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花の咲く色 15



「イルカ先生、大丈夫ですか」
心配そうな顔してカカシさんが尋ねてくる。
今日の朝も、一緒に途中まで出勤して、今は分かれ際。
「朝から、こんなに怪我をして」
そっと伸ばしてきた手が俺の頬に触れた。
もう片方の手は怪我した手を握っている。
「怪我っていっても」
俺は「あははは」と苦笑い。
「掠り傷ですよ〜」
ちょっと包丁で切って、熱湯が足にかかって、剃刀で頬を切っただけだ。
心配無用ですと言ったのだが、カカシさんの顔は曇ったまま。
「イルカ先生、今日は厄日なんですかねえ」
なかなか、俺の手を離してくれない。
「いっそのこと、今日は仕事休んだらどうです?」
仕事休んで俺の傍にいるってのは?
そんなことを言われてしまった。
「大丈夫ですって」
俺は握られている手を、きゅっと握り返した。
カカシさんに安心してもらえるように。
「こんな怪我くらいで仕事なんて休めませんよ。それに俺だって、大人なんですから、何かあれば自分で対処できますから」
「でもねえ」
「俺を信じてくださいって」
俺は、にっこり笑って見せた。



・・・カカシさんの予感というか予言は当たっていた、としか言いようがない。
その日、仕事をしてみて俺は思った。
今日は厄日だと。
仕事をすれば書類が見つからなくて変な場所から発見されたり、連絡したしないで仕事は滞るしで。
散々だった。
極めつけはアカデミーでの実習で、小さな事故が起こってしまったことだ。
これには俺も落ち込んだ。
実習と言うのは、実際に忍具を使った模擬訓練の態をしたもので、事故で怪我をしたのが俺だけだったのが幸いだった。
生徒に怪我が無くって、本当によかった。
それが午前中の出来事で、怪我した俺は午後はアカデミーの授業は外されて、資料室の整理をすることになったんだけど。
何の弾みが資料室の棚が崩れ落ちてきて、大量の書類やファイルの下敷きになってしまった。
紙って結構、重いんだって身をもって知ったのは、いい経験になった。
で、他にも細々とあったけど割愛。
夕方、会った同僚に言われた。
「今日のイルカは満身創痍だなあ」
任務に出ていないのにって。
「確かに、そうだよなあ」
俺も同意。
朝、剃刀で切った頬の、もう反対側の頬には大きなガーゼが貼られていた。
首には包帯。
手は絆創膏だらけ。
「で?今日は終わりなのか?」
「いや、これから受付」
「大変だなあ」
そう言う同僚も俺と一緒に受付所勤務。
「ま、こんな日もあるさ」
「それもそうだな」
同僚と肩を並べて受付所までの廊下を歩きながら、世間話に興じた。



受付所の仕事が何事も無く進み、俺はほっとしていた。
この分なら無事に受付所の仕事は終わるな。
厄日な今日は、もう終わったのかも。
しかし・・・。
油断してしまったのが敗因なのか、心に隙ができたのか。
事故に続いて、事件が起きてしまった。
不運とも思える事件が。
こんなときに限って、受付所には俺と同僚の二人きり。
火影さまはいなかった。
まあ、常に受付所に居る訳じゃないしね、忙しい方だし。
起こったことは受付所を担当している自分たちで何とかするはずない。
事の起こりは窓だった。
夕方、混んでいた受付所は人の熱気で空気が淀んでいたらしい。
気を利かせてくれた誰かが窓を開け空気を入れ替えてくれようとしたのだが・・・。
窓を開けた途端に受付所内に季節外れの突風が舞い込んで、ちょっとした騒ぎになった。
何しろ突風、強い風。
受付所は報告書という紙がいっぱいで、その紙が受付所の中を突風で舞い散るさまは、ちょっとした見ものだった。
報告書を提出予定の人たちが手にしていた報告書も、突風によって自分の手から離れて行方不明。
突風が過ぎ去った後の受付序内は、ひっちゃかめっちゃかだった。
酷い有様で、これを誰がどうやって綺麗にするのか、考えただけで気が滅入った。
・・・やるのは俺たち、受付所担当の中忍なんだけどね。
「やれやれ」
同僚は肩を竦めた。
「こんなことは初めてだぜ」
「全くだ」
「まああ、片付けをやるしかないけどな」
「うん」
で、手分けして報告書をかき集めて、最初から整理して。
手が空いている中忍らが手伝ってくれたけど、それでも片付けして総てを元通りにするのに、かなりの時間が掛かってしまった。
自分の受付担当の終了時間を大幅に超えて。
そして、その間、俺を迎えにきたカカシさんは辛抱強く待っていてくれたのだった。



