青春時代 2
「違うって、カカシ。これは自分でやったんだけど。」
ぎゅうぎゅうと抱き締めてくるカカシを右手で押し返しながら叫ぶ。
しかしカカシは馬鹿力でびくともしない。
雁字搦めなのに、怪我した手には気を遣って触れないのが小憎らしい。
「やっぱり自分でやったんだ。」
寂しかったんだね、俺が傍にいてあげるなんて言いながら。
カカシが負けじとぎゅうぎゅうを抱き締めてくる。
「任務中に怪我したの!ちょうど鎌を持っていて手が滑ったんだ!」
それだけなんだ、と言ったはずなのに。
「俺がイルカを守ってあげるからね、もう大丈夫、安心して。」
何言ってんだ!
右腕だけじゃ押し返せなかったので、俺は足蹴りをカカシに繰り出した。
余裕で避けられたけど。
「話聞けって。これは、任務中に事故で怪我したの!分かる?」
漸く、カカシは俺の話を聞いてくれて。
聞いた後。
「ドジだなあ。」と一言、感想を述べてくれた。
勿論、俺は直ぐさま足蹴りを繰り出したが、またまた余裕で避けられた。
それからカカシは嬉々として。
「じゃあ、俺が今日からイルカの家に泊まりこんで面倒を見るよ。」
そう言って、にんまりとした。
カカシは知り合ってから、時々俺のうちに来て俺の作った飯を食べて、時々泊まっていく。
カカシも料理が作れないわけじゃなく、どちらかというと俺が作るより旨いものを作る。
初めて食べさせてもらった時は感動した。
同じ材料使っても、作る人によってこんなにも味は変わるのかって。
それから、ものすごく久方ぶりに自分の作ったもの以外を食べたことに。
でも、まあ。
カカシは俺が飯を作った直後に来ることが多いので、必然的にカカシは俺の作った飯を食べることになるのだ。
カカシは例え失敗作で不味くても文句も言わないで、お代わりさえしてくる。
もしかして味覚が鈍いのかな?
ちょっと心配。
そんなことを考えながら、俺のうちの台所に立つカカシの後姿を居間から、ぼーっと見ていた。
断ったのに結局カカシは、うちに来た。
心配だからイルカの傍にいたいんだ。
ちょっとでいいからイルカの役に立ちたいんだ。
そんな言葉に絆されたのかもしれない。
怪我をして、ほんのちょっとだけ気弱になってるのかも。
自分では気づかないうちに。
いつもは何でも自分でやれるし出来るのに。
「さあ、できたよ〜。」
カカシが熱そうな鍋を居間に持ってきた。
「今夜は、カカシ特製の。」
にっこり笑って鍋を小さいテーブルの上に置く。
ぱかっと蓋を開いた。
「お粥でーす。」
湯気共に、いい匂いが漂ってきた。
美味しそう。
でも何でお粥?
病人じゃないのに。
「あー、何でお粥かっていうとね。」
カカシがお粥を椀によそって俺に寄越す。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
受け取ると、お腹がぐーっとなった。
「あはは、食欲はあるみたいだね。」
良かった、とカカシは言い、自分の分のお粥を椀によそう。
二人で「いただきます。」と手を合わせて食べ始めた。
一口、お粥を口に入れると、ほわんと優しい味が口の中に広がった。
「美味しい〜。」
思わず笑顔になる。 美味しいものは人を豊かにするな。
「たくさん食べてね。」
カカシもお粥を口に入れた。
「ん、美味し。イルカ、熱が出てきたみたいだから消化にいいものを食べてもらおうと思ってさ。」
「熱?」
「うん、まだ微熱だから分からないみたいだけど。」
家に帰ってくるときに手を繋いでいたでしょ?その手が少し熱くなっていたから、と言う。
俺の体のことを俺より分かるなんて。
人体については敏感なんだな。
さすが上忍だな〜。
「ご飯食べたら、今日はお風呂はやめて薬を飲んで寝るんだよ。分かった?」
なんだか、お母さんみたいだ。
「後で体を隅々まで拭いてあげるからね。」
お母さんみたいだと思ったのは錯覚だった。
「自分でできるよ。」
やんわり断ってお粥をお代わりした。
その晩。
なかなか眠れなかった。
寝つきが悪いというやつだ。
寝苦しくて何度も寝返りをうって寝心地のいい場所を探すが見つからない。
枕も布団も、いつもと同じなのに、いつもと違うような感じる。
俺って、一度寝たら朝まで寝れる体質なのにな。
「うーん。」
思わず唸ると隣の布団で寝ていたカカシが、むくりと起きた。
「イルカ?」
暗闇から心配げな声。
「何でもない。」
俺はカカシに背を向けた。
余計な気遣いは無用だ。
カカシも明日任務があるだろうし。
そうだ、何か飲んだら寝れるかも。
冷たいものが、ちょっと欲しいし。
喉も渇いた。
そう思って、俺は起き上がろうとしたのだが。
布団の上から起き上がれなかった。
青春時代 1
青春時代 3
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