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助けた人9



「寂しい・・・」
受付業務の間、人がいなくなるとイルカは呟いていた。
「あああ〜、どうしていなくなってしまったんだ〜」
ごとっと受付の机に頭を突っ伏す。
「ウサギちゃん・・・」
「あのなあ」
朝から、ずっと、この調子であったイルカに同僚が溜め息を吐いた。
「いい加減にしろ」と釘を刺す。
「分かっているんだ、でもさ〜」
イルカは本当に寂しそうな顔になって目を伏せた。
「寂しいんだよ、寂しくて堪らない」
伏せた目には翳が差している。



「ウサギちゃんって、この前、言っていた牙の生えたオオカミみたいなってやつ?」
同僚は以前、イルカがウサギちゃんのことを話した例の同僚であった。
同僚はイルカの言った、おかしな発言を覚えていたのだ。
「うん、、そう」
イルカの声がトーンダウンする。
「いなくなっちゃったんだ、俺の家から」
ウサギちゃんが、どんなものか同僚は知らない。
知らないから慰めようにも上手い言葉が見つからなかった。
「野生のウサギかオオカミなら森の住処にでも帰ったんじゃないのか」
「そうかも・・・」
あながち的外れでもない。
「きっと、そうだ。怪我が治ったから帰っちゃったんだよ」
「なら仕方ないだろ」
「うん・・・」
うん、と言いながらイルカは吹っ切れないらしい。
その様子を見た同僚が別の話題を振ってきた。



「あ、そうそう。行方不明になっていた、はたけ上忍が無事に帰ってきたらしいぜ」
「・・・そっか、良かったな」
「なんでも里内で療養していたんだってさ」
「へえ」
「ある人に世話になっていたって、親身に看病してくれたんだってさ。それって彼女か何かかなあ?」
「さあ」
「いいよなあ、彼女!」
同僚は彼女という言葉の響きに羨ましそうにしている。
「彼女、欲しいなあ。イルカも彼女を作れば寂しくなるんじゃないか」
そんなことを提案してきた。
「いいよ、俺は」
突っ伏したままイルカは顔を背ける。
「だって寂しいんだろ」
同僚が追い討ちをかけた。
「彼女がいれば寂しくないぞ」 「いい、動機が不純だし。寂しかったらナルトかサスケに来てもらうから」
「それも悪くはないとは思うけど、でもなあ」
無駄話をしていたイルカと同僚の二人は受付の入り口に人の気配を感じて、ぱっと姿勢を正した。
人がいない時は無駄口も叩いたりするが基本、仕事には忠実だ。



受付に現れたのは先ほどまで二人の間で名前が挙がっていた人物だった。
同僚がイルカに小声で囁く。
「ほら、噂をすればの、はたけ上忍だぞ」
「うん」
行方不明だったカカシは元気そうに、なおかつ機嫌良さそうな雰囲気を漂わせつつイルカの前に立った。
「報告書お願いします」
「はい」
短い遣り取りが交わされる。
イルカはなるべくカカシの方を見ないようにしていた。
見るとイルカの家からいなくなってしまった助けた人を思い出してしまうから。
カカシさんとよく似た髪の色だったなあ。
光に当たると、きらきらと白く輝いて。
ふわふわの髪がウサギみたいで、また触りたいなあ。
そんな独り言を心の中だけで言ってイルカは、また寂しくなってきてしまう。
ああ、いなくなってしまった俺のウサギちゃん。
と思いながらも顔には出さず、提出された報告書をチェックしてカカシに言った。
「問題ありません、大丈夫です」
愛想よく笑みを浮かべて対応する。
「そうですか」
本来ならば、そこで受付は終了であったのにカカシは、もう用事がないのに受付所を去ろうとしない。
正しくはイルカの前から動かなかった。



