AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する


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寒くて熱くて重くて暗い場所に俺はいた。
真っ暗で何も見えない。
そんでもって体が重くて動けない。
寒さで震えているのに、熱さで喉が渇く。
なんとも矛盾している状況だ。
どっからか声が聞こえてきた。
「なにか食べたい物があるの?」
遠くから声がする。
「大丈夫?」
優しい、この声は母親に似ているような気がした。
「汗がたくさん出て」
柔らかいもので額を拭われて、ほっとした。
続いて額が、ひんやりと気持ちいい。
体全体が、スーッと透明にでもなっていく感覚だ。
寒さも熱さも俺の体を通り越していくような・・・。
「食べたい物ある?」
もう一度、聞かれた。
夢の中で。
子供の頃を思い出して俺は言った、夢の中で。
「ミカンにアイスにゼリーが食べたい」
冷たいものばかりだ。
「あとは?」
「ジュース、オレンジの」
「柑橘系が好きなの?」
ちょっと笑われたらしい。
そういや、子供の頃ってミカンとかオレンジとかの柑橘系好きだったな〜。
あ、でも。
「アイスはイチゴのカキ氷がいい」
そこは譲れないと主張すると「はいはい」と頭を撫でられた。
夢の中だったけど、子供の頃に戻れたみたいで嬉しかった。



「はあ・・・」
息を吐き出したら目が開いた。
ぼんやりとして焦点が定まらない。
ぼやけていた目が、だんだんとはっきりしてきた。
白い天井が見えて、ああ、ここ病院か、と前にも思ったことをまた思った。
ひどくだるい。
自分の体じゃないみたいだ。
眠いような眠くないような・・・。
変な感覚だ。
とりあえず起きてみようと上半身に力を入れてみたが無駄だった。
力を入れても力が出ない。
「うーん・・・・」
何度か頑張ってみたが無理だった。
あー、俺、どうしたんだろ。
動けないから天井を見ているしかない。
がらっと病室の扉が開く音がした。
誰かが入ってきた。
「あ、イルカさん!」
声の主は俺のベッドの元まで来ると嬉しそうに俺の顔を覗きこんできた。
真上からだったので、まともに目が合った。
片目だけだったけど。
その片目は俺を見て喜んでいた。
「やっと熱が下がったようですね!」
「え・・・」
俺の額に手を当てて熱を診る。
「さっきは微熱だったけど完全に熱が下がったようなので安心しました」
にこにこ笑顔で言うのは、はたけ上忍だった。
「すごい熱が高かったんですよ。中々、下がらなくて心配しました」
俺、発熱していたのか・・・。
どのくらいだろうか?
「俺が任務から帰ってきてから三日は昼も夜も熱が出ていました。それから徐々に小康状態になってきて」
よく見ると外されたはずの点滴がしてあった。
「治療によって急速に回復していくのに体が付いていけずに疲れてしまったのかもしれないと医者が言っていました」
体力も落ちていたのに治療を急ぎすぎたのかもしれませんね、とはたけ上忍は説明してくれた。
・・・・・・そうだったのか。
俺に、もっと体力があったら良かったのに。
忍者としての基礎の体力がなかったんだなあ・・・。
ちょっと落ち込んだが、それは治ってからの課題にしようと思った。
治ったら体術の訓練しよう、と密かに目標を持った。




真上から覗き込んでいた、はたけ上忍はベッドの脇の椅子に座った。
手には袋を抱え込んでいる。
何ともなしに見ていると、はたけ上忍が「あ、これ?」と言ってから袋から色々、取り出して見せてくれた。
「えーっとね。ミカンにオレンジジュースでしょ。あ、ゼリーは適当に見繕ってきたから。それとアイス!」
見せてくれたアイスはイチゴ味のカキ氷。
夢の中で俺が食べたいと言っていた物が全部、あった。
びっくりしていた顔をしていただろう俺を見て、はたけ上忍が照れくさそうに笑った。
「ほんとは起きる前に買って戻ってこようと思ったんですどね〜」
いや、そうじゃなくて・・・。
俺が希望した食べたい物が何であるんだ?
尋ねると、はたけ上忍はしれっとして答えてくれた。
「だって熱で魘されてイルカさん、食べたい物言っていたでしょ?」
・・・そうだっけ。
「汗を拭きながら、そーっと訊いてみたら食べたい物を言ってくれたから」
・・・ん、待てよ?
俺は夢を思い出していた。
子供の頃の夢を見て母親に食べたい物を訊かれていたような。
もしかして、あれは母親じゃなくて、はたけ上忍・・・だったのか。
俺の顔から、ざーっと血の気が引いた。
だって夢の中だし母親だと思ったし、だから、あー・・・。
めちゃくちゃ恥かしい〜。
猛烈に、はたけ上忍の目の前から消えてなくなりたくなった。
ものすごく逃げたくなった。
夢の中で俺が甘えていたのは、はたけ上忍だったんだ〜。
なのに、はたけ上忍は俺の心中を知ってか知らずか、笑っている。
「ほんと熱が下がって良かったですねえ。買ってきた物は食べていいって医者から許可を貰っていますから」
食べたい時に言ってくださいね〜と、はたけ上忍は病室に備え付けてある冷蔵庫に、それらを仕舞っていた。
冷蔵庫があるのは今、知った。



