気がついてる、この二人!
「失礼します」
夕方、イルカがノックして上忍の控え室に入ってきた。
上忍の控え室にいるのは紅にアスマ、それにカカシの三人である。
いや〜な予感がした紅が隣のアスマを見ると渋い顔をしていた。
やはりアスマもいやな予感がしているらしい。
カカシとイルカ、二人揃うと破壊力が半端ないのだ。
精神的な。
本人たちは、そのつもりがなくても周りに与える多大な影響は計り知れない。
その影響とは無自覚でいちゃついてラブラブになるのが原因だ。
紅は、そう分析している。
「カカシさん、お待たせしました」
イルカのカカシへの呼び方がいつの間にか変わっている。
以前はカカシ先生だったのに。
カカシさんと呼ぶことで、より親密さが増していた。
どうやら無事に恋人になったようなので親密なのは当たり前だろう。
「いーえ、ちっとも待っていませんよ」
にこり、と笑ったカカシがイルカを見る。
どうやらカカシは仕事の終わるイルカを上忍の控え室で待っていたらしい。
それはいい。
「イルカ先生と待つのは楽しい時間です」
恥ずかしさのてらいもなくカカシは言う。
「待っていればイルカ先生に会えるんですから」
「カカシさん」
イルカが嬉しそうにカカシを見つめ、カカシも見つめ返す。
二人の間に、ふわふわとした空気が漂い始めた。
ピンク色したハートの形の何とやらである。
しまった!
紅は心の中で叫ぶ。
早く帰ればよかったのに何で帰らなかったの、私!
カカシとイルカが仲睦まじくしている様子を見せ付けられてしまっている。
心臓に悪い。
隣のアスマも魂の抜けたような顔をしているようだったので紅と心中、同じようだ。
仲がいいのは充分、解っているから!
紅の心の中の悲鳴は続く。
後は帰ってから二人きりでやって!
心からの願いであった。
紅の願いが通じたのか、カカシとイルカは見詰め合うのを止めた。
止めたというかイルカが紅とアスマの方を向いたのである。
イルカは二人の傍に、とことこと来た。
「紅先生、アスマ先生」
名前を呼ばれて紅とアスマは、ぎくりとする。
イルカの背後ではカカシが目を光らせているから。
「なに、どうしたの?」
「なんか用か?」
尋ねるとイルカは、ごそごそと通勤用のカバンの中から何やら取り出した。
「あの、もし好かったら、これ」と何かを差し出してきた。
「お二人には日頃、お世話になっていますので感謝を込めて」
差し出してきたのは綺麗に包装されたチョコレートであった。
「チョコ?」
紅が問うとイルカが頷く。
「そうです。少しですけど」
「でも、何でだ?」
アスマも訊く。
「最近は・・・」
はにかみながらイルカは説明した。
「友達同士でのやり取りやお世話になっている人に日頃の感謝を込めてチョコを渡すのだとかで」
「ああ・・・」
紅は、やっと思い出した。
今日はバレンタインとかいう日だ。
女性がチョコレートを男性に渡して愛の告白をするという。
だが世間では今や、それだけに止まらず色んな人にチョコレートを渡す風潮があるらしい。
イルカも紅とアスマにはアカデミーでの教え子が下忍として指導を受けていることもあり、
気を遣ってチョコレートを渡しに来たらしい。
「そんな気を遣わなくてもよかったのに」
几帳面なイルカらしい配慮に紅は微笑んでしまう。
ほんとに、いい子だと。
アスマもイルカの気遣いに和んでいる。
「いいえ、いつもお二人には何かとお世話になっておりますので」
あくまでイルカは謙虚だ。
好ましい性格ともいえる。
「じゃあ、いただいておくわ」
「遠慮なく」
紅とアスマはイルカからのチョコレートを受け取った。
「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」
和やかな雰囲気を壊すような声がする。
カカシだった。
おそらく無意識に、わざとやっているのだろう。
イルカが紅、アスマと仲良くしているのを見て焼きもちを妬いているのに決まっている。
本人は、それと気がついていないが。
カカシの声にイルカはカカシの方へと振り返り「はい」と返事をした。
「帰りましょう、カカシさん」
イルカは紅とアスマに一礼する。
カカシの手は自然とイルカの手に伸びていた。
きゅっと握り締めたのを紅とアスマは、ばっちりと目撃してしまう。
イルカも自然な仕草で握り返している。
本当に羨ましいくらいに仲睦まじい二人だ。
「あー、そうだ」
上忍の控え室を出る際にカカシは紅とアスマに、にやりと笑って言った。
「そのチョコねー」
ものすごく不吉な予感した。
「俺とイルカ先生とで選んだんだよ〜ね」
そして上忍の控え室からカカシとイルカの姿は消えた。
カカシの言葉を聞いて複雑な表情になる紅とアスマ。
「・・・なんか嫌だわ」
「・・・なんか嫌だな」
イルカにもらったチョコレートを見つめる。
カカシとイルカが選んだチョコレート。
どうりでイルカがチョコを紅とアスマに渡すのを黙認していた訳だ、カカシは。
紅はアスマに訊いた。
「このチョコ、食べる?」
「うーむ」
「食べたら胸焼けしそうよね」
「まあな」
「カカシとイルカの濃厚なラブラブが、たっぷりと凝縮して入っていそうで」
それは言えるかもしれない。
このチョコを食べたら、きっと胸焼けする。
カカシとイルカのいちゃついてラブラブなのを思い出して。
上忍の控え室を出て家路を歩くカカシとイルカの影が夕日に照らされ、長く伸びている。
間にある手の影は、しっかりと繋がっていた。
「カカシさんのチョコは家に帰ってから渡しますね」
イルカがカカシに言っていた。
「俺の分もあるんですか」
カカシは少し意外そうだ。
「いらないって言ったのに。イルカ先生がいてくれれば俺は、それだけいいのに」
「まあ、いいじゃないですか」
優しくイルカは笑った。
「カカシさんのことが好きだから渡したいんです。カカシさんが甘いの苦手なの知っていますから渡すだけですけど」
「渡すだけ?」
どういう意味だろう、とカカシが眉を寄せて考えているとイルカが夕日に照らされた頬を更に赤くして、そっと呟く。
「カカシさんにチョコを渡すので、そしたら・・・」
「そしたら?」
「そのチョコを俺に食べさせてくれたらなあって」
イルカの、ほんのささやかなお願いだった。
「そんなこと」
カカシは嬉しそうに笑った。
「お安い御用です」
イルカにチョコを食べさせてあげるなんて、すごく楽しそうだ。
わくわくする。
「だったら、イルカ先生」
いたずらっ子な目つきにカカシはなる。
「チョコを食べさせてあげたら」
その続きはイルカに耳元で囁いた。
キスしてもいい?
もちろんイルカは頷いて。
カカシは早く家に帰るためにイルカの手を引く。
家では楽しいことがまっている。
とても幸せなことが。
カカシとイルカはきっと、いつまでも仲がいいに違いない。
いつまでもいつまでも。
気がついた、その二人!
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