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退院することになった。
怪我もほとんど治って傷口も判らなくなっている。
俺の体を診察した医者が「もう大丈夫でしょう」と太鼓判を押してくれた。
「見事な治りようです」
何故か、はたけ上忍も太鼓判を押してくれた。
「傷痕も、すっかりなくなってよかったですね」
にこにこしていた。
着替えをしている俺の横で、はたけ上忍が俺の裸の上半身を見て言う。
「はい、本当にありがとうございました」
一時は死にそうになっていたのになあ。
そこから、ここまで回復するなんて奇跡的だよなあ。
そんでもって、木の葉の医療技術はすごい!
退院の日、久しぶりに忍服に着た。
懐かしい着心地だった。
忍服が、やっぱり一番馴染むなあ。
ああ、いいなあ、忍服。
忍服を着て、にやついていると、はたけ上忍が懐から何かを取り出した。
「イルカさん、これ」と差し出してくる。
それは髪を結う紐だった。
いわゆる、髪紐だ。
俺の髪は普段は結んでいるが入院してから下ろしっぱなし。
入院のドサクサで、紐が行方不明になってしまったので家に帰ってから予備の紐で髪を結ぼうと思っていたのだけど。
「髪紐ですか?」
受け取った、その紐は濃い紺色。
一見、黒にも見える。
でも光に当たった部分がきらめいて青くにもなって不思議な色合いの紐だった。
「綺麗ですね、この紐」
素直に言うと、はたけ上忍の顔が綻んだ。
「気に入った?」
「はい」
「結んであげる」
俺に渡した紐を取り上げ俺を椅子に座らせると、はたけ上忍は俺の背後に立った。
「あの、自分で出来ますから」
慌てて言うと、はたけ上忍は、ふっと笑ったようだった。
「自分で自分のことするの好きだね、イルカさん」
「そりゃあ・・・」
そんなの当たり前のことだ、大人として。
「俺は好きな人に、あれこれしてあげたいな」
「はあ」
はたけ上忍、好きな人いるのか。
尽くすタイプなんだな〜。
だったら俺にじゃなくて、その好きな人にしてあげればいいのに。
「この紐ねえ、俺が選んで買ってきたんですよ」
俺の背後から手で髪を梳いていく。
「イルカさんが気に入ってくれてよかったです」
「そうだったんですか・・・」
紐のお金、払ったほうがいいよな。
「あの、紐の・・・」
言いかけると、はたけ上忍が俺の考えを見透かしたように先に言った。
「ああ、お金なんて要りませんよ。そんな大そうな金額じゃないですし、喜んでもらえればそれでいいです」
ああ、退院祝いってことで、と言われると反論はできなかった。
「じゃあ、有り難く頂戴します」
「うん」
髪を梳く、はたけ上忍の手は繊細で優しい。
「退院したら俺とイルカさん、知らない者同士になりますね」
「あ、はい。そうですね」
はたけ上忍にも、やっぱり話がいっていた。
今日まで、その話題には触れなかったけど。
「イルカさんは寂しいですか?」
寂しい・・・かな?
同じ里にいるし、全く姿を見ないって訳じゃなし。
はたけ上忍が元気ならば、それでいい。
入院する前は、はたけ上忍と俺は、まだ挨拶も何もしていない間柄だから病院の外で会ったら初対面になるんだよな。
退院したら、こんな親しくは話さないだろうしな。
そう考えると、ちょっと寂しいかなあ。
「少し寂しいです」
「少し?俺は、とっても寂しいです」
項から髪が上にかきあげられて、項がすーすーする。
「こんなにイルカさんと仲良くなれたのになあ」
本当に残念そうな声が頭上からした。
「それは俺も同じです、こんなに上忍の方と親しくさせていただいて」
なんだかんだ世話も焼いてもらって入院生活を不自由せずに過ごせた。
怪我も綺麗に治ったのもメンタル面で、はたけ上忍がサポートしてくれたからに違いない。
「はたけ上忍にはご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありませんでした。ありがとうございました。このご恩は死ぬまで忘れません」
「なーに、それ」
俺の髪を頭の天辺に集めて、はたけ上忍は束ねている。
「なんか、それ今生の別れの言葉みたいよ。退院するのに縁起でもない。また怪我でもするつもり?」
からかわれた。
「いえ、そんなつもりでは・・・」
だって、本当にそう思ったんだから仕方がない。
自分の気持ちを伝えるには言葉にしないと駄目だろ。
「はたけ上忍には感謝しているんです!」
強めに言うと後ろの、はたけ上忍が「くっくっくっ」と笑いを堪えた声を出した。
「ほーんと、イルカさんて真面目〜」
束ねた髪が若干、引っ張られて紐が巻きつけられた。
きゅっと縛られて俺の髪は一纏めになる。
「はい、お終い」
ついでに額宛も縛ってくれた。
これで忍者っぽくなった。
いや、忍者だけどね。
「イルカさん、忍服似合うねえ」
「そうですか?」
ちょっと照れる。
「うん、可愛いよ」
可愛い?
それは俺にそぐわない言葉だと思うが。
褒め言葉だと受け取っておくことにした。
「一旦、お別れだね」
「はい」
はたけ上忍が手を差し出してきた。
「またね、イルカさん」
「はい」
「次に俺に会うまで怪我なんてしないでね」
「はい、はたけ上忍もお元気で」
なんだか急に胸が苦しくなってきた。
大人になって、ここまで親しくなれた人なんていない。
・・・ああ、そっか。
急に解った。
これが寂しいって気持ちなんだ・・・。
「ん?どうしたの、イルカさん」
はたけ上忍が俺の顔を覗き込んできた。
「泣きそう?もしかして」
「まさか〜」
笑って誤魔化した。
はたけ上忍は何も訊かず、最後に俺を抱きしめてくれた。
さよならの挨拶の代わりに。
人に抱きしめられるのって、こんなにも安心するのなんだなあ。
それを、はたけ上忍は思い出させてくれた。
別れは寂しかったが、どうしようもなかった。
退院した俺は気になっていた子供のところへ行ってみた。
いの一番に。
子供は、とっても喜んで抱きついてきた。
「イルカ先生、どこに行っていたんだってば?」
「ちょーっと任務でな」
「そうだったんだ〜」
子供は何も知らされていなかったらしい。
元気でよかった。
一人で生活しているから、とにかく気にはなっていた。
久しぶりに会った子供とラーメンを食べて近況を話した。
特にアカデミーの卒業のことを。
今年は卒業できるといいな、と希望に満ちた瞳で語っていた。
そして卒業前に子供は事件に巻き込まれた。
ひどい事件で俺の同僚が起こしたものだった。
俺も事件を解決すべく出来る限りのことをしたのだが。
残念ながら力及ばずで・・・。
俺に、もっともっと力があればと悔やむ結果に終わった。
子供は心に傷を、俺は背中に傷を負った。
こんな傷は前回、死にそうになった傷に比べればなんてことない。
病院で傷を診てもらい治療を受けた俺は入院もせずに家に帰ってきた。
家で休めば、すぐ治ると思ったから。
思ったんだけど・・・。
すぐには治らなかった、結構、傷は深かったのだ。
背中の傷だからうつ伏せで寝ることしか出来ず、これがまた辛い。
病院から貰った薬は飲んだけど、傷が痛む。
「痛いなあ・・・」
思わず、口から愚痴が出る。
家に一人でいるから誰も聞いていないおもったのだが。
「そんな怪我して痛いに決っているでしょ」
全く、もうイルカさんたら〜と両手を腰に当て、すっごい怖い顔した、はたけ上忍がそこにいたのだった。
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