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「無理です」
何を言ってんだと俺は、はた・・・カカシ先生を見上げて体を離した。
きっと顔は渋面だったと思う。
「そんなの」
「ええ〜」
体を離しても腕を掴まえられているので完全に離れることは難しかった。
・・・カカシ先生の力は強い。
「だ、だいたいにして・・・」
「え?抱いた?」
カカシ先生が余計な茶々を入れる。
「そうじゃなくて、だいたいにして中忍の俺が上忍の、はた・・・カカシ先生をカカシ先生と呼ぶのだって」
いけないような気がする。
再三、言っているのだが上忍と中忍の乗り越えられない壁というか、そういうものが存在するから。
やっと、カカシ先生と呼べるような心境になったけど、やっぱ、躊躇いはある。
「まあねえ」
ふう、とカカシ先生が息を吐き掴んでいた俺の腕を離して、頭をがしがしを掻いた。
「その辺は、おいおいと・・・。ですかね」
何が、おいおいとだよ。
「ま、それはそれとして」
きろっとカカシ先生が、ちょっとだけ怖い目で俺を見た。
「お聞きしたいことがあります」
「え?」
なんだ、改まった口調で。
俺に何を聞きたいんだろ。
カカシ先生の聞きたいことは俺の予想を超えていた。
「キスしましたか?」
たっぷり十秒間、カカシ先生を見つめて俺は間抜けな声を出した。
「・・・・・・は?」
キスってなんだ?
いや、その行為自体は知っているけど、唐突にキスって・・・。
「さっきのあいつとキスしましたか?」
「え、さっきの?」
「顔を寄せ合っていたでしょう」
にこにこと笑うカカシ先生。
笑っているけど目が笑ってないよ・・・。
「その時、キスしたのって訊いているんですよ」
優しく丁寧に説明してくれる。
「俺がいた角度からは死角になってキスしているか、どうか見えなかったんですよね」
「あー」
言われてみれば、そんな感じの場面があったな。
だけどなあ。
「あいつと俺がキスですか?」
あいつってのは、今、ここにはいないあいつのことだ、自称悪魔の。
あいつとキス・・・。
全く考えられない、想像が及ばない。
「そうですよ!」
カカシ先生が力を込めて主張した。
「顔をあんなに近づけてキスまでいかなくても、唇が掠ったりしなかったですか?」
唇が掠ったりって、それってキスじゃないのか。
突っ込むとカカシ先生が眉を顰めた。
「嫌なこと言いますね、イルカ先生」
え、そう?
「俺がイルカ先生のこと好きだと知った上で、そんなこと言うなんて」
そうだった・・・。
忘れていた、カカシ先生が俺のことを好きらしいってことを。
半信半疑というよりも、本当なのかな?という気持ちの方が大きい。
一時の気の迷いとか、そんなのじゃないのかなって。
「すみません」
俺は謝った。
カカシ先生の気持ちを知った上で発言だとしたら、デリカシーがなかったよな。
「で、キスは?したの?してないの?」
多少、いらっとした口調になったカカシ先生に俺は正直に答えた。
「してません」
「ほんとに?」
「はい」
神妙に頷く。
こればっかりは本当だし。
あいつとキスなんて考えられない。
そう付け加えるとカカシ先生は息を吐いて肩の力を抜いた。
「よかったあ〜」
胸を撫で下ろしている。
「イルカ先生、あいつとやけに親しげだし、まさかと思ったけど」
キスしていなくてよかった、とカカシ先生は、もう一度言った。
ふと、俺は疑問が浮んだ。
それは・・・。
「俺が言っただけで信じられるんですか?」
もしかして俺が嘘を吐いているとか思わないのかな。
「もちろんですよ」
カカシ先生は晴れやかな笑みを見せた。
「好きな人の言葉なら信じられます」
・・・・・・そういうものなのか。
「俺が嘘を吐いているとか思わないんですか」
「そんなこと思いませんよ」
カカシ先生は俺の手を握ると今度は諭すような口調になった。
まるで子供に言い聞かすみたいに。
「好きになったらね、その人のことを無条件で信じるものですよ」
それが愛ってもんです、って言っていた。
それからカカシ先生は、また任務に戻っていた、七班との。
俺はお使い帰りだったから、そのままアカデミーへ。
道々、カカシ先生の言ったことを考えた。
好きになったら、か・・・。
カカシ先生の好きって何だろう。
恋とか愛とか言葉で言うのは簡単だけど、もっと深い意味があるような気がする。
そんな感情、俺は知らない・・・。
両親がいなくなってから人を好きになるってことをしなかったから。
寂しいことかもしれないけれど、好きになる前にストップが掛かってしまうのだ。
この人、好きになるかもしれないと思うと踏みとどまって自分から離れていくのが常だった。
人間関係は一歩下がって、他人の領域に踏み入れない。
それが普通になっていた。
・・・でも、カカシ先生。
言っていた。
俺のことが好きだって、好きな人なら信じられるって。
思い出すと何だか胸がざわざわして落ち着かない。
なんでだろ。
それに、すんなりとカカシ先生と呼べるようになっている自分に気がついた。
どうしてだろう。
考えることが多すぎる。
それに、と一番、肝心なことを忘れていた。
俺の寿命だ。
思い出せって言っていたけど何を?
何を思い出せばいいんだろうか。
俺の寿命はカカシ先生に半分あげてしまって、もうないはず。
当たり前だけど、寿命が尽きれば死ぬ。
カカシ先生と会えなくなるんだと思うと、ひどく胸が痛んだのだった。
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