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「お・・・っとっと」
俺は杖無しで歩いていた。
病室内をぐるぐると。
なんか左右の感覚がおかしいみたいで、ゆらゆらと揺れながら歩いている。
一昨日まで杖を使って歩いていたのに、もう一人で歩けるなんて、すごいな木の葉の医療。
これなら俺が退院するのも間近だな。
入院して三週間くらいか、な?
もっと早く退院できると思っていたんだけどなあ。
医者が言っていた退院まで一ヶ月を要するって言ったのは的中しそうだった。
やはり医者の見立ては正しい。
「イルカさん」
ぐるぐると病室内を歩いていた俺に、はたけ上忍が声を掛けてきた。
「そのくらいにしておいたらどうです?」
やんわりとストップをかけてくる。
「ベッドに戻った方がいいですよ」
病室の外へ出るのは、はたけ上忍が禁止してしまった。
危ないとか疲れるとか言って。
なんていうか、まあ・・・。
はたけ上忍がいなければ病室の外に自分で出るだけの話だが。
「平気です」
俺は答えて歩き回る。
自分の足で歩いて色々、考えていた。
仕事のこと中心に気になっていることをたくさん。
早く治ってアカデミーの子供たちにも会いたい。
子供たちの笑顔と、何人かの子供の寂しそうな顔が浮んだ。
・・・会いたいなあ。
何しているんだろ、今頃。
それに個人的なことで恐縮だったが、自分の家の状態も気になっていた。
一ヶ月も留守にするつもりはなかったので冷蔵庫の中味とか、どうなっているんだろ。
家に帰って中を見るのが、かなり怖い。
・・・・・・まあ、しょうがないか。
こうやって、こんなことを考えられるのも生きているからこそだし。
頑張って早く良くならないと。
なんて考えながら歩いていたら、どんと何かぶつかった。
こんなとこに壁?と思って見上げると、はたけ上忍の顔が合った。
見上げるというより、ほとんど真正面にある、はたけ上忍の顔は不機嫌そうだった。
「はたけ上忍?」
どうしたんだろ。
お腹でも空いたのかな?
ぶつかってしまったので離れようとしたけれど俺の体に、はたけ上忍の手が回っていて離れることは不可能だった。
「あの、はたけ上忍」
体に回っていた手に力が入って、ぐっと抱き寄せられた。
「え・・・」
なんだなんだ、体の熱でも測るのか。
俺、熱でもあるのか?
顔が近くなったので解けていた俺の髪が、はたけ上忍の顔に当たってしまった。
・・・髪って意外に当たると痛いんだよなあ。
時に凶器と化す。
しかも唯一、出ている片目付近に髪が当たっているし。
はたけ上忍、痛くなかったかな。
「あ、はたけ上忍。俺の髪、ぶつかりませんでした、顔に?」
抱きしめられたまま訊くと、はたけ上忍が、ふっと笑ったような気がした。
「ぶつかっていませんよ」との答え。
よかった〜。
「髪って結構、当たると痛いですからね」
「まあ、そうかもしれませんね。って、この状況で言うことが、それなの?」
イルカさんって、と溜め息も漏れたような・・・。
え、俺、何かした?
