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開口一番。
カカシさんに怒られた。
「何、やってんですか!」
「あ、あの・・・」
会うなりに、そんなこと言われても困る。
カカシさん、何を怒っているんだろ。
怒っているカカシさんは怖い。
びびった俺は固まってしまっていた。
だって、久しぶりに会えたと思って、声も聞けたと思ったら怒っている。
悲しくなってきた。
「こんなになっちゃって、もう!」
俺の頭から爪先まで見渡したカカシさんが叫ぶように言う。
もう!って言われても・・・。
「怪我もしているし、やつれているし、疲れているし!ちゃんと眠って食べていたの?」
「それは・・・」
だって、しょうがないじゃないか、里の状態を考えたら。
怪我して、やつれて、疲れているの俺だけじゃないし。
睡眠だって食事だって片手間だ。
だいたいにして、先日まで入院していた病み上がりの人が何を言っているんだよ。
どっちかつーと、カカシさんの方がやつれて疲れているはずなのに。
「イルカ先生!」
開口一番怒られて拗ねて、項垂れていた俺は顔を上げた。
俺の顔を見たカカシは、はっとしたようにして口を閉じる。
黙って俺の顔を見ていたカカシさんは、ぽつりと言った。
「ごめんね」
そう言って俺の頬に触れた。
「俺、倒れて寝ていただけなのに」
「・・・そんなことないです」
「イルカ先生、一人で頑張っていたんだよね」
「・・・一人じゃないです」
「何にもしてあげられなくて」
「・・・一人で大丈夫です」
「寂しくさせてごめんね」
それは否定できなかった。
何も答えず、唇を噛む。
「それに悲しい思いをさせちゃってごめんね」
「悲しくなんか」
ない、とは言えなかった。
「イルカ先生」
カカシさんの腕が背に回り、俺を引き寄せた。
すっぽりとカカシさんの胸の中に納まる。
あたたかった。
「大好き。また、会えてよかった」
その言葉でカカシさんは生きているんだと実感した。
「カカシさん」
名前を口に出すと、わっと想いが溢れてきた。
回復してよかったとか、生きているんだカカシさんとか、また会えたとか。
ほんと、色々たくさん。
頭の中で上手く整理できなくて、ごちゃごちゃになっている。
嬉しい、カカシさんが良くなって。
本当に良かった。
カカシさんに、ぎゅーっと抱きついて。
自分がどんな顔をしているか心配になって見られたくなくて、カカシさんの肩口に額を押し当てた。
きっと情けない顔をしているに違いない。
こんなときに、どんな顔をすればいいかなんて分からない。
そんなに冷静でもないし。
「イルカ先生、大丈夫ですよ」
落ち着いた柔らかいカカシさんの声が耳元でする。
「俺はここにいます」
背中を、ゆっくりと撫でる手は優しくて。
気がつくと俺は、存分にカカシさんに甘えてしまっていた。
随分、長い時間、カカシさんに甘えていた。
抱きしめてもらいながら背中を撫でられたり、頭を撫でられたり、髪を梳かれたりと。
まるで子供みたいに。
「あの、その」
甘えた自分が急に恥ずかしくなって俯いていると「顔を上げて」とカカシさんに両頬を手で包み込まれて、上を向かされた。
真正面からカカシさんと対峙する形だ。
目と目が、視線と視線が絡み合う。
カカシさんの瞳に中に映っている自分が見えるということは、相当、近い距離だ。
かーっと勝手に俺の了承もなく体温が上昇して、心臓がドキドキしてくる。
このドキドキはカカシさんが入院して心配しすぎてしていたドキドキとは別物で。
要するに、このドキドキは言うのは、とても照れくさいが、ときめいているのドキドキだ。
ときめいている対象はカカシさん。
俺はカカシさんにときめているのだ、年甲斐もなく。
カカシさんと俺は見つめあったまま動かない。
お互いを捕らえあったように。
ってか、俺は動けなかったんだけど。
カカシさんを見ていると自然と笑みが浮かんできた。
ああ、やっぱり、俺、この人が好きなんだ。
大好きなんだ。
カカシさんが好き。
そんな感情を伴った笑み。
「好きです、カカシさん」
意図せずに口から出ていた。
「あ・・・」
言うつもりなんてなかったのにってか、心で思っていただけなのに、なんで。
カカシさんは、びっくりしたように目を見開いている。
普段は眠そうな目をしているのに、俺の言葉を聞いた途端にくっきりはっきりと目を見開いて俺を凝視した。
「イルカ先生、今・・・」
カカシさんの視線の強さに耐えられなくなった俺はカカシさんを見ていられなくて顔を逸らそうとした。
いや違うんです、間違いですとか言おうとしても「あー」とか「うー」とか訳分からない単語しか出てこない。
カカシさんの手でに挟まれている両頬が熱を帯びてきた。
きっと顔が赤くなっているんだろうなあ。
で、顔を逸らそうとしたのだが。
「あー、もう」
焦れたようにカカシさんが呟いた。
「もうう、我慢できない」
いささか乱暴に唇を重ねられた。
キスだった。
キス・・・。
乱暴に思えたキスは乱暴ではなかった。
実は繊細で、しっとりとしていて、例えるなら大人のキスって感じだった。
それなのにカカシさんの直向な情熱が反映されたように熱くて。
これがキス・・・。
カカシさんに流されているなあ、と思いながら目が閉じられていく。
味わったことがないキスだった。
すごく気持ちいい。
なんだか、ふわふわとしてくる。
宙に浮いているような、なんだろうこれは。
この気持ちは。
キスの合い間にカカシさんの声が聞こえる。
「イルカ先生、好きだよ。愛している」
・・・すっごく甘い声だ。
今までも甘く聞こえた声だけど、キスしている最中に聞こえる声って、いつもと違う。
一段と甘さが増しているような気がしてならない。
カカシさんとのキス。
抱きしめられてキスされて。
言うなれば、恋人同士のようだった。
キスされて、漂う甘い雰囲気にうっとりとしていると抱きしめてくれているカカシさんの手が微妙に動いた。
片方が背中から項へと。
項へ宛がわれたカカシさんの手が熱い。
キスしていたカカシさんの唇が項へと下りていった。
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