覆面の下の表情は判らないが出ている片目でイルカを、じっと見つめている。
その視線の強さに耐えられなくてイルカは訊いた。
「あの、どうかなされましたか?」
受付所に入って来た時は機嫌が良さそうだったのに。
何か受付所で不都合でもあったのか。
そんな不安が込み上げてくる。
何しろ相手は里一番の手練れの上忍だ。
イルカの体に僅かに緊張が走る。
それを敏感に感じたのか「ああ」とカカシが納得したように頷いた。
「ここじゃあ、あれですよね」
あれ、とは何だろう?
いきなり何を言い出すんだろ、カカシさん。
「人目が多いですし。イルカ先生が受付の仕事が終わるまで待っています」
「・・・・・・え?」
カカシの言っていることの意味が、さっぱり分からなかった。
何でカカシさんが俺の仕事が終わるまで待っているんだ?
問い質そうにもカカシは勝手に決めてしまい受付所の隅にある椅子に腰掛けて本を読み始め、そして受付所は混んできた。
イルカの仕事も忙しくなってくる。
仕事をしながらもカカシを時折、視界の端に捉えてはイルカは何かの間違いではなかろうか、と訝しんでいた。



結局、イルカの仕事が長引いて散々、カカシを待たせてしまったイルカにはカカシの誘いを断る余地はなかった。
夜道を歩きながらカカシが話す。
「お腹、減っていますか、飯でも食べます?」
親しげにカカシに話しかけられても、どう返答していいかイルカは判断に迷う。
今までカカシと二人きりで食事に来たことは記憶にない。
なのにカカシは妙にイルカに詳しかった。
「あ、お酒も少し飲みます?ほろ酔い加減のイルカ先生って子供みたいに可愛くなりますもんね〜」
酒も酌み交わしたことがないのに、どうしてイルカが酒を飲んだ時のことを知っているのだろうか?
「え、ええと。」
イルカは親しげなカカシに、しどろもどろだ。
「俺、何でもいいです。カカシさんのお好きなように」
そんなことより何でカカシが自分に親しげにするのか、尋ねたい。
カカシと深く交流なんてしたことないはずなのに。
話したことはあっても、あくまで上忍と中忍、知り合い程度だと思っていたのに。
カカシさん、何か勘違いをされているんじゃないかな・・・。
そう指摘したくなる。
「俺の好きにねえ」
ふむ、と考えたカカシはイルカに言った。
嬉しそうに微笑んで。
「じゃ俺の家に行きますか」
それは決定だった。
カカシの家に連れて行かれるイルカは、どちらかというとカカシよりもイルカ自身がウサギに相応しく。
まるで生け贄のような哀れなウサギに見えたのであった。



「ここが俺の家ですよ〜、どうぞ〜」
上機嫌で玄関の扉を開けられてイルカは吸い込まれるようにカカシの家に入ってしまう。
本能がこの家に入ってはいけない、と警鐘を鳴らしていたがカカシには逆らいがたい力があった。
「嬉しいなあ、イルカ先生が俺の家に来てくれるなんて」
うきうき気分のカカシが家の明かりを点けてイルカに座るように促した。
イルカは大人しく、それに従い正座する。
「俺の家には酒も食料もあるので心配ないですよ。最初は酒にします?」
訊かれてイルカは、こくりと首を縦に振った。
俺、これからどうなるんだろう?
今更ながらに心配になってきイルカだ。
本当だったら家に入る前にするはずの心配を今頃している。
「すぐ準備しますね」
カカシは、いそいそと酒の瓶とグラスを二つ持ってくる。
グラスに酒を注ぎ、ちんとグラスを合わせて型どおりの乾杯をした。
イルカがグラスに口をつけた時にカカシは自分の家で寛いでいるのか、額宛と覆面を取り去った。
カカシの顔が露わになる。
その全貌がイルカに見えた。
「あーっ!」
行儀が悪いと思いつつイルカはカカシを指差した。
「ウサギちゃん!」
イルカの前から姿を消してしまった助けた人が今、目の前にいた。




助けた人8
助けた人10




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