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抱きしめられて、ほっとした。
安心、とは、ちょっと違うかもしれない。
ぽっかりと心に空いた穴が埋まるわけではなかったのだが、ほんの少し、それが緩和されたような小さくなったような感じがした。
「カカシさん」
俺を抱きしめてくれるカカシさんの背に腕を回す。
縋りつくように自然と腕に力が入る。
カカシさんがいなくならないように。
消えないように。
どこにも行かないように。
いや・・・。
一番怖いのは俺の前からいなくなってしまうことだ。
俺は、それが怖いんだ。
自覚した。
そうか、俺にとってカカシさんは、いつの間にか、いなくてはならない人になっていたんだ。
傍にいてほしい、いつでも、どこでも、いつまでも。
カカシさんの存在が俺の心を大きく占めていた。
しばらく抱き合っていると、カカシさんが抱きしめる腕の力を緩めてきた。
抱きしめるのをやめたわけじゃないんだけど、俺が腕の中で動けるくらいに拘束が緩まる。
どうしたのか、と顔を上げると優しいカカシさんの顔があった。
「よかった」
「え」
「少し元気になったみたいですね」
・・・そう、かな?
「イルカ先生、少し体温が上昇して体があったかくなったよね」
「体温?」
体温が上昇って。
「今回のことで辛いとは思いますが・・・。何か心境の変化があって前向きになったのかと思って」
カカシさんが推察を語ってくれた。
「心境の変化・・・」
心境、シンキョウ、しんきょう。
「あ!」
・・・・・・・・・アレ、か。
さっき自覚した気持ち、か。
途端、俺は、かーっと顔に血が上った。
改めて、指摘を受けると恥かしい。
恥かしさも自覚してしまった。
カカシさんが俺にとって大事な人だってことを解ってしまった自分に、だ。
恥かしい・・・。
思春期の子供か、俺は・・・。
まあ、ね。
俺は回想した。
思春期といっても、大して女の子との接触なんてなかったし、色恋沙汰に疎くて縁遠かったし。
初恋なんてあったけ?って感じだ。
俺の、もう戻ってこない十代。
もっと楽しめばよかったなあ。
「・・・イルカ先生」
回想しているとカカシさんが不審そうな声で俺を呼んだ。
「イルカ先生、どうしたの?心、ここにあらずって感じだけど」
「あ・・・。あーはははー」
笑って誤魔化した。
俺の寂しい思春期のことなんてカカシさんに言えるわけない。
って言いたくない。
だって、さあ。
ちらと俺はカカシさんを見た。
カカシさんはカッコいい。
思春期には、さぞかし、もてたに違いない。
もてて、もてて、もてて、もて過ぎて困ったに違いない。
きっと華やかな思春期だったのだろう。
俺がカカシさんの思春期を推測しているとカカシさんが何を思ったのか、僅かに嫌そうな顔をした。
「イルカ先生、変なこと考えていませんか?」
「・・・いえ、別に何も」
「ほんと?」
「本当です」
ほんとは嘘だから、カカシさんの目を見ずに答えるとカカシさんに、くいと顎を掴まれた。
掴まれて、カカシさんの方に顔を向けられる。
視線が絡む。
カカシさんは掴んでいた俺の顎から手を離して、今度は両手で俺の頬を挟んだ。
包み込むように挟まれて、身動きとれず逃げられない。
「イルカ先生」
カカシさんの低い声が甘く響いた・・・ような気がした。
「あのねえ、イルカ先生」
ものすごく近い距離にカカシさんの顔がある。
低い声でも、よく聞こえる。
「最近、忘れているようなので再度、言わせてもらいますけど」
真剣なカカシさんの声。
「俺はイルカ先生が好きなんですよ」
言葉が心臓を直撃して、急激にドキドキし始めた。
ドキドキドキドキ・・・。
明らかに前に告白されたときと違う自分の反応にも戸惑った。
「イルカ先生、好きです」
カカシさんの声が囁き声に変わる。
囁かれても聞こえるほどに近すぎるカカシさんと俺の間。
間なんて隙間なんて、もうない。
俺の頬を挟んでいたカカシさんの手は肩に滑り落ちていた。
「好きです」
もう一度、囁いたカカシさんは俺の唇に自分の唇を重ねた。
これは口づけだ。
・・・堪らず瞼を閉じてしまったので、どのくらいの時間、口づけをしていたのか分からなかった。
ただ、とても長い時間に感じたのだった。
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