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この隙に・・・。
この隙とは、はたけ上忍がいない隙だ。
悪いと思ったが、はたけ上忍がいると言いづらいので仕方がない。
罪悪感に駆られたが思い切って言った。
「あの、すみませんが」
「ん、どうした?」
アスマ先生が俺を見る。
俺は急いで懐から財布を取り出して、なけなしのお金をテーブルの上に置いた。
食べた量とか飲んだ量に関わらず、割り勘は基本だ。
「申し訳ありませんが俺は、そろそろこの辺で失礼します」
そう、帰りたかったのだ。
帰りたいというよりも逃げるといった方が正しい。
「もう少し、ゆっくりしていったら?」
紅先生が勧めてくれたけど俺は辞退した。
「いえ、俺はもう・・・」
「残念ね」
紅先生は無理強いはしなかった。
「それでは」
俺は頭を深く下げると「今日はありがとうございました」と言い、はたけ上忍によろしくと伝えてもらうように頼んだ。
「いいわよ。また、飲みましょうね」
「また、今度な」
アスマ先生も紅先生も優しかった。
二人の気遣いに感謝しつつ、俺は店を後にした。
家に帰ると、ほっとした。
ものすごく。
自分がいていい場所があるって有り難い。
相当、緊張していたらしく家に帰ると、どっと疲れが出た。
自分でも思うが、人付き合いってやつが本当に苦手だな〜。
溜め息を吐いた俺は風呂に入ることにした。
あったかい風呂はいつだって俺の心を慰めてくれる。
・・・まあ、温泉が好きだから風呂も好きってのもあるが。
風呂に湯を溜めて、好きな温泉の素をチョイスして俺は風呂に浸かった。
いい匂いの湯とほんのり色づいた湯は気持ちがいい。
体が温まると気持ちも解れて落ち着いてきた。
はああ〜と息を吐く。
今日も一日疲れた、明日も頑張ろうという気持ちが湧いてくる。
失敗しても次からは気をつけて失敗しないようにすればいいと自分に暗示をかけた。
失敗とは、今日の上忍の人たちとの飲み会のことで。
もっと上手く立ち回れたら、と思う。
風呂上がって、さっぱりした。
冷蔵庫にあった牛乳をコップに注がずに、そのまま口をつけて一気飲み。
「うまい!」
一人で叫んでしまっている俺。
アルコールよりも牛乳の方が美味いと感じてしまう。
酒の味も分かるようになりたいけど健康的でいいよな、うん。
不意に人の気配がした。
玄関の方から。
この気配は知っている、はたけ上忍だ。
どうしたんだろ・・・。
飲み会の席で不在の時に帰ってしまったから怒っているのだろうか。
少し不安に思っていると玄関の鍵が、がちゃりと開く音がした。
鍵・・・。
この前、はたけ上忍は失くしたって言っていなかったけ?
持っているんじゃないか!
今なら絶対に返してもらえると思った俺は玄関口で待機した。
玄関が開いた瞬簡に返してもらおうと思って。
ドアノブが回って玄関が静かに開いた。
「イルカ先生ー」
こんばんは・・・と言いかけた、はたけ上忍は俺を見て、ぎょっとして立ち竦む。
「イ、イルカ先生!その格好は・・・」
びっくりしている。
格好っていったって、お風呂上りだから下はパジャマのズボンに上半身は裸にタオルを首からかけてといたって普通の格好だ。
お風呂上りって誰だって、こんなものだろ。
そんなことより鍵!と思った俺は、はたけ上忍に突進した。
「はたけ上忍、鍵を返してください。今、持っているでしょう?」
「え?鍵?」
はたけ上忍の鍵を持っているだろう右手は高くあげられて届かない。
背伸びして手を伸ばしたが、わずかに及ばず。
ぎゅっと握られた拳には俺の家の鍵が入っているはずだ。
「か〜ぎ〜」
「ないですよ、イルカ先生。この前、失くしたって言ったじゃないですか」
嘘だ、その手の中にあるはず。
「グーにした、はたけ上忍の手の中にあります」
「ないですったら。それに『カカシ先生』でしょ」
「今はそれどころじゃありません」
「いえいえ。そこは、はっきりしておかないと」
「はっきりって何がです」
「呼び名のことに決まっているじゃありませんか」
・・・主旨がずれている。
「それに」
ほらね、と開いた、はたけ上忍の手には鍵はなかった。
「いつの間に・・・」
はたけ上忍の手を取って、しげしげと眺めたが何もない。
もう片方の手、左手は荷物を持っており到底、鍵は持てるはずがなく。
どうやって鍵を隠したんだろ。
謎だった。
「それよりも」
はたけ上忍が慌てたように言った。
「イルカ先生、早く服を着ないと風邪を引きますよ」
そりゃ、服は着るけどさー。
俺は、まだ、はたけ上忍の手を取って裏返したりして検分していた。
どうやって鍵を消したんだ、これ・・・。
「ねえ、イルカ先生。お弁当、持ってきたので一緒に食べましょうよ」
返事は腹がした。
ぐう〜っと腹が鳴ったのだ。
そういや、今日は夕飯を食べてない。
「イルカ先生、店で何も食べてなかったでしょう。だから、店に頼んでお弁当作ってもらっていたんです」
それで、はたけ上忍は席を外していたらしい。
「ぜんぜん、何も食べていなかったから」
俺のことを心配してくれていたのだ。
優しいなあ、はたけ上忍。
「それから服を着て、イルカ先生」
はたけ上忍は俺を見ながら何故か、顔を赤くしていた。
それから成り行きで、はたけ上忍が持ってきてくれたお弁当を夕飯として一緒に食べた。
はたけ上忍は自分の分も、ちゃっかり持ってきていたし。
残してきたお金は返されてしまった。
「次の機会にって」て言われて。
お弁当のお金もいらないって言うし、いいのかな?
それは兎も角として熱めの茶を入れて、お弁当の蓋を開けると中味は豪華。
ほかほかと温かくて、いい匂いがして食欲がそそられる。
何もかもが目茶苦茶に美味かった。
「美味しいですね!」
ぱくぱくと、おかずとご飯が口に運ばれ消えていく。
美味しいご飯を食べているときって幸せだ〜。
それが顔に出たのだろう、はたけ上忍が、くすっと笑った。
「イルカ先生、幸せそうですね」
「はい!」
元気よく返事をしてしまう。
「おいしー」と連呼して食べていると、はたけ上忍と目が合った。
にこ、と微笑みかけられて、思わず微笑み返す。
穏やかな時間が流れた。
・・・はたけ上忍て。
ふと箸を止めて、はたけ上忍を、まじまじと見つめた。
・・・・・・はたけ上忍て、一緒にいても疲れない。
気を遣わないのとは、ちょっと違う。
一緒にいても苦じゃないんだ。
この人といるときって自然体でいられるような気がする。
・・・・・・・・どうしてだろう。
どうしてなんだろう。
どうして、この人といるときって気が楽になるんだろう。
「ん?どうしました、イルカ先生」
俺の視線に気がついて、はたけ上忍が尋ねてきた。
「ええと」
「お弁当、美味しくなかったですか?」
「そんなことないです、とっても美味しくて」
「そ。よかった」
はたけ上忍は目を細めた。
これも、はたけ上忍の癖だ。
優しい目になる。
その時、自分でも何で言ったのか解らない。
でも口から出ていた。
「カカシ先生、ありがとうございます」
するっと出てきた台詞に、はたけ上忍の目は少し開かれて、また細まる。
とっても幸せそうな顔だった。
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