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上忍三人と中忍の俺。
三人の後を、てくてくとついて行き、三人が決めた店に入った。
どこに座ったらいいんだろう、と悩んでいたのだがテーブルが正方形で助かった。
自動的に空いている席に座ればいいから。
三人が席に着いて俺も、そっと腰を下ろした。
・・・・・・緊張する。
俺の他の三人はお互いに見知った仲みたいで、何やら話している。
内容は内輪的なことで、いまいち俺には解らない。
「イルカ先生は何にしますか?」
突然訊かれて、はっと顔を上げると、はたけ上忍が俺を見ていた。
「イルカ先生、飲み物は?」
もう一度、訊かれた。
「あ、ええと・・・」
酒を飲むには飲むけど、あんま得意じゃないんだよなあ。
しかし、ウーロン茶と言いかけて思い直した。
「皆さんと同じ物でいいです」
「そうですか」
で、ジョッキの入った生ビールがテーブルに運ばれてきた。
泡がシュワシュワとしていて見た目は冷たそうで美味しそう。
「じゃあ、とりあえず乾杯だな」
アスマ先生がジョッキを持った。
「何に乾杯するの?」
これは紅先生。
「これからよろしくねってことでいいんじゃないの?」
「誰に?」
「イルカ先生に。初めて会ったってご縁も含めて」
三人の目が一斉に俺のほうを向く。
「そうだな、それでいいな」
「そうね」
「でしょ?」
はたけ上忍が音頭をとる。
「イルカ先生、これからもよろしくね」
で、「乾杯〜」って、カツンとジョッキをぶつけあった。
三人とも、ごくごくと飲んでいる。
特に紅先生は飲みっぷりがいい。
酒豪だと噂を聞いていたが、噂どおりらしい。
すごい。
俺は両手でジョッキを持って一口だけビールを飲んだ。
・・・苦い。
顔を顰めるまではいかないけど、ビールって苦いよなあ。
この苦さが美味いっていうらしいけれど、俺は味覚が子供なのか美味さがよく分からない。
「イルカ先生」
名を呼ばれて顔を上げると、はたけ上忍が、また俺を見ていた。
「な、なんですか?」
「お摘まみを頼みますけど、何か食べたい物はありますか?」
「何でもいいです」
「そう?」
「はい」
こくこくと頷くと、はたけ上忍は何かを適当に注文していた。
紅先生はビール二杯目。
驚異的なスピードだ。
俺は、まだ一口しか飲んでいないのに。
俺を除く三人は何かしら話をしていた。
気を遣ってか俺にも話題を振ってくれるんだけど上手に受け答えできない。
「はい」とか「あ、はい」とか「はい、そうです」とか、そんな返事ばっかりで・・・。
なんてーか、あれだ。
会話のスキルが低すぎる、俺は。
仕事の時だと難なく話せるのに、プライベートってか仕事を離れると何を話していいのか分からない、全く。
この三人との共通の話題は仕事と子供たちのことだけど。
酒の席で仕事の話は無粋だろう。
かと言って、子供の話もどうかと思う。
仕事を離れて酒を飲みに来ているのに。
困った俺はビールのジョッキを両手で包むように持って、不自然にならないくらいな感じで下を見ていた。
下っていうかテーブルの上を。
テーブルの上を眺めて一人途方に暮れていた。
まるで迷子になったみたいに。
「・・・でなんですけど、イルカ先生はどう思いますか?」
いきなり話を振られた。
やばい・・・。
ぜんっぜん聞いていなかった。
一人で考え込んでいた。
下に向けていた視線を上げると三人の俺を見つめる視線が突き刺さる。
どきどきどき・・・。
勝手に心臓が早くなり、手に汗をかいてきた。
つまり緊張が高まったってことだ。
「あ、あの・・・」
ごくりと唾を飲み込み俺は話を振ってきた、はたけ上忍に謝った。
