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半分だけ目を開くと白い物体が目に飛び込んできた。
ゆらゆらと揺れている。
あれは何だと問いかけたいのに俺は体が重く動けず、声も出ない。
息をするのも苦しい。
死んだのか、俺は。
白い物体は徐々に人の形になっていく。
死んだら人は白い影になるのか・・・。
頭は霞がかり思考が散漫していて、いまいち纏まらない。
天国なはずがないから漠然と、ただ口にした。
「・・・・・・地獄か」
声は出ないので口だけが小さく動いた。
白い物体から低い声がした。
低いのに聞き取りやすい声。
「酷いなあ」
何が?
「俺を見て『地獄か』はないでしょう」
泣きそうな声だ。
「ここは地獄でも天国でもありません」
俺の耳元で囁くように言う。
「あなたは生きています。ここは木の葉の里の病院です」
木の葉の里・・・。
病院・・・。
そういえば、ツンとくるこの匂いは消毒液の匂いだ。
・・・・・・俺、死ななかったのか。
「もう大丈夫ですよ」
その声に、とても安心してしまった俺は再び、目を閉じた。
何度か、目を覚ました。
覚ましたと言っても目が勝手に開くだけ。
寝ているのか起きているのか分からない。
目が開けると必ず、白い物体が目に入った。
その物体は必ず、俺に囁きかけてきた。
「聞こえていますか?俺がついていますよ」
白いものは物体ではなく、人間らしい。
誰だろう?
見舞いに来てくれた、とか。
でも・・・。
俺を見舞いにこんなに、しょっちゅう来てくれる人に心当たりはない。
親も兄弟も親類も親戚もいない、独り身だし。
本当に誰なのか分からなかった。
それに。
目を開ける度に俺の傍にいるけれど、この人、仕事とかいいのか?
仕事もだけど、寝たり食べたりしているのか。
俺が普段は仕事中毒の所為か、余計な心配までしてしまった。
夜なのか昼なのか分からずに目を開けた時、その白い人がまだいたので俺は、ゆっくり口を動かしてみた。
「仕事は?」
声は、やっぱり出なかった。
「見舞いなら不要です」
ここが病院なら俺の面倒は病院の人が看てくれるだろうし、この人にも日常生活ってもんがあるだろうし。
すると白い人は布団の中にある俺の手を軽く握ってきた。
「そんなこと気にしないでください」
軽く握ってきたのは怪我していて包帯を巻いて動かせないから。
気を遣ってくれたのだ。
親切な人だなあ。
「俺が来たくて来ているだけですから」
そうなのか・・・。
「あなたに迷惑は掛けません」
俺の迷惑はいいんだけど、そっちは?
それが言いたかったんだけど通じなかったようだ。
瞼が勝手に落ちてきて目を閉じてしまった。
意識が沈んでいく。
・・・そうだ。
今更、思った。
この人、誰だろう?
目を開けて白い人と認識は出来たのだが、俺の視界は靄がかかっていて顔がはっきりと見えなかったのだ。
今度、起きたら訊いてみよう。
まだ、いてくれたらだけど。
目を開けると視界が晴れて、すっきりとしていた。
物が、くっきりと見える。
気分も良い。
体も軽くなったような気がする。
「あ、起きた」
横の方で嬉しそうな声がした。
俺が目を開けた時に聞いていた特徴ある低い声。
「気分はどうですか」
顔を覗き込んできたのは最初は白い物体だと思っていた白い人。
白いと思っていたのは髪の色だった。
本当の髪の色は白に近い銀色で顔には覆面、額宛を斜めにして左目を隠している。
その顔には見覚えがあった、大いに。
誰って、それは俺が助けた、正しくは俺の知り合いのやつが助けた、はたけカカシだったから。
息が止まるほど、びっくりして本当に息が止まってしまった。
息が止まってしまった反動で逆に咳が出てしまい慌てたように、はたけカカシが布団の上から俺の胸を擦ってきた。
「どうしましたか。苦しいの?」
苦しいっちゃ苦しいけど。
動揺が収まると苦しさも収まった。
俺がびっくり眼で見つめたからか、はたけカカシが照れたように、がしがしと頭を掻いた。
「そんなに見ないでくださいよ」
見ないでって言われても俺が現在、自由に動かせるのは目だけだ。
首も動かせないんだから仕方がない。
一頻り、照れると、はたけカカシは俺の耳元で囁いた。
「やっと意識が完全に戻りましたね。安心しました」
耳元で囁くのは俺の体への負担を考えてだった。
大きな声を出して体が驚くといけないからって。
「一週間ほど意識不明で、更に一週間は意識がまばらでしたね」
まばらってのは俺が目を開けたり閉じたりしていた、夢うつつの期間のことらしい。
・・・とすると俺は病院に二週間もお世話になっているのか。
仕事も、それだけ休んでいることになる。
俺が休んだ分、誰かが仕事を余分にしているのかと思うと申し訳なかった。
早く退院して仕事がしたい。
はたけカカシは、ぽんぽんと俺の布団を叩いた。
「もう大丈夫ですね。意識が戻れば、あとは回復するだけですよ」
微笑まれる。
ああ、この人、いい人なんだなあ。
ぼんやりと、はたけカカシを眺めていると色々なものが目に入ってきた。
腕から伸びているだろう数本の管の先に点滴が見えた。
それと点滅する機械類とか。
顔の上、口元に何か乗っかっている。
見ようと視線を向けると、はたけカカシが敏感に察知して教えてくれた。
「ああ、顔の上に乗っているのは酸素マスクですよ」
酸素マスク・・・。
こんなの初めて見た。
使ったのも初めてだし。
そうか、酸素マスクのお陰で呼吸が楽なんだ。
酸素マスクって、すごいなあ。
ちなみに酸素は意識して吸ってみると少し匂いがした。
後で聞いたら、ちゃんと酸素が出ているかどうか分かるように匂いを付けているだって。
そんなこと知らなかった。
意識が戻ると毎日毎日、はたけカカシが病室を訪れた。
看護師さんの話しによると意識が戻る前からも毎日、見舞いに来てくれていたそうだ。
どうしてだろ?
はたけカカシと俺は別に知り合いでもないし、ましてや友人でも親友でもない。
仕事上の繋がりも今のところ全くないし、見舞いに来てくる筋合いはないんじゃないかな。
他に理由でもあるのか・・・。
数日経って、俺の酸素マスクも外れて普通に呼吸が出来るようになった。
声は、まだ出ない。
声帯が弱っているのではなく怪我をしているのが原因で声が出ないと医師から説明を受けた。
なので回復と共に声は出る。
怪我も順調にいけば一ヶ月ほどで大幅に治って、退院の目処がつくかもしれないと。
それまでは安静にしているように指導された。
一ヶ月も入院か。
できたら一ヶ月ではなく、もっと短い期間で退院したい。
とか思っていたのだが何故か!
本当に何故か、はたけカカシが俺の横で医師の話を神妙な顔して聞いていて、うんうんと頷いていたのだった。
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