花の咲く色 7
・・・カカシさん。
こんなカカシさんは初めて見る。
今までと別人のようなカカシさん。
カカシさんには、こんな一面もあったんだ〜。
危険な香りがする男って感じの一面も。
そんな人、漫画か小説の中だけの人だと思っていたのに。
実際、目の当たりにすると言葉が出ない。
すごく格好よくて、すごく色っぽくて、すごく危険な感じがする。
そして、セクシー。
「イルカ先生」
俺の上に乗り上げていたカカシさんが、俺の顔の両脇に手をついた。
距離が、ぐっと近くなる。
カカシさんの顔が間近に迫ってきて、ドキドキしてしまった。
胸の鼓動が止まらない。
カカシさんの顔から目が離せない。
俺を見つめるカカシさんの目は妖しく光っている。
「イルカ・・・」
呼ばれる声が痺れるように甘い。
カカシさんの顔が大きくなって、更に近づいてきた。
俺の目にはカカシさんしか映っていない。
カカシさんもだ。
カカシさんの瞳の中には俺しかいない。
ドキドキが最高潮に達したときだった。
ピーン!
何やら、俺のレーダーに引っ掛かった。
現在、研究しているセクシーレーダーに反応したのだ。
あ・・・。
閃いた。
解ったような気がする。
そうだ、そうに違いない。
きっと、そうなんだ!と思って、俺は状況も忘れて勢いよく、頭を上げた。
がつん!と音がして、目から火花が飛び散った。
「いった〜」
「いたた・・・」
カカシさんと俺の頭が仲良く、ごっつんこした音だった。
「イルカ先生〜」
カカシさんが恨みがましい目で俺を見る。
「何てことするんです、いいところだったのに〜」
そう言うカカシさんは額を押さえて呻いている。
俺も下に同じ。
「す、すみません」
ぶつかったところが痛くて、涙が出そうだ。
「とりあえず、冷やしましょう」
ベッドを下りたカカシさんが冷凍庫から保冷剤を持ってきてくれた。
それを、ぶつかった部分に当てて、痛みが治まるを待ったのだった。
「で、なんですって?」
まだ、恨みがましい目をしているカカシさんが俺を問い質す。
「直前までいったのに、何もなかったじゃ済まされませんよ」
なんだか怖い。
怒っているようだ・・・。
「話によっちゃあ、続行しますからね。ってか、いずれはしますけど」
決意を熱意を込めて語っているけど、何を?
そもそも、カカシさんは何をしようとしていたのか・・・。
まあ、それはそれとして、俺は話をし始めた。
「あのですね」
カカシさんと俺はベッドの上で、何故か正座して向き合っている。
俺は、ちょっと興奮気味。
なんたって、閃いちゃったもんね。
「セクシーってのは色っぽいだけじゃなかったんです」
「はあ?」
「セクシーには危険な香りもするんです」
「・・・で?」
「実は俺、今、セクシーってやつを研究中で」
「ふーん」
「セクシーとは何なのかってのを調べているんです」
「結果は出たの?」
「まだ、研究途中ですけど、もうすぐ結果が出るような出ないような」
さっきのは研究成果の一部ってことだ。
「セクシーねえ」
腕を組み、目を瞑って考え始めるカカシさん。
「ほら、だって、カカシさん、俺によく言うでしょう」
朝、起き抜けにセクシーだって。
「でも、俺は全然、そんなの当て嵌まらないし」
どちらかというとカカシさんが当て嵌まる。
セクシーなのはカカシさんだろう。
「ってことは」
目を開けたカカシさんは質問してきた。
「もしかして、前にイルカ先生が見ていた洋服の雑誌って、その研究のためのもの?」
「あ、そうです」
カカシさんが言っているのは、俺が買った男性向けのファッション誌のことを指すのだろう。
「その前に飲みに行ったときに、紅にセクシー云々を訊いたのも研究のため?」
「そうです」
よく覚えているなあ、カカシさん。
「そうですか」
言ったカカシさんの顔は曇っている。
眉を潜めて、難しい顔。
「他には?研究と称して、やったことはないですか?」
「やったこと・・・」
他には具体的にはないけれど。
心当たりが全くない。
悩んでいるとカカシさんが今度は話し出した。
そういえば、カカシさん、話がしたいって言っていたよな。
「あのですねえ、もう一回訊きますけどね」
「はい」
