花の咲く色 4
いつも通りに朝、一緒に出勤して分かれ際にカカシさんが言う。
「今日も一緒に返りましょうね」
「あ、はい」
「迎えに行きますから」と。
そう言って、朝、分かれた。
・・・のに。
俺は壁に掛かっている時計を見上げた。
仕事が終わって、結構な時間が経っているのにカカシさんが来ない。
何か急用でも入ったのかな?
いつも迎えに来てもらっていることだし、偶には俺から行ってみよう。
そう考えて俺は上忍の控え室に行ってみた。
ノックをして扉を開けると人が殆どいない。
いたのは顔見知りのゲンマさんとハヤテだけだった。
「よ!」
千本を銜えたゲンマさんが手を上げる。
「イルカも誰かに用事か?」
「あ、はい、カカシさんに」
・・・も、ってことは。
げほ、とハヤテが咳をする。
「私も上忍の方に用事があったのですが、生憎といらっしゃらなくて」
ここ、控え室で待っているらしい。
「イルカも、ここで待ってけよ」
そのうち戻ってくるだろ、と。
ゲンマさんの言葉に甘えて、俺も控え室で待たせてもらうことにした。
上忍の控え室には特別上忍のゲンマさん、中忍のハヤテに同じく中忍の俺。
二人とも知らぬ仲ではない。
なので、自然と話をしていた。
世間話とかいろいろ。
ゲンマさんは話し上手で面白い。
俺は、専ら聞くほうで。
で、話を聞きながら俺はゲンマさんを見て気がついた。
ゲンマさんは額宛を頭の後ろのくるようにして、額宛の布地で頭を覆うようにしている。
髪を下ろして。
ハヤテも頭を布地で覆うようにしているが、額宛は前にくるようにしていて。
髪は、やはり下ろしている。
ふーむ・・・。
二人を見て俺は思った。
少し額宛の仕様を変えて、髪を下ろしたら俺もセクシーとやらに近づけるかなあと。
二人とも髪は項まで、さらりと下ろして流している。
髪と項。
そういえば・・・。
俺は思い出していた。
夏にお祭りに行ったとき、もちろん、カカシさんと一緒に行ったのだけれど。
浴衣を着たときに、項が露わになった。
髪は結っていたが頭の上じゃなくて、下の方。
項の方で結んでいた。
そんな俺を見て、やたらカカシさんが騒いでいた。
騒いでいたっていうか、嬉しそうにしていた。
「イルカ先生が項を出すとドキドキします!」とか。
「項に落ちる髪っていいですね!」とか。
冗談で言っているんだとばかり思っていたのだが、今になって考えると、どうやらカカシさんは本気で言っていたようだ。
だって、まさか、男同士で浴衣着て、それを見てドキドキってないだろう。
浴衣を着たカカシさんは胸元ちらりで、見えた鎖骨がセクシーだったが・・・。
そんなことを考えていると顔が熱くなってきた。
こんな場所で俺ってやつは何を考えているんだ。
だいたいにして俺なんかより、カカシさんの浴衣姿にドキドキだっての。
「あれ?イルカ、顔が赤くない?」
ゲンマさんが的確に指摘されて俺は笑って誤魔化した。
「あ、はははは〜。そうですか。部屋が暑いからかな?」
「別に部屋は暑くないですよ」
俺の横にいるハヤテが、これまた的確に指摘する。
「部屋の温度計は適温を示してします」
・・・話題を変えよう。
「あの、お二人の額宛の仕方って独特ですよね」
「額宛?」
「はあ?」
唐突に話題を変えたもんだから、不審がられた・・・。
「えーっと、どうして、そんな額宛の仕方なんですか」
無理やり話題を振る。
「あー、俺は何となく」
「私は一番、簡単だからですかね」
何となく、簡単・・・。
俺も簡単だから、今の額宛の仕方をしている。
単に額に巻きつけるという。
でも、ゲンマさんやハヤテの仕方の方が簡単なのかな。
「頭の保護も出来ますし、それに髪が邪魔にならないのがいいところでしょうか」
「あ、そうそう。任務中や戦闘中、髪が邪魔にならないってのがポイントかな」
「へえ、そうなんですか」
俺も髪が邪魔にならないように一つに結んでいるけど。
ちょっと俺もやってみようかな・・・。
ゲンマさんとハヤテのように頭を覆うような額宛の仕方を。
項に髪って気になるし、もしかして万が一だけどセクシーになるかもしれないし。
額宛を外して、頭の上で結っていた髪を解く。
ちなみに今日の髪はカカシさんが結ってくれた。
カカシさんは器用で上手い。
結っている紐を解くと髪が肩に、ばらばらと雪崩れ落ちてくる。
それを見たゲンマさんとハヤテは意外なことを言ってきた。
「髪を下ろすと印象変わるな、イルカ」
「結構、髪が長いんですね」
下ろした髪は肩よりも長い。
しかも俺の下ろした髪を二人して興味深そうに触る。
「お!すげー、さらさら!手入れしてんだな」
「本当ですね、艶があります」
女の人みたいな髪ですね、って。
