花の咲く色 11
夜道をカカシさんと並んで歩く。
同じくらいの慎重なので肩の高さが同じくらい。
横を向くとカカシさんの顔が見える、って、いいね。
自然と、にこにこしてしまう。
「ん?イルカ先生、何かいいことありました?」
俺が、にこにこしているのでカカシさんが訊いてきた。
「え、あー・・・」
「俺にも教えてくださいよ〜」
ぴたっとカカシさんが歩きながら、肩を寄せてきた。
「いいことっていうか」
何ていうか。
「隣にカカシさんがいて、顔が見えるのがいいなあ〜って」
それだけだ。
それだけなんだけど、それがとっても嬉しいんだよなあ。
「そっか〜」
誰もいない夜道。
カカシさんが、そっと俺の手を握ってきた。
「俺もですよ、イルカ先生」
そう言ったカカシさんも、にこにこしていた。
家に到着する。
俺の家だ。
一日ぶりの我が家。
中に入ると、一日の不在だけで家が妙に懐かしく感じるのは何故だろう。
たった一日で俺が、そう感じると言うことは自分の家に殆ど返っていないカカシさんは・・・。
「自分ちが一番、落ち着きますねえ」と伸びをして、ベストを脱ぐと手馴れた様子でハンガーに掛け、台所にお茶を淹れに行ってしまった。
・・・俺より俺の家に馴染んでいるかもしれない。
「はい、酔い覚ましにお茶ですよ〜」
濃い目のお茶を淹れてくれたので、有り難くいただく。
「あー、美味しい」
熱いお茶に、ほっとする。
「イルカ先生、そんなに飲んでいませんか?」
「え?ああ、そうですね」
今日は、そんなに飲まなかったなあ。
「カカシさんは?二次会とかなかったんですか」
「ああ、有りましたけどね」
ずずっとカカシさんが、お茶を啜った。
「気分じゃないので止めました」
・・・俺がいたからかな。
「イルカ先生と帰りたかったし」
ま、まあ、俺と離れたくないって、カカシさんも言っていたし。
気分じゃないなら、しょうがない。
「ねえ、イルカ先生」
ぐっとカカシさんがテーブルに身を乗り出してきた。
「もしも、これから何かあったら必ず、俺を呼んでくださいね」
どこに居ても呼ばれれば絶対に駆けつけますから。
「何かって何です?」
里内で危険なことなんてないだろう、油断は禁物だけど。
「いや、まあねえ」
カカシさんは言葉を濁した。
「例えばの話ですよ、例えばの。でも、心に留めておいてくださいね。それから、身辺に気をつけて」
「はあ」
「あ、お風呂沸かしてきますね」
話を打ち切るようにカカシさんは風呂場に行ってしまった。
何かって、何かあるのかな・・・。
カカシさんは予兆みたいなものを察知したのだろうか。
俺だって忍だし、危険があれば自分の力で回避することが出来ると思う。
が、しかし。
カカシさんを呼んだら本当に駆けつけてくれるのか、一度、試してみたくなった俺だった。
次の日の朝。
カカシさんに揺り起こされた。
「おはよ〜、イルカ先生、朝ですよ〜」
「うー・・・」
しょぼしょぼする目を無理やり開ける。
「おはよう、ございます」
俺が覚醒したのを見て、カカシさんが微笑んだ。
もう忍服に着替えている。
今日は上半身裸のセクシーなカカシさんを見損なった。
いつもいつも思うが、カカシさんは何で俺より早く起きているんだろう。
最初の頃は寝起きが悪かったのに。
俺が先に起きてカカシさんを起こしていたのに。
いつの間にやら、逆転していた。
「それはねえ」
つ、とカカシさんが俺の頬を突付く。
「起こされるのもいいけれど、起こす方が何倍もいいって気がついたからですよ」
いいって何が?