「俺が任務で里にいない間の休日に買い物に出掛けたって、イルカ先生、言っていたでしょ」
それは上忍の控え室でカカシさんに聞かれたことだ。
「そのときにね」
すうと息を吸い込んで息を吐くカカシさん。
「他の誰かと一緒だった?誰かと買い物していたの?買い物してから、お茶か食事にでも行った?」
なんかカカシさん、詳しいなあ。
俺の顔色を読んだのか、カカシさんが言い訳めいたことを言う。
「任務のときに里から来た伝令の忍が、イルカ先生のことを知っていて里で見掛けたので教えてくれたんですよ。断じて、俺が調べたわけじゃありません」
罰が悪そうな顔になっている。
「俺のいない間、イルカ先生が他の男とデートして、楽しそうに相手に服を選んだりしていたって。それから、お茶に誘われていたのを見たって」
「それって・・・」
かなり違うんだけど。
「それを聞いて俺は」
カカシさんは、ぐっと拳を握り締める。
「男性向けの雑誌といい、俺がいない間に他の男と楽しそうにしていると聞いて」
拳を握り締めたカカシさんが俺に詰め寄ってくる。
お互いの膝頭がぶつかった。
「イルカ先生は俺のこと・・・」
すっとカカシさんから表情が消えた。
さっきとは打って変わって悲しそうな声がする。
「俺のこと、飽きちゃったのかなって」
「え・・・」
俺は目を、ぱちぱちさせた。
「飽きる?」
飽きる、って何?
「イルカ先生が俺のこと飽きちゃったから、他の人がいいのかなあって思って」
任務中、そんなことずっと考えていたんです。
だからか・・・。
だから任務中、カカシさんはイライラ、ピリピリしていたのか。
俺が原因だったのか。
悪いことをしてしまった。
誤解させるようなことをして。
カカシさんを悲しませるようなことを。
「ごめんなさい、カカシさん」
俺は素直に謝った。
項垂れた俺の頭を撫でてくれるカカシさん。
優しい。
優しい人だ。
俺は搾り出すように声を出した。
「俺がカカシさんに飽きるだなんて、そんなこと絶対にないです」
だって、こんなに好きなのに。
「買い物に行ったのは個人的に欲しい物があったからです」
それに。
「楽しかったのは目的のものが手に入ったからで、他の人と買い物を楽しんでいた訳じゃありません」
だいたいにして洋服も選んでないし。
「買い物したら、偶然、知り合いに会って洋服を買うんだけど、どっちがいいと言われたけど選べませんでした」
あのセンスにはついていけなかったし。
「確かに、お茶に誘われましたけど荷物で両手が塞がっていたので行きませんでした」
これが真実だ。
カカシさんは信じてくれるかな・・・。
顔を上げるとカカシさんの困ったような顔がある。
信じてもらえないのかな。
あ、そうだ。
俺は思い出した。
押入れに買った物を入れておいたっけ・・・。
って、ここは俺んちじゃなかった・・・。
何で、俺んちじゃないんだあ!
「信じてください、カカシさん!」
「もちろん」
すっと伸びたカカシさんの手が俺の頬を滑っていく。
「信じますよ、イルカ先生の言うことは総て、全部」
頬を滑った手が耳を触る。
「任務先で話を聞いたとき、俺はイルカ先生はそんなことしないって思いました。相手が上手いこといって、イルカ先生を騙したか何かしたと思ったんです」
ただ、嫉妬はものすごかったですけどね、と。
「ねえ、イルカ先生」
耳を触られたまま、カカシさんが耳元で囁く。
声が変な風に響いてきて、ぞくっとなった。
「お願いがあるんだけど」
お願い・・・。
「キスしてもいい?」
キスしたい。
キスするよ。
ああ、と俺は目を閉じた。
セクシーって姿や形、見た目や雰囲気だけでもなく。
声だけでもセクシーだと感じるものなんだなって。
セクシーって奥が深い。
俺の唇に柔らかいものが触れた。
カカシさんの唇だ。
そういえば、カカシさんと俺って付き合ってからキスしたことがなかったかも。
カカシさんとの初めてのキスか・・・。
唇から伝わった熱が、だんだんと体中に回って熱くなっていく、蕩けるように。
それから先は何も考えられなくなってしまった。
花の咲く色 6
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