助けた人8
カカシはチャクラが回復するのと体の怪我が治る間、ずっとイルカの家にいた。
イルカの家は非常に居心地がいい。
いや、正しくはイルカの傍が居心地がいい。
イルカ先生って癒し〜。
カカシは、そんなことを思わずにはいられない。
今まで、ほとんど話したことがなかったのだが同じ家の中にいるとイルカの様々な顔が見られる。
外ではお目にかかれない一面だ。
料理が意外に上手いのも、もちろんだったが、くすぐったがりだったり甘いものが好きだったり少しのお酒でほろ酔い気分になったり。
ほろ酔い気分になるとガードが低くなってカカシに寄り掛かってきたり。
甘えてくる一面も見せたりしてくれた、常識の範囲内でだが。
それらが総てカカシにとっては新鮮で、見るたびに惹かれていくのが自分でも解った。
イルカ先生っていいよなあ。
ほんの数日、一緒に寝食共にしただけであったがカカシにとっては、それだけで好意を持つのには十分な時間であった。
「怪我もほとんど治りましたね」
傷の消毒と包帯の交換をしてくれていたイルカが言った。
「もう大丈夫ですね」
「うん、どうもありがとう、イルカ先生」
カカシは素直に礼を述べる。
「俺が死なずにすんだのもイルカ先生のお陰です」
怪我をしたせいでイルカと出会えたので怪我の功名でもあるのだが。
「いいんですよ、気になさらなくても」
微笑んだイルカの顔が、ふっと曇った。
「どうしたの、イルカ先生」
気が塞いでいるようなイルカ。
何か心配事でもあるのだろうか。
訊いてみたがイルカは首を振って「何でもありません」と答えるだけだった。
どうしたんだろう?
はて、とカカシは考えてみた。
今はイルカは出勤してしまい家にはカカシ一人で考えるにも打って付けだった。
・・・そういや、俺、イルカ先生の世話になりっぱなしだ。
怪我して拾ってもらって看病してもらって、ご飯食べさせてもらったり身の回りの世話など全部、イルカにしてもらっている状況だ。
無論、カカシも出来ることはやってはいるがイルカに「怪我をしているだから無理をしないでください」なんて言われると、それに甘えてしまってたりする。
うーん、何でもイルカ先生にやってもらって俺、何もしていないなあ。
よくよく考えてみると食費なんかも一銭も出していない。
イルカが金銭的なことで気が塞ぐような人間ではないと思ってはいるが、そこは親しき仲にも礼儀ありだ。
少しは気にした方がいいよなあ。
カカシは反省する。
今度、看病のお礼に食事にでも誘って、そんで自分の家にも来てもらいたいなあ。
イルカ先生が俺の家で一緒に暮らしてくれるってのも悪くない。
淡い期待を抱く。
自分の家、という言葉と共にカカシは嫌なことまで思い出してしまった。
現実に引き戻されたのだ。
「あ〜、任務の報告・・・」
任務の終了の報告をしていない、と重要なことを思い出したのだ。
イルカの家が余りにも居心地が良すぎて現実を忘れていた。
「う〜、報告しないとやばいんだけど」
里へ帰還したとの連絡もしていない。
「色々、やばいな」
一度、自分の家にも帰らないと駄目かもしれない。
すごく気が進まない。
気が乗らない。
この天国みたいなイルカの家から出たくない。
現実に戻りたくない。
いつまでも夢のような世界で生きていたい。
そんな馬鹿馬鹿しいようなことまで思ってしまった。
「でも、まあ、しょうがないよ〜ね」
カカシは溜め息を吐いて肩を竦めた。
指を折ってイルカの家にいる日数を数えてみる。
「あ〜、こりゃ駄目だ」
がっくり肩を落とした。
「一度、里へ任務の終了報告、俺の生存連絡しておかないと」
上から怒られること必至だ。
任務の帰還日から大幅に日にちが過ぎている。
「しょうがない」
イルカがいない時に帰るのは気が引けるけど。
カカシはメモ用紙にイルカに言伝を書いてテーブルに置いた。
お世話になりました、ありがとうと。
他にも、また会いましょうとか書こうとしたのだが。
「同じ里にいるし、すぐに会えるよね」
とりあえずは看病してもらったことへのお礼だけ書き残しカカシはイルカの家を後にした。
服はイルカの忍服を借りて、後で服を返すのを口実にイルカに会いに来るつもりでもあった。
「またね、イルカ先生」
そうしてカカシはイルカの家を去ってしまった。
夕方。
イルカが帰ってきた。
息を切らして急いで玄関の扉を開けて、ばたばたと家の中に入っていく。
「・・・やっぱり」
家中、探してもカカシの姿はなかった。
意気消沈してイルカは床に座り込んだ。
「いない、ウサギちゃんが」
いつもイルカの帰りを待っていてくれて笑顔で出迎えてくれた、助けた人はいなくなってしまった。
怪我が治れば必然的にイルカの家にいる必要はなくなる。
それを懸念してイルカは気が塞いでいたのだ。
いつまでも助けた人が一緒にいてくれたらいいなあ、と思い始めていた。
ふとテーブルの上のメモ用紙に気がついた。
そこには書き置きが。
お世話になりました、と。
「怪我が治ったから帰っちゃったんだ」
握り締めたメモ用紙がイルカの手の平で、ぐちゃっと潰れた。
助けた人はどこの誰だか分からない。
名も知らないのだ。
「もう会えないかもしれない」
イルカは悲観的なことを考える。
人が一人いなくなった部屋は、やけに広く寒々と感じた。
元々はイルカだけしかいなかった、その状態に戻っただけなのに。
「勇気を出して名前くらい訊いておけばよかったな」
イルカは深く後悔したのだった。
助けた人7
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