「先に起きたらイルカ先生の寝顔を見れるでしょ。起きたばかりのイルカ先生って警戒心ゼロでしょ、警戒心ゼロだとわくわくするでしょ」
・・・最後の方は変なのが混じっていた気がする。
「さ、起きてください。朝ご飯、食べましょ」
俺の額に落ちていた髪をかき上げるとカカシさんは、そこにキスを落とす。
それから、いつもの美味しいご飯を食べて出勤。
出勤して分かれ間際のカカシさんのいつもの台詞。
「今日も迎えに行きますからね」
「はーい」
「今日は一日、アカデミーでしたっけ?」
「実は変更になって、アカデミーに顔出ししたら、今日は一日中、受付所です」
「了解〜」
だけど今日は、ちょっと台詞が違っていた。
「昨日も言いましたけど、何かあったら俺を呼んでくださいよ」
「はい」
「約束ですからね。何事にも気をつけて行動してください」
くどいくらいに念を押されて、指切り拳万をして分かれた。
そして今、俺は受付所で仕事中。
受付所で仕事だけど、受付の係ばかりが仕事じゃない。
受け取った報告書の整理、処理とか。
受付所の係のシフトを決めたりと仕事は尽きない。
処理の終わった報告書をファイルに閉じて、それを書庫に運んだり。
何げに忙しい。
「んじゃ、俺、書庫に行ってくるから。ついでに書庫も整理してくる」
両手にファイルを抱えて、他の受付所勤務の同僚に言い残すと俺は廊下に出た。
山となったファイルは紙なので、かなり重い。
「・・・持ち過ぎたかな」
書庫までは結構な距離だ。
廊下を歩いて、角を曲がって、階段を上って下りて、また上って。
やっと書庫だ、と思ったら誰かに呼び止めれた。
「イルカ先生、ちょっといいかな?」
聞き慣れない声。
急に現れた気配に内心、びっくりしたが表情には出なかった。
誰だろう、と声のした方を見ると、そこには・・・。
昨日、会った例の上忍が立っていた。
くの一の先生たちが、きゃーきゃー騒いでいた上忍の人。
何で、こんなところにいるんだろう。
心の中で身構える。
書庫のある場所は受付所のある棟とは別棟で、書庫や資料室が乱立してる滅多に人の来ない場所だ。
何か調べ物をしていたのかなあ。
「はい、何でしょうか?」
上忍の方なので、失礼のないように受け答えする。
そして、ちょっとだけ怖い・・・。
昨日、視線に不気味なものを感じてしまったから。
あれは、いったい何だったのかな。
立ち止まって言葉を待っていると、抱えていたファイルが重くなってきた。
書庫は目の前なのに〜。
早く、これを置きたい。
腕が、ぷるぷるしてくる。
「訊きたいことがあるんだが」
「はい」
訊きたいこと?俺に?
・・・俺に、じゃないよな。
だって昨日、会ったばっかりだし、碌に話していないし、接点ないし。
もしかして〜。
俺の鋭い勘が、ぴんときた。
「カカじゃなくて、はたけ上忍に御用ですか?」
「え、はたけ・・・」
カカシさんに用事なら納得できる。
昨日はカカシさんに連れられて飲み会に行ったし、隣に座っていたし。
仲がいいと思われたのかもしれない。
何故、俺経由でカカシさんなのかは皆目見当つかないが。
そして、あれを試すチャンスでもある。
俺はカカシさんの名を呼んだ。
「カカシさ〜ん」
あ、名前で呼んじゃったよ。
「あ、いや、そうじゃなくて・・・」
例の上忍は、あたふたしていたが、そんなことお構いなしにカカシさんが、ぼんっと白い煙の中から現れた。
「お呼びですか、御主人さま!」
満面の笑み。
本当に来てくれた、カカシさん!
呼んだだけなのにすごい!
ってか、御主人さまって誰・・・。
呆然とする俺からカカシさんは「重かったでしょ」と手に持っていたファイルを半分、奪い取った。
いや、荷物持ちで呼んだんじゃないし。
「あの、こちらの上忍がカカじゃなくて、はたけ上忍に御用があると」
「あー、そうなんだ〜」
全く感情の入ってない棒読み・・・。
「で、俺に何か用?」
俺には春の日差しのように、にこやかに対応してくれたのに打って変わって冷たい冬の北風の如く、超冷たいカカシさん。
「別に」
例の上忍は、くるりと踵を返すを瞬く間に姿を消した。
いったい、何だったんだ、あの人は。
首を傾げているとカカシさんに軽く睨まれた。
「イルカ先生、気をつけてって言ったでしょ。だけど、俺との約束を覚えていてくれて、呼んでくれたのは嬉しいです」
ちょっと叱られて、褒められた。
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