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好き・・・・・・・・・。
って何だ?
俺は沈黙した。
好きって誰が何を好き?
いや、この場合は誰が誰を好きだって・・・。
そんなバカなことって有り得るのか。
色々と条件が合わないだろう。
はたけ上忍と俺は男同士で、上忍と中忍、知り合って間もない。
知り合った切っ掛けは死にそうになったからっていう突飛な出会いだったし。
ん?死にそう・・・。
ピカーンと閃いた。
解った、きっとあれだ!
俺は自信満々で、はたけ上忍に言った。
「あー、知ってますよ、それって・・・」
はたけ上忍が僅かに期待を込めて俺を見ている。
「それって吊り橋効果ってやつでしょう?」
はたけ上忍の肩が、がくっと下がった。
ついでに顔も俯いてしまう。
え、あれ?違うのか。
でも、とりあえず説明をしておいた、はたけ上忍も知っているかもしれないけれど。
「命を助けてもらった相手を好きになってしまうってやつですよね。確か、感謝の気持ちが好きだをいう気持ちに摩り替わるとかなんとか」
・・・だったような気がする。
俺の記憶も定かではないが。
「だから、はたけ上忍は俺が好きだと錯覚しているんですよ」
うん、そうそう。
きっとそう。
だから、はたけ上忍の俺を好きだという気持ちは錯覚だ、幻想だ、幻だ。
「あーのーねー」
はたけ上忍が顔を上げた。
その目は俺を睨んでいて、ちょっと怖い。
「その吊り橋効果の理論でいったら逆でしょーが」
「え?」
「俺がイルカ先生を助けたんだから、イルカ先生が俺の事を好きならなきゃ、おかしいでしょ」
的確に指摘された。
「あー、そうですね・・・」
どうやら違ったらしい。
「イルカ先生は俺のことを好き好き大好き愛しているって思ってないんでしょう?」
「はあ、まあ」
はたけ上忍のことは嫌いじゃないけど、好き好き大好き愛してるってまではいかないなあ〜。
本当に申し訳ないけど。
前の嫌いじゃないから、今は好きに近い方の嫌いじゃないになったけど。
こんなこと言っても、きっと、はたけ上忍には分からないだろうけど。
「あ!じゃ、あれですよ」
俺は別の可能性を見出すことにした。
「インプリンティングってやつじゃないですか?刷り込みっていう、あれ」
「ああ、初めて見るものを親だと思う、あれ」
はたけ上忍が気がなさそうに答えてくれた。
「そうです、それです」
じとーっとした目をしていた、はたけ上忍がは俺の発言を、ばっさり切り捨てた。
「んな訳ないでしょ」
「・・・ですよね」
「その刷り込みってやつだって、初めて俺を見たイルカ先生が俺の事を親、もしくは恋人と思うのが自然でしょ」
・・・親は分かるが恋人ってのはないんじゃないのか。
「だいたいにして怪我して意識を失っていて、それで目を開けて初めて見たのが俺だったら一目惚れしたとかあってもいいじゃないの?」
いや、ないって、そんなこと・・・。
それとも、そんなことってあるのか、普通?
