気がつくか、あの二人!
食事を終えての帰り道。
カカシは昼間、紅に指摘されたことをイルカに話していた。
「今日ですね、紅に変なこと言われたんですよ」
「紅先生が?何を仰ったんです?」
イルカが隣を歩くカカシに顔を向ける。
「いえね、紅が俺たちが恋仲じゃないかって、そう言うんですよ」
「俺たちってカカシ先生と俺が、ってことですか」
「そうです」
渋い顔でカカシは頷く。
「仲がいいからってのが理由らしいですよ」
「へええ、紅先生が、そんなことを」
面白そうにイルカは相槌を打つ。
「女性は恋の話とか好きですよね」
「まあ、俺とイルカ先生が仲がいいのは否定しませんけど」
ちょっと目を細めてカカシはイルカを見る。
その目は優しい。
「イルカ先生といると楽しいし、気が合うってのがぴったりですね」
「ああ、解ります。俺もカカシ先生といると楽しいし、それに見習うべきところがたくさんあって
勉強になります」
謙虚にイルカは意見を述べる。
「またまた〜」
言われたカカシは満更でもなさそうだ。
「そんなこと言っても何も出ませんよ。俺の方こそ、イルカ先生が俺のことを気にしてくれていると思うと気合いが入るし」
それにね、とカカシは内緒話でもするようにイルカの耳元に囁いた。
「イルカ先生といると優しい気持ちになるんですよ。任務を終えて殺伐になった心もイルカ先生と
会うと潤うっていうか」
カカシはイルカに微笑む。
「そう、イルカ先生は俺にとっての癒しの存在です」
とても大事なね、とカカシは言う。
「そうですか・・・。だったら、いいのですが」
照れくさそうにしながらもイルカは喜んでいるようであった。
「俺が少しでもカカシ先生のお役に立てているのなら嬉しいです」
「イルカ先生しか俺のことは癒せませんよ」
カカシも嬉しそうに言った。
多分、この場に紅がいて二人の会話を聞いていたら間違いなく言っていただろう、目を吊り上げて。
それが恋ってものなのよ!とかなんとか。
幸いなことに紅はいなかった。
「あ、そういえば思い出しましたが」
今度はイルカがカカシに話す。
「以前、それに似たようなことをアスマ先生に言われたような気がします」
「アスマに?」
カカシは眉間に皺を寄せる。
「アスマが何て?余計なことを言っていましたか?失礼なことを言ったのなら
俺から厳しく注意しときますから」
注意っていうか警告ね、とカカシは物騒な顔をして笑った。
「そんな大げさなものじゃないんですよ。
カカシ先生と俺が一緒にいる姿をよく目にするから特別な関係なのかと訊かれたんです」
特別って、つまり恋人同士なのかってことを言いたかったらしいんですが、と。
アスマは暗に恋人なのか、とイルカに尋ねたらしい。
「で、イルカ先生は何て答えたんですか?」
興味津々でカカシは訊いてきた。
イルカが自分をどう思っているのか、気になるようだ。
「ええ、そのままに言いました。階級は違えど、いい友人関係にあると」
「ですよねー」
大きく頷きカカシは同意した。
「気が合うから一緒にいるだけなのに、すぐ恋だなんだのって安直ですよねえ」
「まあ、確かに。カカシ先生と俺は同性なのになあ、とは思いますけど」
アスマが訊いていたら、おそらく、こう言うだろう。
じれったい奴らだなあ、と面倒くさそうに。
幸いなことにアスマはいなかったが。
それから他愛もない世間話に花を咲かせ、二人は夜道を歩いて行く。
そして、ふと沈黙がおりた時にイルカが呟くように言った。
「カカシ先生の恋人になる人って、どんな人なんでしょうね」
「え、俺の恋人?」
眠そうな片目を、ぱっと開いてカカシはイルカを見る。
「どうしたの、突然・・・」
かなり驚いていた。
「いえ、先ほど紅先生が仰ったことが頭をよぎったものですから」
「ああ、恋仲とかってこと?」
「そうです」
イルカは小さい声になる。
「今はいいですけど・・・。いずれは、そのような関係を持つ人が現れてもおかしくないですよね」
年齢的にも、とイルカは付け加えた。
「まあ、そうかもしれませんけど」
カカシは極めて浮かない顔だ。
苦い表情をして顰め面である。
「カカシ先生の理想の人って・・・。恋人にしたい人って、どんな人なんですか?」
どのような意図か解らないがイルカが訊いてきた。
少し不安げな感じに見えるのは気の所為か。
「どんな人って、それはまあ」
返事を濁しながらカカシは立ち止まり、ほんの少ししか背の違わないイルカを正面から見据えた。
イルカも立ち止まってカカシを見る。
二人の視線が交差した。
暗い夜道は人けがなくてカカシとイルカの二人きりだった。
夜の闇にカカシの声が響く。
「恋人にしたい人なんて今のところ誰もいないよ、イルカ先生」
「・・・そうですか」
どことなく安堵したようなイルカの声が印象的だ。
「強いて言うならね」
不意を突いてカカシがイルカの腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。
ぎゅっと抱きしめる。
「イルカ先生がいれば俺はいいんです。イルカ先生が傍にいてくれたら」
それは聞き様によっては愛の告白にも聞こえた。
「イルカ先生が俺の中で一番、大切な人なんです」
「カカシ先生」
「イルカ先生がいてくれれば恋人なんていりません」
「俺も」
イルカの体が大きく震え、囁くような声がカカシの耳に届いた。
「俺もカカシ先生がいてくれれば」
それでいいです、とイルカは続けた。
そして素直にカカシに体を預けてくる。
力を抜いてカカシに抱かれるままとなっているイルカは安心した顔をしていた。
幸せそうに。
対するカカシも満たされたように穏やかな顔つきだった。
そして、この光景を紅とアスマが見ていたら。
いや紅とアスマでなくても、多分、おそらく見た者全員が言うであろう。
いい加減に気がつけ、と。
気がつけ、そこの二人!
気がついた、その二人!
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