「イルカさん、食欲はある?」
「い、いえ」
「そう?気分は?」
「まあまあ、です」
「そう」
はたけ上忍は、やっぱり、にこにこしている。
俺の熱が下がったのが嬉しい・・・らしい。
「俺がいない間に話すのも難なくなりましたね」
「あ、はい」
声は掠れているけど話すのに問題はない。
「一人で食事も出来るようになっていましたし」
・・・そうだ、食事の途中でスプーンを落としたんだった。
それで落ちそうになって、はたけ上忍に助けてもらったんだっけ。
お礼も言ってない。
「あの、はたけ上忍」
「うん?何か食べたくなった?」
「じゃなくてですね」
首だけ、はたけ上忍の方を向く。
「落ちそうになっていたところ助けていただいて」
「あー、危なかったね。無理しちゃ駄目だよ、イルカさん」
「はい。ありがとうございました」
丁寧に礼を述べた。
「それに」
多分だけど・・・。
「任務から疲れて帰ってきたのに、俺の看病してくれたんじゃないですか」
昼も夜も熱があったと言っていたから、この人、しなくてもいい俺の看病してくれたんじゃなかろうか。
「まあ、そうだねえ」
「すみません、ありがとうございました」
はたけ上忍には迷惑かけっぱなしだなあ。
本当に申し訳ない。
火影さまは、はたけ上忍に何も言ってないのかな?
「・・・火影さまに何か伺いませんでしたか」
暗に訊いてみると、はたけ上忍に伝わったようだった。
「あー、聞いたけど」
肩を竦めた。
「別にいいんじゃないの。俺がいいって言っているんだから」
含みのある言い方に疑問が生じる。
ここに来ることについて火影さま以外の誰かに何か言われたのかな。
「だいたい任務を優先させて、尚且つ完遂させているんだから誰かに意見される覚えはないよ」
・・・・・・大丈夫なのかな、はたけ上忍。
立場が悪くなったり、肩身が狭くなったりしないのかな。
そっちのが心配だ。
はたけ上忍の台詞じゃないけど、俺なら別にいいのに。



「それにさあ」
少し口調が変わった。
俺の髪を手で優しく梳く。
「俺ね、興味があってね」
興味?
「好奇心とも言うのかな」
はたけ上忍が何を言いたいのか、皆目判らない。
「俺がイルカさんの傍にいる理由の一つでもあるんだけど」
じっと、はたけ上忍が俺の目を見てきた。
目には強い力が宿っていて逸らすことができない。
「俺がイルカさんを最初に見つけた時、イルカさんは死にそうになっていたよね。でもね」
なんとなく嫌な予感がする。
「その前に俺は確か死にそうになっていたはずなんだよね。確かに。自分の怪我が死に至るか否かぐらい判断できる。確かに死ぬはずだったのに」
はたけ上忍は顔を近づけてきた。
秘め事を話すように小さい声で。
「なのに目を開けたらイルカさんが怪我をして死に掛けていた。そしてタイミングよく里から救援隊が到着した。瀕死のイルカさんがチャクラを使って里に式を飛ばして救援隊を呼べるはずもなく」
俺は瞬き一つせずに、はたけ上忍の話を聞いていた。
「どうしてだろう。死ぬはずだった俺が怪我もなく無事に生きていて、イルカさんが怪我をして死にそうなっているなんて」
ね、どうしてかなと聞かれて俺は黙っているしかなかった。
そして判った。
はたけ上忍は己自身に起こった不可解な謎の正体を知るために興味と好奇心で俺の傍にいるのだと。



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