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月夜の狼男 6




「泊まって言ってください。」って馬鹿か、俺は。
今、言わなければいけないのはこう言う事じゃないはずなのに。



俺の言葉を聞いたイルカ先生は。
何も言わずに俺が掴んだ手首を取り返そうとして。
振り払おうとした。
振り払われたら帰られてしまう。
俺は掴んだ手首に力をこめた。
暫く、無言で手首の引っ張り合いが続いて。
イルカ先生が息を切らして肩を大きく上下させている。
浴衣も着乱れてきてしまっていた。
因みに俺は何ともないけど。


「は、離してください。」
やっとイルカ先生がしゃべった。
「俺、帰りたいんです。」
「どうして?」
イルカ先生の眉が歪み体が強張った。
答えたくないらしいが、帰らせたくはない。
手首を引いたら素直に俺に傍に来た。
俺の横に座ってくれたので手首ををそっと離す。
握っていた、そこは赤く痕が付いていた。


「ごめんね、強く握ちゃって。」
離した手首を優しく摩るとイルカ先生は俯いた。
「痛い?」
冷やした方がいいかな。
心配になった。
好きな人に痛い思いをさせたりして。
こんなつもりじゃなかったのに上手くいかないな。
溜め息が出ちゃうよ、本当に。



「ごめんなさい。大丈夫です。」
イルカ先生が静かに言った。
「痛くありませんから。」
手首が俺から離れた。
「そ、そう。」
イルカ先生の元気の無い様子に俺は焦った。
どうしたらイルカ先生を元気付けることができるだろう。
好きな人に自分の元気をあげられたらいいのに。



「すみません。」
イルカ先生の声に顔を上げると。
俺の方をじっと見ていた。
「困らせていますね、俺。」
「いや、そんなことは・・・。」
ない、と言おうとして遮られた。
「分かりますよ。だって、耳が伏せられていますから。」
「あ・・・。」
耳!
自分では意識していなかったが、俺の感情を耳の動作一つで表してしまうらしい。


じゃあ、今までの会話の中で。
例えば、俺が自分の気持ちを偽ったことを言ったりしていたら。
全部、それが嘘だと分かってしまっていたのか。


会話が思い出されて冷や汗がだらだらと出てきた。
「あ、あの。」
そういえば。
好きな人はいるかって聞かれた時、俺なんて答えたっけ?


確か、いないって言ったよな。
目の前にいるのに。
で?耳は?
耳は、その時どうしていた?
ああ、俺って、とんでもない間違いをしたような。
口では好きな人はいないって言っても耳が本当の気持ちを表していたら、それは嘘を言ったということで。
嘘をつかれたら信用できない、よね。
取り返しが付かないのかな。



「カカシ先生。」
イルカ先生の真剣な声と顔。
「もう一度だけ、聞かせてください。」
先ほどの質問がイルカ先生の口から出た。
でも、ちょっと違っていた。



「好きな人は誰ですか?」





月夜の狼男 5
月夜の狼男 7



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