気がついた、その二人!
紅がカカシにイルカとの関係を訊いてから一ヶ月ほどが過ぎた。
今日もイルカは上忍の控え室に書類を届けに来ていた。
働き者である。
控え室には幸運なことにカカシ、紅、アスマの三人しかいなかった。
イルカは紅とアスマに書類を渡すと最後にカカシに書類を渡していた。
「こちらをどうぞ、カカシ先生」
にこやかに書類を差し出すイルカにカカシも、にこやかに応対する。
「いつもありがとう、イルカ先生」
二人は目を合わせて微笑んでいた。
紅とアスマは見てはならぬと思いながらも目が離せない。
甘えるようにカカシが言った。
「ねえ、イルカ先生。明日のことですが」
「あ、はい」
二人は明日、何か予定を立てているようだ。
「明日の朝、俺の家に迎えに来てくれるって言っていたけど今晩から俺の家に泊まったらどうですか?」
「え、でも、ご迷惑では・・・」
「ぜーんぜん」
カカシは首を振る。
カカシの手が例によってイルカの手を掴んで握っていた。
しかも指を絡ませて。
「その方が早く出掛けられるし、なによりイルカ先生と一緒にいられるし」
迷惑だなんてとんでもない、とカカシは首を振っている。
「一つのベッドで二人で寝るとあったかいしねえ」
カカシが、そう発言した時、アスマがタバコの煙を吸い込んで激しく咳き込んだ。
紅も飲んでいたお茶を噴き出している。
でもカカシは気がつかない。
イルカだけを見て熱心に話していた。
「あ、夕飯は俺が作りますよ〜。この前、イルカ先生の家でご馳走になってしまったし」
イルカ先生の飲みたいって言っていたお酒もあります、とカカシは、
ぐいぐいとイルカを押している。
とうとう、カカシに押し切られたイルカは頷いた。
「では、お邪魔させていただきます」
「そうですか!」
ぱっとカカシの顔が輝く。
「だったら帰りは一緒に帰りましょうね。俺、待ってますから」
「遅くなるかもしれないですけど、いいですか?」
「イルカ先生を待つのなら何時間でも待てますから大丈夫ですよ」
カカシの言葉に薄く頬を染めたイルカはカカシに「また、あとで」と言い、
紅とアスマに一礼すると上忍の控え室を出て行った。
それを軽く手を振って見送るカカシ。
とても嬉しそうであった。
ふわわーんとカカシの周りには甘い空気が漂っている。
むせ返るような、とろりとした甘さの空気だ。
その空気に中てられて紅とアスマは心中、本当にむせていた。
気のせいか動悸、息切れ、目眩がする。
カカシとイルカは二人一緒にいると、それだけで周囲を惑わせる効果があるらしい。
甘い空気が目には見えない強力な武器となって周囲を翻弄するのだ。
とりあえず上忍の意地で平静を取り戻した紅とアスマはカカシに言った。
「それはやめなさい!」
「それ、やめろ!」
「え、なにが?」
カカシは、さっぱり解っていない。
「やめるって何のこと?」
きょとんと首を傾げている。
「イルカといちゃつくのを、よ!」
「いかにもラブラブってのを見せ付けるのを、だ!」
紅とアスマに口々に言われたのだがカカシは全く解っていなかった。
ただ、一言、言ったのだ。
「そーんなことしてないよ」と。
「じゃあ、さっきのイルカとの会話は何よ?」
紅は言及した。
「一つのベッドで二人で寝るって、どういうこと?」
「だって俺の家、ベッド一つしかないからさ」
「イルカの家で夕飯をご馳走になったってのは?」
「ああ、外で食べるよりお互いの家で食べた方が変な邪魔が入らないからね」
「出掛けるって言っていたけどイルカと二人だけで?」
「そうだ〜よ、明日はイルカ先生と二人だけで出掛ける予定なの」
何を言ってもカカシは、さらりと返してくる。
だいたいにして二人だけで出掛けるというのは言い方を変えれば、デートに他ならない。
「じゃ、じゃあ、あのイルカと指を絡めていたのは?」
決定的なことを紅は訊く。
ただ手を握るのではなく、指を絡めていたのを確かに見た。
そんなの恋慕している相手にしかしない。