「イルカ先生は少々、恋愛的な情緒に欠けていますよ。そこがイルカ先生のいいとこで愛しくも好きでもあるんですがね」
ほとんど言いがかり的に怒られて、それからまた好きだと言われた。
何なんだ、はたけ上忍・・・。
任務で疲れて情緒不安定なんじゃないのか。
はたけ上忍の健康状態、特に心理面が心配になってきた。
大丈夫かな、この人。
「イルカ先生」
いつの間にかっていうか、いつもいつも、いつの間にかなんだけど、はたけ上忍が俺の横に来ていた。
さっきまで正面向いて茶を飲んでいたはずなのに。
つん、と俺の頬を突付かれる。
「イルカ先生、変なこと考えていない?」と訊かれた。
「変なこと?」
「そ」
はたけ上忍は肩を竦めた。
「本来、考えるべきことから外れた全く別なこと考えていませんか?」
「そんなことないですよ」
ちゃんと考えるべきことは考えている。
「そーお?」
疑うように、はたけ上忍が俺を見つめる。
すぐ横にいるので見つめられると、かなり至近距離で、あの・・・。
非常に居心地が悪い。
「えっと」
もぞもぞしながら、はたけ上忍から距離を取ろうとしたけど、はたけ上忍は離れてくれなかった。
「えっと、あの」
うーん、どうしよう。
「はい、何ですか?イルカ先生」
はたけ上忍は余裕綽々といった態で訊いてくる。
「最近、お疲れなのでは?」
そう訊いてみた。
「なんで」
「えっと」
はたけ上忍が俺を遠慮なく見てくるので視線が痛い。
「その、俺のことを・・・」
言うのが気恥ずかしいけど言うしかない。
「俺のことを好き、だなんて言うから」
「ほら、そこ!」
はたけ上忍から突っ込みが入った。
「俺がイルカ先生を好きだと言ったことから論旨が逸れているじゃないですか」
「そ、そうですか?」
「今、現時点でイルカ先生が考えるべきことは俺に好きだと告白されて、これからどうすべきかってことです。俺の告白を受け入れて情熱的なキスするとか、俺に好きですと熱烈に告白返しするとか。俺が疲れているかどうかじゃないんですよ」
「はい・・・」
諭されてしまった。
はたけ上忍、先生みたいだ。
あ、もうカカシ先生なんだっけ。
「分かってくれればいいんです」
俺が素直に、はたけ上忍の言葉を聞いていると、すっと手が伸びてきた。
顔に触れられた。
「ま、いいですよ」
はたけ上忍を見ると微笑んでいた。
あの目を細めた優しげな顔をして。
「イルカ先生が俺を嫌いじゃないけど、すごく好きでもないのは、なんとなーく分かっていましたから」
「すみません」
そんなことを言われると肩身が狭くなる。
俺が悪いのかなあ・・・。
罪悪感が圧し掛かってきた。
「謝ることはありませんよ」
はたけ上忍が慰めてくれた。
「イルカ先生は悪くないんですから、思いつめないで」
考えも読まれていた。
すごいな、はたけ上忍は。
しかも、この場合、はたけ上忍の気持ちを汲み取れなかった俺が、はたけ上忍を慰める立場ではなかろうか。
本当に色々、申し訳なくなってくるなあ。
「そんな悲しい顔しないでくださいよ」
はたけ上忍が俺の頭を撫でる。
優しい手つきで。
その手が俺の肩に回って引き寄せられた。
ぽふんっ。
はたけ上忍の胸の中に収まる俺。
・・・こういうの嫌じゃないんだよな。
人の体温って安心する。
特に、はたけ上忍のは。
そのまま、大人しくしていると、はたけ上忍の体が細かく振動して笑っているのが伝わってきた。
ふふふふ〜と笑った、はたけ上忍は俺から体を離すと、はっきりと言い切った。
「これから俺のことを好きにさせてみせますよ」
突然の決意の表明に目が、ぱちくりとなる。
「イルカ先生に俺を今よりも好きにさせてみせますから」
はたけ上忍は、にやっとした。
「俺のこと結構、好きでしょう?」
それから、はたけ上忍は帰っていった。
やっぱり鍵は返してくれなくて。
・・・まあ、それはいいんだけど。
「好き、か」
言葉に出してみる。
はたけ上忍が俺を好き。
人を好きになるって、すごいなあ。
俺は、そんな感情とは縁遠い生活を送ってきたけれど。
好きだと言ってもらえて嫌な気分にはならなかった。
むしろ、気持ちがあったかくなるっていうか嬉しくなった。
これって俺は、はたけ上忍のことが好きだってことなのかなあ。
解らない・・・。
自分のことなのに自分の好きっていう感情も、はたけ上忍を好きなっていいのかも。
「はあ〜」と溜め息が出てしまう。
こんな時、あいつに正解を求めたら何て答えを出すんだろ。
唐突に魔界のふざけた大魔王を思い出した。
そういや、あいつって普段は何してんだ。
それから・・・。
それから重要なことを思い出した。
俺の寿命って、あと、どのくらい残っているんだろう。
あいつ、はたけ上忍を助けるには俺の寿命の半分が必要って言って、俺の寿命を使った。
だとしたら、もしかして俺は明日にも死ぬかもしれない、よな。
可能性はある。
明日、死ぬかもしれない人間が誰かを好きになっていいのだろうか。
残された人の気持ちを考えると答えは自ずと出ていた。
これ即ち否、と。
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