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一度、熱が出てから俺の体は劇的に回復していった。
体が元気になることを受け入れてくれたように。
食欲も出てきて、食事の時間が待ち遠しい。
はたけ上忍も嬉しそうに回復を祝ってくれた。
「本当に良かったですね、イルカさん」
「はい、ありがとうございます」
はたけ上忍が甲斐甲斐しく見舞いに訪れてて看病してくれたのも回復する要因の一つだと思う。
見知らぬも同然の俺に、とっても良くしてくれて。
感謝してもしきれない。
「こんなに良くなったのも、はたけ上忍のお陰です」
あとお医者さんと看護師さんと火影さまと他にも色々な人たちのお陰。
みんな恩人だ。
「いやあ、俺なんて何にもしてないですよ」
はたけ上忍は自分を謙遜している。
謙虚な人だ。
それに面倒見もよいし、家庭を持ったら良い父親になりそうだ。
「はい、イルカさん。もっと食べて」
はたけ上忍は今、俺にミカンを剥いて食べさせてくれている。
「あーん」なんて恥ずかしいことを言いながら。
こんなことするなんて子供相手か、もしくは恋人とかに対してじゃないのかな。
家族とか夫婦とか恋人とか、そんな間柄の気を許した相手に。
もっとも恋愛経験値がないに等しい俺の言うことではないが・・・。



ともかく俺は「あーん」なんて、こっぱずかしいことをして貰いながら、はたけ上忍にミカンを食べさせてもらっていた。
食事と食事の合間の間食だ。
もちろん、食べる前に自分でミカンを剥くことが出来ると主張はしたけど。
「ミカン、美味いです」
甘酸っぱい果汁が口いっぱい広がって、さっぱりと食べやすい。
「そうですか」
言いながら、はたけ上忍は俺の口に、またミカンを入れてきた。
「あーん」も忘れずに。
「あ、すみません」
口に入れてもらって、もぐもぐ咀嚼。
ミカンは既に二個目に突入していた。
「食欲、出てきましたねえ」
はたけ上忍は嬉しそう。
ミカンを剥く手は器用だ。
せっせと皮を剥いている。
「はい、イルカさん」
口元に差し出され、俺が素直に口を開けた。
ミカンが入ってきたのだが何故か、はたけ上忍の指も入ってきそうになって素早く引っ込んだ。
はたけ上忍の指を噛みそうになったが指は器用に俺の口をすり抜けて唇で止まる。
ミカンを口に入れたままの俺と俺の唇を指で触っている、はたけ上忍。
そのまま、じっとしている。
・・・何かのお呪いか?
俺が眉根を寄せると、はたけ上忍が、ふっと微笑み指を離した。
その指を自分の唇に寄せる。
「ねえ、イルカさん」
「はい?」
「イルカさんの唇を触った指で俺の指を触ったら・・・」
「触ったら?」
意味深に、はたけ上忍は自分の唇を触った。
そんでもって意味深に笑みを浮かべる。
ちょっと色っぽいような、いやらしいような気がするのは気の所為かな?
「どういうことになると思う?」
訊いてきた。
「どういうことになるって、それは・・・」
うーんと考えた。
あー、そうだ。
「ミカンの匂いがしますね」
「・・・それだけ?」
「あとは、もしも俺が風邪とか引いていたら移るかもしれませんね」
「・・・・・・それだけ?」
「はい」
「ほんっとうにそれだけ?」
「それだけですけど」
俺が答えると、はたけ上忍は明らかに、がっくりと肩を落とした。
見るからに残念そうに。



「あ、あの、どうかしましたか。具合でも悪いんですか?」
急に消沈した、はたけ上忍に俺は慌てた。
この人、疲れていて体調でも崩したのかと。
無理して、ここに来てくれているみたいだし。
「医者を呼びますか?」
俺が病室に備え付けのボタンを押して呼ぼうとすると、はたけ上忍が押しとどめた。
「いえ、いいんです・・・」
「でも」
「これは医者でも治らない病いなんです」
「病い!」
やっぱり病気じゃないか!
大変だ。
素人判断ではなくて医者に診てもらわないといけないだろ。
「医者に診断してもらった方がいいですよ」
俺は、すごく心配になった。
「ちょっとした病気から大病を患うこともありますし」
はたけ上忍が重病だったら、どうしよう。
「検査してもらった方がいいです」
火影さまにも連絡した方がいいのかもしれない。
「病気で体調が優れないのに、ここに来ていてはいけないじゃないですか!」
今まで気がつかないなんて俺は馬鹿だ。
「家で養生するか、しっかり休養してください」
まくし立てると、はたけ上忍は俺の手に自分の手を重ねて、俺の肩をぽんぽんと叩いてきた。
「イルカさん」
穏やかな声。
「まあまあまあ、落ち着いてください」
体調が悪い人が目の前にいるのに落ち着いてなんていられない。
何より、ここは病院なのだから、すぐに診てもらえる。
「俺のことを、そんなにも心配してくれて嬉しいですよ」
重ねた手を握られた。
「でもね、今はイルカさんは自分の怪我の回復を一番に優先してください」
「俺は・・・」
俺は別に後回しでもいい。
「それにね、言ったでしょ。俺の病いは医者でも治らないって」
「・・・そうなんですか」
医者でも治らない難しい病気なのか。
いったい、どんな病気なんだろう。
大怪我して死にそうになって、今度は病気なんて。
はたけ上忍はついてない。
里のために一生懸命、心血注いで尽くしているのに。
こんな人こそ、幸せになるべきだ。
幸せになるべきなのに。
いや、幸せにならないと駄目なんだ。