「お待たせしてすみません」
漸く、総てが終わったときはカカシさんが迎えてに来てくれてから、一時間は経過していた。
絶対に待たせると思ったから、先に帰っていてくれるように頼んだのだけれど、カカシさんは頑として首を縦に振らなかった。
「上忍の控え室で待っていますから」
本当は片付けを手伝いたいけど、俺は受付所の仕組みや流れがよく分かってないから。
逆に足を引っ張ると思ったらしい。
上忍だし、周りの中忍も気を遣うだろうと気を遣われてしまった。
「いいえ」
片付けが終わると、超特急で上忍の控え室に向かった。
カカシさんは読んでいた本を閉じて、立ち上がる。
「じゃ、帰りましょうか」
「はい」
立ち上がって俺の方へ来たカカシさんが、俺を見つめる。
「・・・たくさん、怪我してしまいましたね」
悲しそうだ。
「痛かった?」
頬に貼られたガーゼに首の包帯、手に貼られた絆創膏を悲しげに見ている。
別にカカシさんの所為じゃないのに。
俺の不注意と運が悪かっただけなのに。
「俺が朝、厄日なんて言ってしまったばっかりに」
カカシさんは朝の発言を気にしていた。
言葉に力が宿るいう意味の言霊ってあるからなあ。
「気にしないでください」
俺は努めて明るく言った。
「カカシさんが言ったことと俺の怪我は全く関係ありませんから」
ほんと、気にすることはない。
「お腹、空いちゃいましたね。何か食べて帰りましょうか」 話題を逸らす。
「俺、がっつりしたもの食べたいなあ」なんて言ってみた。
実際、お腹がぺこぺこだったし。
「じゃ、美味しいもの食べに行きましょうか」
やっと笑ってくれたカカシさんが俺の手を取った。
痛くないようになのか、力を入れないように器用に握ってくる。
カカシさんは優しいなあ。



その夜。
カカシさんは苦悩していた。
怪我をした箇所を風呂上りにカカシさんが再度、消毒してくれて処置をしてくれていた最中に。
「イルカ先生、痛そうですね」
俺より痛々しそうな顔をしているカカシさん。
まるで、自分が怪我したみたいに。
そんなに痛くはないんだけど・・・。
痛くはないんだけど、消毒液がぴりっと傷口に沁みて、俺は小さく声を上げてしまった。
「あ・・・」
消毒した箇所が白く泡立つ。
それをカカシさんは丁寧に拭って、ガーゼを貼ってくれて。
その後に苦悩していたのだ。
「ああっ、イルカ先生が怪我をして苦しんでいるのに、俺ってやつは!」
頭を抱えていた。
「消毒して痛がるイルカ先生を色っぽいとか思ってしまうなんて!」
それは・・・。 「しかも怪我して包帯を巻いているイルカ先生をセクシーだと思ってしまうなんて!」
うーん・・・。
「いつもと違う、傷だらけのイルカ先生に色々感じてしまうなんて!」
色々って・・・。
よく解らないけど俺が怪我したことによって、別の世界に旅立ってしまったのか、それとも元から素質があったのか・・・。
カカシさん、特殊な嗜好に目覚めたのかなあ〜。
とはいえ、どんなカカシさんも好きだから、特に問題は無かった。






花の咲く色 14
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