カカシはいったい、どう答えるのか。
やはり、カカシはさらりと言った。
「友人としてのスキンシップだ〜よ」
そんなスキンシップあるか・・・。
「ねえ、そんなことより俺とイルカ先生の男同士の友情に干渉しないでくれる?」
真面目な顔したカカシは本気で言っている。
ぐたり、と紅は疲れてしまった。
傍で聞いていたアスマもである。
なんか、もう駄目だ、とそんな気分であった。
カカシとイルカは、この一ヶ月でより親密になった、つまり進展があったのは解った。
けれど・・・。
紅とアスマは同時に溜め息を吐き、肩を落とした。
二人は相手のことを、友人としか認識していないのだ。
本当に、そう思っているだけに性質が悪い。
周りへの影響を、ちっとも考えてはいないのだ。
友人だと言いながら無意識にいちゃついて無自覚でラブラブなのを見せ付けているのを解っていない。
紅は思い切ってあることを言ってみた。
とぼけた顔したカカシの顔を見ながら。
「カカシとイルカは友人なのよね。もしもよ、もしも。
イルカに好きな人が出来たらカカシはイルカを、その人に譲るわけ?」
「譲るって何」
明らかにカカシは、むっとしている。
「イルカ先生は物じゃないし、譲るとか譲らないとかないでしょ」
至極もっともなことを言っていた。
「それに俺はイルカ先生がいれば恋人なんていらないし、イルカ先生も俺にそう言ってくれたよ」
静かにカカシは事実を告げた。
「俺にとってイルカ先生が一番、大事な人だから」
イルカもカカシのことを、そう思ってくれている。
「それって・・・」
「それは・・・」
上忍の控え室に、しばし沈黙が舞い降りた。
沈黙が重苦しく感じたのは紅とアスマだけだろう。
当のカカシは面白くなさそうな顔をして紅とアスマを睨んでいる。
つまらないこと言うな、と顔に書いてあった。
「カカシ、あのなあ」
気を取り直したアスマはタバコに火を点ける。
「そういう、相手のことしか見えてない状態なことを恋をしているって言うんだぜ」
疲れたようにタバコの煙を吐き出す。
「イルカがいれば恋人いらないってことは、つまりイルカが、その恋人でも問題ないってことじゃねえか」
そうそう、と紅も頷く。
「男同士の友情があるなら、男同士の愛情があってもおかしくないわよ」
現にカカシとイルカは友情の枠を超えている。
「一番、大事な人なら友人ではなくて恋人でもいいわけでしょう」
その言葉に何かを感じとったのかカカシは少しの間、考えていた。
真剣に。
そして出た言葉は。
「そうだね、恋人がいいかもね」
嬉しそうに笑っていた。
「変に友人に拘らなくてもいいかなって思う」
やっと解ってくれた!と紅とアスマは目の前が開けた感じがした。
もう、これでいちゃつくところを見なくてもいいんだ、と。
イルカは恋人なんだと理解したカカシは大人なのだから人目のある場所では、いちゃつくのを弁えてくれるだろう。
そう思った。
「イルカ先生のこと友人として好きなのに最近、ものすごくキスしたくて堪らない時があってさ〜」
カカシは、にこにこが止まらない。
幸せそうにしている。
先ほどより甘ったるい、ふわふわとしたものがカカシの周りに漂い始めていた。
それはハートの形に見える。
「スキンシップも、もっともっとしたいとか思っちゃってね〜」
ぎゅっと抱きしめたり触ったり。
「恋人だったら我慢しなくていいんだよね、キス」
この感情は恋としてのもの、イルカは友人ではなくて恋人だと紅とアスマの努力の甲斐あって気がついてくれたものの・・・。
状況は大して変わらなかったりして。
紅とアスマの苦悩の日々は続きそうであった。
カカシとイルカは恋人になっても、やっぱり仲が良くて。
いつも一緒で睦まじく幸せそうに笑っていたのであった。
気がつくか、あの二人!
気がついてる、この二人!
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