よく分からないぞ、はたけ上忍の思考が。
「そういえば、初めて会ったときイルカさん、髪を結んでいましたよね?」
はたけ上忍が思い出したように言った。
「あ、はい」
普段は邪魔にならないように頭の天辺で結っている。
ほんとは切ればいいのだけれど、結んだ方が楽なので、そうしている。
そういや病院に着てからは髪、結んでないなあ。
髪紐、どこにいったんだろう。
頭も怪我していたから治療の最中に行方不明になったんだろうな。
「髪を下ろしたイルカさんもいいですけど、髪を結んだイルカさんもいいですよね」
「・・・どうも」
「退院したら、髪は結ぶの?」
「あ、はい」
「自分で結ぶの?誰かにしてもらうの?」
「自分でします」
「そうなんだ〜」
・・・いつ、離してくれるのかな。
大人になって抱きしめられるなんて滅多にないから、それなりに嬉しいけど成人男子同士っては、ちょっと問題だよなあ。
俺が子供だったら良かったのに・・・。
子供だったら、いくら抱きしめても抱きしめられてもいいのに。
そんな考えに耽っていると、はたけ上忍が俺を、やっと離したかと思ったらベッドに追いやられた。
「さ、寝てくださいね」
妙に過保護だ。
俺は大人なのに。
「早く怪我が治るといいですね、ほんと」
これは俺に向って言ったのだが。
「イルカさんの怪我が治るのは喜ばしいんだけど」
後半は、はたけ上忍が自分に対して呟いているみたいで。
「こうやって二人きりになれなくなるのは・・・」
大きく息を吐き出した。
「嫌、だなあ」
悲しそうな声だった。
それから用事があったのか、はたけ上忍は病室を去ってしまった。
「また来ます」という言葉を残して。
俺が一人になると入れ替わるように火影さまが、いらっしゃった。
忙しい人なのに俺のとこにまで顔を出すなんてことしていいのかな?
火影さまは俺の怪我の治り具合を聞いて喜んでいた。
「もうすぐ、退院できそうじゃの」
「はい」
火影さまが綻んだ顔になって俺も嬉しくなった。
「退院したら、ばりばり仕事します」
「そうかそうか」
にこやかな顔で、うんうんと頷いている。
「まあ、ほどほどにな」
さり気ない気遣いをしてくれて火影さまって、本当に火影さまって感じだ。
そして急に真面目な顔になった。
「ところで、イルカ」
「はい」
「カカシのことなのだが」
はたけ上忍?
「退院したら、互いに知らぬ者同士として接してほしい」
「はい」
「カカシは表に出ない任務を受け帰還途中にイルカを見つけたのだが、その事実は伏せられている。イルカ自身も今は任務中の身となっている。よって互いに接触する機会はない」
病院でのことは他言無用ってことか。
まあ、はたけ上忍の任務を漏らさないためにも、しょうがない処置なのだろうな。
任務の守秘義務は絶対で、それが裏の任務なら尚更で。
「退院して出会っても、互いに初対面ということにしてほしい。カカシもイルカが退院することで、やっと本来の任務を受けることとなっておる」
火影さまに頼まれてしまったからには、やり遂げなければならない。
「了承致しました」
俺は深く頷いた。
その後、少しして話をしてから火影さまは帰られた。
一人になってから俺は頭の中を整理した。
病院を退院したら、はたけ上忍と俺の今の関係はないものとなる。
初対面ってことは、また一から関係を築くってことか・・・。
いや、病院の外では関係を築くほど親しくなれないと思う。
何しろ、上忍と中忍で接点少ないし。
火影さまは俺が退院したら、はたけ上忍が本来の任務を受けるって言っていた。
本来の任務・・・。
そもそも、はたけ上忍は召還されて里に帰ってきたんだっけ。
・・・俺が、はたけ上忍の任務を遮っていたのか。
申し訳ないな。
あれ、でも待てよ?
俺は、はたけ上忍の行動を思い出した。
火影さまの来る前の、はたけ上忍の言葉とか。
二人きりになれない、って言っていたよな。
やっと意味が解った。
はたけ上忍は俺より先に火影さまに言われていたんだな、きっと。
俺が退院したら云々ってやつを。
そっかー、だからかー。
納得しかけたけど二回目のあれ、でも待てよ?が出た。
はたけ上忍は何で俺が退院してから本来の任務を受けるんだ?
俺が何か関係あるのか・・・。
それに、はたけ上忍は俺が退院すると嫌とか何とか言っていたような。
いったい、何が嫌なんだ?
解らないことだけだ。
頭が混乱してきて考えが纏まらなくて、ぐるぐるとしてくる。
頭の中が、ぐるぐるぐるぐる。
考えることに疲れてしまった。
結局、その日はぐるぐる歩くことに始まって、ぐるぐる考えることで終わってしまったのだった。
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