「すみません、もう一度、言ってもらえますか?」
「あー、それはいいんですけどね」
はたけ上忍は、頭をがしがしを掻いた。
なんだか、イライラしているみたい。
「イルカ先生、もしかしてお酒好きじゃなかったですか?」と尋ねられた。
「あ、いえ、そんなことは・・・」
「ほんと?」
「はい」
頷くと、はたけ上忍は肩を落として眉を潜めてグラスの酒を飲み干した。
もうビールから日本酒みたいなものに三人とも移っていた。
酒を飲むペースが異様に速い・・・。
いや、でもこれが普通なのかな。
「イルカ先生、ごめんなさいね」
紅先生が謝ってきた。
「何がでしょうか?」
「強引にカカシが誘って来てくれたんでしょ?」
「いえ、そんなことないです」
「いいのよ、無理しなくて」
「無理なんて・・・」
無理なんてしてない、緊張しているだけだから。
「いいんだいいんだ、イルカ」
俺の肩をアスマ先生が、ぽんぽんと叩いた。
「イルカは酒の席が苦手だもんなあ。それに仕事を離れると、これが意外に人見知りだしな」
シャイってやつだ、と次は頭を、ぽんぽんと叩かれて少し緊張が解けた。
実に、そのとおりだった。
仕事は目的があって、それに向ってやればいいんだけどプライベートな付き合いってやつが俺は苦手だった。
何を話していいのか分からなかったし。
「おまけに俺たちと酒を飲みに来たのって初めてだしなあ」
アスマ先生が豪快に笑っている。
「え、そうだったの?」
びっくりしている、はたけ上忍。
「そうだ、大勢が参加する飲み会では一緒になったことがあるが今日みたいに個人的に飲みに来たのは初めてだ」
「そうなのよ〜」
紅先生は、ちょっと酔っているみたい。
「イルカ先生は誘っても、いつも断られちゃって」
ふふふ〜と色っぽい笑い声。
「だから今日は無理して来てくれたのかと思ったの〜」
来てくれて嬉しいわ〜と紅先生は言ってくれた。
「そうだったんですか」
はたけ上忍の手が、ふわっと俺の手に重なった。
「なんか、ごめんね、イルカ先生」
・・・・・・謝らなくていいのに。
俺の勝手な事情と対人関係のスキルのなさが原因なのに。
ようやく俺のビールも半分減った。
かなり温くなっていたけど。
そんで、はたけ上忍が席を外した時に紅先生に聞かれた。
「イルカ先生」
「あ、はい」
「その髪を結んでいる紐、綺麗ね」
「ありがとうございます」
髪の紐は、はたけ上忍に頂いたものだ。
紅先生が褒めてくれるって事は、はたけ上忍はセンスがいいんだな〜。
嬉しくなる。
「その髪紐、すごくイルカ先生に似合っているわよ」
俺まで褒められた。
「ありがとうございます」
自然、顔が緩んでくる。
「私ね」
急に紅先生が意味深に言ってきた。
「そのイルカ先生がしている紐と同じ色の紐をカカシが買うとこ見ちゃったの」
秘密を話すみたいに、ひそひそ声。
「でね」
紅先生の瞳が、きらっと光った。
「カカシったら、その紐を買うときにすっごく浮かれていてね」
「はい」
「後で問い詰めたら好きな人にプレゼントしたって白状したのよ」
「・・・はい」
へえ、はたけ上忍、俺の他にも髪紐を誰かにあげていたんだ〜。
その人が好きな人なんだ〜。
はたけ上忍も隅に置けないなあ。
だから俺は言ってしまった。
「はたけ上忍、好きな人がいらっしゃったんですね!」
「・・・そうみたいだけど」
紅先生は、ものすごく微妙な顔をした。
俺は、また見当違いな返答をしてしまったらしい。
・・・少しは仕事以外で気を利いた会話がしたいと思った俺だった。
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