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えっと・・・。
何をされたのか分からなくて俺は呆然としていた。
かなり、長いこと呆然としていたらしい。
「あ、あのイルカ先生?」
焦ったのはカカシ先生だった。
「だ、大丈夫ですか」
目の前で、ひらひらと手を振られて目が開いているのに認識できない。
「あのですね、イルカ先生」
カカシ先生が、ぎゅーっと俺を抱きしめる。
「ごめんなさい、つい・・・。ダメだダメだと思ったんですけどね」
そこでカカシ先生が俺の顔を覗き込んできた。
「イルカ先生に会えなくて、イルカ先生が恋しくて恋しくて」
その、とカカシ先生は苦笑いをしてから優しい顔になる。
「イルカ先生と離れている間、愛しさが募っちゃって」
思わずキスしちゃったんです、とカカシ先生は爽やかに言った。
「で、でもキ、キスって」
俺はカカシ先生にキスされた唇を無意識に触っていた。
本来ならキスって単語を口にするのも恥かしい。
「キス、って好きな者同士がするもんじゃないんですか」
途端にカカシ先生は悲しそうな顔になった。
「イルカ先生は俺のこと嫌いなの?」
「嫌い、じゃありませんけど・・・」
「じゃあ、好き?」
腕に閉じ込められたまま、尋ねられる。
なんて答えたらいいんだろうか。
・・・それに、このシチュエーションは前にもあったような気がする。
その時、俺は何て返事をしたんだっけ。
いや、何も言えなかった。
カカシ先生が『イルカ先生が俺を嫌いじゃないけど、すごく好きでもない』って分析していた。
その時は、その通りだったんだけど。
今は・・・。
今はどうだろ?
俺はカカシ先生のことをどう思っているんだろうか。
「まあ、とにかく」
カカシ先生は微笑んだ。
「来てくれて嬉しいですよ」
イルカ先生に会いたくて堪らなかったんだから、と言われて俺も微笑んだ。
だって俺もカカシ先生に会いたかったんだから。
「じゃ、これで」
抱きしめられていた腕から逃れて、ぺこりと頭を下げる。
「帰ります」
「え、なんで?イルカ先生」
慌てたようにカカシ先生が俺の腕を掴んできた。
意外にも強い力だ。
「せっかく来たのに、何で帰っちゃうの?」
「何でって」
何でって言われても困る。
カカシ先生に会うって目的は果たしたし。
他にやることもないし。
・・・・・・・・・本当はキスしたから恥かしくてカカシ先生の顔が見れないなんて絶対に言いたくない。
「もう遅いので」
今が何時が不明だが外は真っ暗闇だった。
「帰ってやることもありますし、明日も仕事ですし」
思いつく限りのいい訳を並べた。
そういや、飯も食ってないな〜。
だけど今日は飯はいいから風呂に、ゆっくり長く入りたい気分だ。
もやもやとする気持ちを整理したい。
ここ数日で気持ちがルーレットのように、ころころ変わって浮き沈みが激しい。
気を緩めると溜め息を吐いてしまいそうになる。
・・・まるで十代の恋に悩む女の子のようだ。
そこまで考えて俺は自分で自分のことを、バカじゃないのか?と本気で思った。
十代の女の子って自分を何に例えているんだ、全く。
ほんっとバカだな〜。
一人で、そんなことを考えて赤くなったり青くなったりしていると、そこに隙があったのかカカシ先生に不意を突かれた。
「帰るなんていわずに」
カカシ先生に腕を引っ張られて、既に部屋の中にいた。
「夕飯、食べていってくださいよ」
誘われる。
食卓には美味そうな料理が並んでいた。
カカシ先生が作ったのかな?
「イルカ先生のことだから悩んで飯も碌に食べてないんじゃないの」
カカシ先生は鋭い。
「飯も風呂もパジャマも用意してありますから遠慮しないで」
・・・・・・風呂?パジャマ?
「布団もふかふかですよ」
・・・・・・・・・布団って。
俺、泊まるのか、もしかして。
そんで、気がつくと俺はカカシ先生とカカシ先生の家のカカシ先生のベッドで一緒に寝ていた。
しかも、しっかりと抱きしめられて。
なんだって、こんな展開に。
自分の家に帰るはずだったのに。
カカシ先生のペースに乗せられてしまっていた。
そして寝る前にもキスされた・・・。
「おやすみのキス」とか何とか言われて。
でも。
抱きしめられて俺は奇妙な安堵感に包まれていた。
カカシ先生の家に来る途中に感じていた、惨めで悲しくて寂しい気持ちが軽くなっていたんだ。
だから思ってしまった。
カカシ先生と、ずっと一緒にいたいって。
恋人でもないのに、好きだって言われただけで一緒にいれる訳がない。
ただ、俺はカカシ先生に縋りつきたいだけなんだ、きっと。
身の丈に合わない叶わぬ願いを望んでしまっていた。
いつの間にか俺は欲張りになっていたのだった。
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