月夜の狼男 5
イルカ先生の声は僅かに震えていて。
緊張を帯びていた。
あんなに沢山お酒を飲んだのは、緊張を解すためだったのかな。
聞かれた俺はドキドキして。
イルカ先生の目は真剣そのものだった。
その目が瞬きした後。
もう一度、ゆっくりと質問が繰り返された。
「好きな人はいますか?」
「・・・それは。」
俺までも緊張が移ってしまったのか胸の鼓動が早くなってきた。
ここで言っちゃっていいかな。
言ってしまいたい。
あなたが好きです、好きなのはイルカ先生ですって。
でも、なあ・・・。
無難に。
「いえ・・・今はいませんよ。」
そう答えてしまった。
イルカ先生に自分がフリーだということをアピールした方がいいような気がしたからだ。
フリーをアピールしたら恋人が欲しいということにならないだろうか。
そんでもって、二人でいて好いムードになったら告白したい。
俺の答えを聞いたイルカ先生は、少し黙って。
「そうですか。」と笑った。
「突然、変なことを聞いてすみません。」
無理に笑っているようだった。
目の色が、とても落胆したように見える。
よいしょ、とイルカ先生が立ち上がった。
「長居してしまいましたね。」
浴衣の裾を直して。
「俺、もう帰ります。今日はご馳走様でした。」
「えっ。」
てっきり今日は泊まっていってくれると思ったのに。
「でも、もう夜も更けたし。」
泊まっていったら、と言いかけてイルカ先生に遮られた。
「夜も更けたので帰りますね。」
イルカ先生は、何だか俺から早く離れたいような雰囲気だ。
そんな感じが伝わってくる。
俺、もしかして何か気に障る事でもしたんじゃないだろうか。
ものすごい不安に襲われて。
イルカ先生を引き止めてしまった。
引き止めることしか頭になかった。
だって、この日を境に急に疎遠になられたら。
距離を空けられたら。
避けられたら。
そんなの嫌だ。
再び手首を掴んでしまった、強く。
そんな俺を見たイルカ先生は。
もう笑ってはいなかった。
唇を噛みしめて哀しそうな目をして俺を見下しているだけ。
何か言ってほしい。
いやイルカ先生が言わないのなら俺が何か言えばいいのか。
何て言おう。
考える間もなく、一番の願いが口から出てしまった。
欲望とも言う、それは。
「今夜は泊まっていってください。」
と、いうものだった。
月夜の狼男 4
月夜の狼男 6
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