それは、実はカカシさんのお陰。
カカシさんと付き合ってから、今まで使っていたシャンプーの銘柄を変えられた。
「こっちの方がイルカ先生の髪質に合いますよ」って。
髪質なんて考えたこともなかった俺は単に値段だけ見て、その時に安いシャンプーを使っていた。
だって、髪の事なんか気にしたことなかったから。
すごい適当だった。
だけど、カカシさんが勧めるシャンプーを使うようになって髪が劇的に変化したんだよね。
さらさらの艶々になっちゃって。
これには俺も、びっくり。
シャンプー一つで髪って変わるんだ〜と。
まあ、シャンプーだけじゃなくてリンスやらトリートメントやらもやっているけど、カカシさんの勧めで。
なので、俺の髪を褒めてくれるとしたら、それは総てカカシさんのお陰なんだ。
ゲンマさんとハヤテが俺の髪を触って面白がっていると、急に殺気立ったような鋭い気配が廊下からした。
ばばーんっと控え室の扉が開いて。
そこには仁王立ちする怖い顔のカカシさんが立っていた。
「あ、カカシさん」
カカシさんは怖い顔のまま、つかつかと俺の方へ来るとゲンマさんとハヤテを睨みつけた。
そんでもって俺の手首を掴んで、ぐいっと引っ張り。
引っ張られるまま、俺は立ち上がってカカシさんの方へ体を寄せられる。
「イルカ先生に触らないで」
すっごい低い声のカカシさん。
声の調子で怒っているのが解る。
・・・でも、なんで?
「俺のいるところでも俺のいないところでも、イルカ先生に触らないで。触ったら・・・」
皆まで言うことはせずに、カカシさんはゲンマさんとハヤテを鋭い目つきで一瞥し、掴んでいた俺の手首をそのままに控え室を出た。
俺はされるがまま。
ゲンマさんとハヤテは状況が判らずに呆然とした感じで。
俺も何が何だか判らない。
カカシさんが、どうしてこんな態度を取るのか、さっぱり見当がつかなかった。
引っ張られて外に出ると、やっとカカシさんは手首を離してくれた。
手首を離して、手を握られる。
「ごめんね、イルカ先生」
痛かった?と聞いてくるカカシさんは、いつものカカシさんだった。
「いえ、大丈夫ですよ」
ちょっぴり痛かったけど。
絶対に離すもんか、という強い意思が伝わってきて、手首を凄い力で握られても何も言えなかった。
・・・そんなことをするには、きっと何か理由があるだろう。
カカシさんが意味なく、そんなことするはずはない。
あの場から連れ出されたのだって、理由があるはず。
「迎えに行けなくてすみません」
任務の打ち合わせが入ったらしい。
「しょうがないですよ、そんな時もありますから」
何しろカカシさんは忙しい人だから。
「また、明日から任務なんです。しかも早出なんです」
カカシさんは悲しそうな顔になる。
任務、任務で大変だな、カカシさん。
俺は繋いだ手を握り返した。
「大変ですね」
「はい」
「怪我に気をつけてくださいね」
それと忙しいと体調も心配だ。
「今日は夕飯どうします?」
帰って作って食べるには少々、遅い時間のような。
明日も任務のカカシさんは早く休んだ方がいいだろう。
「食べて帰りましょうか」
その方が手っ取り早いしと思って提案したら、激しく拒否された。
「家に帰って食べましょう、イルカ先生と二人きりがいいです」
「そうですか、食べるの遅くなると睡眠時間が削られて明日の任務に支障が出るんじゃ・・・」
「だったら、買って帰りましょう!」
カカシさんは今日に限って、外で食べるのが嫌みたい。
それなら、それでいいけど。
結局、夕飯を買って帰って食べて、風呂に入って寝た。
寝るときはカカシさんと一緒に寝ているが、その日はやけに、ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
息が出来なくなるくらい抱きしめられて。
・・・カカシさん、どうしたんだろ。
任務前で何が不安あるのかなあ・・・。
「イルカ先生」
俺を抱きしめているカカシさんが眠りに落ちる直前、耳元で囁いた。
「どこにも行かないでくださいね」
胸を締め付けられるような、切ない囁き声だった。
「俺を置いて、どこにも行かないで」
カカシさん。
カカシさんを置いて、俺がどこかに行くはずなんかない。
告白はカカシさんからだったけれど、俺も今ではカカシさんがとっても好きだから。
どこにも行かないから安心してください。
カカシさんの傍にいますから。
そう伝えたかったのだけど、眠りには勝てず眠ってしまった。
朝、起きるとカカシさんの姿はどこにもなかった。
花の咲く色 3
花の咲く色 5
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