何も言うべき言葉が見つからなくて自分が情けなくて悲しくなってきた。
俺は、はたけ上忍に何もしてあげられない。
「あのね、イルカさん」
自然と俯いてしまった俺の顔を、はたけ上忍は覗き込んできた。
「そんなに落ち込まないで、それに心配してくれるのも嬉しいですけど心配しすぎですよ」
「だって・・・」
情けない顔を上げると、はたけ上忍は思いのほか元気そうな顔をしていた。
病気には、とても見えない。
思ってもみないことを訊かれた。
「不躾ですけどイルカさん、恋愛経験は豊富ですか?」
「いえ・・・」
突然、何を言い出すんだ、はたけ上忍は。
恋愛経験は豊富の反対だ。
これは言わなかったけど。
「恋人います?」
「いえ・・・」
「恋人がいたことは?」
「いえ・・・」
答え難いことを、ばんばん訊いてくる。
「現在、好きな人は?」
「いえ・・・」
「初恋はいつ?」
「いえ・・・」
ってか、そんなの今、なんの関係があるんだっての!
どっちかっていうと、はたけ上忍の難しい病気のことを考えるのが先決じゃないのか。
相手は上忍だし、あからさまに答えるのが嫌なのに拒否できないのが辛い。
「どんな人がタイプ?」
「いえ・・・」
もう「いえ・・・」しか言えないよ。
総て、これで乗り切ってやる。
さんざんに突っ込んだ質問をした後、はたけ上忍は最後にこう訊いた。
「俺のことは好き?」
質問責めにうんざりしていた俺は、ついうっかり言ってしまった。
「いえ・・・」



言ってから失言だと思ったのだがフォローのしようがない。
はたけ上忍のことは嫌いじゃないけど。
好きかどうか、と言われると困るところだ。
この人は里にとって大事な存在でいなくてはならない人だ。
好きっていうのとは違うような気がする・・・。
俺自身にとっては、はたけ上忍はどんな人なんだろう?
考えてしまった俺は、これまた、つい、はたけ上忍をじーっと凝視してしまった。
はたけ上忍って俺にとって、どんな人なのか。
考えても答えが導き出されない。
うーん。
すっかり考え込んでしまった俺を、はたけ上忍は今だ握っていた手を離さずに俺に近寄ってきた。
体がくっ付きそうで、お互いの呼吸が感じてしまう距離だ。
・・・なんか居心地が悪い。
ベッドの上だから逃げようがないのだが俺は抵抗の意味を込めて身じろぎした。
体を、もぞと動かすと、はたけ上忍が逃さんとばかりに距離を縮めてくる。
なんなんだ、この人。
はたけ上忍は、もう一度訊いてきた。
「俺のことは好き?」
ちょっと、しょんぼりしている。
あー、「いえ・・・」って、さっき否定してしまったから悲しいのか。
そりゃあ、好きじゃないと言われたら悲しいよな。
俺も嫌だし。
拗ねているような表情のはたけ上忍は子供みたいだ。
「嫌いじゃないですよ」
そう言うと、はたけ上忍は、あっという間に元気になった。
「ですよねー」と言うと余程嬉しかったのか、現金にも俺に抱きついてきた。
「俺のこと嫌いなはずないですよねー」
・・・ポジティブな人だ。
誰にも嫌われてないと思っているなんて呆れると通り越して羨ましかった、強烈に。
「好きって言葉は後でのお楽しみに取っときます」
意味不明なことを言っている。
何のことだよ。
「それにしても」
はたけ上忍は俺に加減して抱きついてきたのだが、その腕を緩めて俺を見た。
例の目を細めてってやつで。
「イルカさんって恋愛経験がないんですね!」
嬉しそうに、とっても失礼なことを言いやがった。
余計なお世話だ、そんなの。
ちょっとした怒りは腹の中だけで収めたけれど、それが回復の源になったのか次の日から俺は歩けるようになった。
補助をしてもらってだけど。
ベッドから離れて歩けるって、すごく嬉しい。
今まで診察とかの移動は何故か、はたけ上忍に運ばれていたから。
逞しい腕に抱き上げて慎重に大切に、はたけ上忍は俺を運んでくれていたのだった。




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