over100−33
ともかく、寝たら元気になったことは確かだ。
体の動きがいい。
隅々まで潤っている感ありありだった。
飯も美味く感じられて、お代わりもしてしまった。
「美味しい〜、しあわせ〜」」
美味いものを食べると自然と笑顔になってしまうのは子供の頃から変わらない。
ほくほくと飯を頬張っているとカカシさんの視線が気になった。
じーっと俺を見つめている。
・・・はしゃぎすぎた、かな?
カカシさんの視線を感じつつも、それを気にしないように、さり気なくテーブルの方だけ見ながら食事していると、くすっと笑い声がした。
顔を上げるとカカシさんが笑っていて。
「カカシさん?」
どうしました?と尋ねるとカカシさんは楽しそうに言った。
「いえね、イルカ先生が俺が作った飯を美味しそうに食べてくれて、実際に美味しいって言ってくれて作った甲斐があったなあと思いまして」
「・・・はあ」
「それにね」
カカシさんが、きゅっと猫のように目を細める。
「しあわせ〜って言ってくれたでしょ」
「あ、はい」
確かに言った、だって飯が美味しいと幸せだと感じるんだから仕方がない。
「だからね」
うふふふ、とカカシさんが笑い声を響かせた。
「今、この瞬間、イルカ先生を幸せにしているのは俺なんだなあと思うと嬉しくなっちゃって」
俺もしあわせ感じちゃった!とか、カカシさんが可愛く言う。
可愛い、可愛いけど格好いいし!。
なんか違う。
可愛いのに格好いいって、ずるい!
・・・・・・・・以前はカカシさんに対して、こんなこと思わなかったのに。
好きな人だからこそ、こんなことを思うのかな?
可愛いって思ったり、格好いいと思ったり。
好きだという気持ちは未知なるものだ、と俺は痛感した。
一宿一飯のささやかなお礼として、ご馳走になった夕飯の食器を洗って俺はある物を探した。
「すみません、俺の服はどうなったんでしょう?」
「えっ!」
カカシさんがひどく驚いた顔をした。
何をそんなに驚く必要があるのか。
あ、俺が当然のような顔をしてパジャマ借りてしまったからか・・・。
なんか風呂上りって、洗濯してある新しいのが着たいんだよなあ〜。
本当は自分の服を着るべきだっただろうけど、ずっと同じ服を着たまま寝ていたから着替えたいのもあって。
このパジャマ、いい匂いがするから、ついつい着込んじゃって。
それに同じ服を着ていたまま、図々しくもカカシさんのベッドでずっと寝ていたんだっけ。
カカシさんに悪いことしたなあ。
きちんと布団やシーツをクリーニングして返した方がいいだろうか?
腕を組んで本格的に悩み始めるとカカシさんが、それを遮った。
「イルカ先生の服なら洗って干したけど、まだ乾いていませんよ。俺の服も今、着ているその服以外、絶対に貸しませんから」
えらい早口で言われた。
「朝になったらイルカ先生の服が乾きますから、そしたらお渡しします。今は、そのパジャマ以外ダメです」
きっぱりと宣言された。
・・・まあ、とりあえずは。
「服、洗濯させちゃってすみません」
「いえいえ」
「おまけに干したりもさせてしまって」
「お安い御用です」
「ありがとうございます」
お礼を言って頭を下げる。
なんか、あれだ、上忍のカカシさんが洗濯物を干すのなんて想像できないけれど。
「じゃあ・・・」
どうしようかな〜っと俺は考えた。
自分の服をどうして必要としたかというと、それは自分の服着て自分の家に帰ろうと思ったからで。
カカシさんが洗濯して洗ってくれたのなら、明日の朝、取りにくればいいかな?
それとも持って帰って干すか。
これ以上はカカシさんに迷惑掛けられないし。
パジャマで帰るのもやむを得ないよね。
うん、そうだと納得して俺は、にっこりとカカシさんに笑いかけた。
カカシさんの顔が何故か、赤くなる。
「このパジャマお借りしますね」
「はい、どうぞ」
カカシさんの顔が嬉しそうに、ぱああっと明るくなった。
「このパジャマ着たままで家に帰りますね」
ぱああっと明るくなったカカシさんの顔が、次の瞬間、絶望の淵に落とされたが如く暗くなった。
「なんで、そういう展開になるんですか!パジャマで帰って途中で誰かに、かどわかされたらどうするんです!」
カカシさんの声は低くて、ちょっと怖い。
「ふつー、こんな場面ではお泊りって定番でしょーが!」
叫ぶように言ってカカシさんは肩で息をしている。
そんなこと言われたってさー。
「ふつーとかこんな場面とか定番とか知りませんよ、俺」
いったいどこのふつーでこんな場面が定番なんだ?
知らず、口調が拗ねたようになってしまった。
まるで子供みたい。
「カカシさんが、どんだけそういうのを知っているか知りませんけど」
・・・ああ、だめだ〜。
完全にカカシさんを問い詰めるような雰囲気になっているじゃん、もう。
「あー、誤解ですよ、イルカ先生」
カカシさんが、ものすごい慌てて手を振ってきた。
「いわゆる、俺の愛読している本のふつーでこんな場面での定番なだけで」
疑うなら読んでくださいと、どっから出したのか、俺にさっと山積みの本を差し出してきた。
「俺は全巻、全シリーズ持っていますから!いつでもお貸ししますよ、ぜひ読破してください!」
「・・・・・・いえ、いいです」
丁重にお断りする。
「変なこと言ってすみませんでした」
「ごめんなさい」
互いに謝って、あっさり、カカシさんと俺は仲直りした。
その日は結局、カカシさんちに二泊目のお泊りとなり、一緒のベッドで一緒の布団に包まって寝た。
・・・人と一緒に寝ると自分じゃない体温があって、とっても不思議。
カカシさんに抱きしめられた時も思った。
人と触れ合うことっていいもんなんだなあ。
隣に人がいるというのは独りじゃないから安心できる。
孤独ではない。
寂しくない。
それが一番、大きいんだろうなあ。
誰かと寄り添うのは心があったまる。
気持ちが落ち着く。
朝になってカカシさんちのベッドの布団の模様を見て笑ってしまった。
手裏剣柄だった。
どこで、こんなの買ってくるのかな。
俺も欲しくなってしまった。
また、この部屋を訪れることはあるのかな?
そんなことを考えながらカカシさんの家を後にした。
だが、次なんてなかった。
俺が聞いたのはカカシさんが敵にやられたという報せだった。
聞いた途端、全身の血が音を立てて引いていくという人生二度目の経験をした。
なんでも木の葉の里に侵入してスパイ活動していた二人組みと闘ったらしい。
現在、カカシさんは自宅で絶対安静の状態だという。
カカシさん・・・。
俺の心は重くて真っ黒な不安の塊だけに覆われる。
一刻も早くカカシさんを会いたかった。
over100−32
over100−34
text top
top