いのか、その上忍は現れなかった。
まあ、そういうこともあるさ。
仕方がない。
そうこうしているうちに受付所の仕事は終わり、約束通りカカシさんが迎えに来てくれたのだが。
「イルカ先生、ごめん!」
ぱん、とカカシさんが俺に手を合わせた。
「急に上忍仲間と飲みに行くことになってしまったんです」
一緒に帰れません、と申し訳なさそうに言う。
「いいですよ」
眉を八の字にしたカカシさんが何だか可愛い。
「俺、先に帰ってますね。ゆっくりしてきてください」
「はあ、じゃあ、お言葉に甘えて」
なのにカカシさんは歯切れが悪い。
「どうかしましたか?」
「うん、えーとね」
幸いなことに廊下の隅で話しているので、カカシさんと俺の他には誰もいない。
「イルカ先生は俺と帰れなくなって、一人で帰るの寂しくない?」
そんなことを聞いてきた。
「そりゃあ・・・」
寂しいに決まっている、決まっているけど。
「寂しいですけど、家で待っていればカカシさん、帰って来てくれるでしょう?」
「当たり前です」
「だから・・・。寂しいけど平気です」
長い間、会えないって訳じゃないしね。
「イルカ先生!」
叫ぶように俺の名をカカシさんが呼んだときには俺はカカシさんの胸に抱き込まれていた。
「俺は一時でもイルカ先生と離れるのが耐えられません、片時でも離れなくないんです」
そんなこと言われてもなあ。
飲みに行くのはカカシさんだし・・・。
「なので、イルカ先生も一緒に行きましょ」
「えええ〜」
「イルカ先生の知っている人もいるから大丈夫ですよ」
ということは。
「知らない人もいるってことですよね?」
「え?ああ、そうですね」
詳しく話を聞いてみると、どうやら今日は久しぶりに会う上忍の人との飲み会らしかった。
その上忍て・・・。
名前を聞いてみると、職員室でくの一の先生たちが騒いでいた長期任務から帰ってきた上忍の人だった。
俄然、興味が沸いてくる。
見てみるのも研究の一環だ。
「もしも」
俺はカカシさんに尋ねる。
「お邪魔じゃなかったら、ご一緒させていただいてもいいですか?」
その人を見ながら、隅っこで大人しくしていればいいよな。
控えめに申し出るとカカシさんは喜んだ。
「嬉しいなあ〜」
イルカ先生と一緒だ〜、と無邪気に喜んでいる。
俺の下心にも気づかずに。
・・・カカシさん、ごめんなさい。
ずしっと罪悪感の塊りが俺に圧し掛かってきたのだった。
花の咲く色 8
花の咲く色 10
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