月夜の狼男 3
それから一ヵ月して。
イルカ先生は俺の家に遊びに来ていた。
一ヶ月の間に俺の家の来てくれるくらいに関係は進んだ。
と言っても、お目当ては。
「わー。可愛いですね。」
イルカ先生は俺の家の庭で忍犬に囲まれて、すごく嬉しそうにしている。
犬好きだというイルカ先生を、忍犬に紹介するという名目で招待したのだ。
忍犬たちは普段は振らない尻尾を存分に振って、イルカ先生に大好きをアピールしている。
こんな様子、俺には見せたことないのに。
イルカ先生って動物に好かれる人なんだなあ。
そんなイルカ先生を俺は好き。
犬と戯れるイルカ先生を見て和んでいたらイルカ先生が気が付いたように言う。
「犬って、怖い時や困ってる時以外にも耳が伏せるんですね。」
「ああ、嬉しい時もですね。」
俺は余りそういう姿を見たことはないが。
今、忍犬たちは尻尾を振って耳を伏せてイルカ先生と遊んでいた。
「可愛いですね。」
イルカ先生は可愛い笑顔を俺に向けてくる。
「本当ですね。」
俺も答えて微笑んだ。
イルカ先生がね、と心の中で付け加えて。
狼男の件は、あれ以来話題には上らない。
俺の耳も満月の夜が明けて、朝になると人間の耳に戻っていた。
多分、少し掠っただけの傷だから感染力も弱かったのだろう、噛まれたわけではないし深い傷でもなかったから。
そう推測した。
イルカ先生の狼男と知り合い、というのが気に掛かるけど。
まあ、酔った上での戯言だったのかもしれない。
改めて聞くほどのことでもないだろう。
それより、耳だけが満月の夜に変化する。
それはいつまで続くのか。
いつ変化しなくなるのか。
目下ところ、それが一番心配だった。
その日。
イルカ先生は俺の家で夕飯食べて。
夕飯が終わった後は縁側で、のんびり酒などを飲んでいた。
明日は二人とも休みなので多少の夜更かしは問題ない。
夏が終わって秋になり過ごしやすい気候になった。
涼しい夜風が吹いている。
イルカ先生は俺の隣にいて、俺の浴衣を羽織っていた。
汗をかいたから、と風呂に入らせて着替えが無いイルカ先生に俺の浴衣を着せたのだ。
すごく似合っている。
とてもいい。
そして、実は俺が着ている浴衣はイルカ先生と色違いでお揃いだ。
イルカ先生には内緒だけど。
好きな人に自分の服を着せる、ペアルックになるようにして。
俺の人生の密かな目標が密かに達成された。
心の中でガッツポーズを取っていると。
イルカ先生が「ふふふ。」と笑った。
「ど、どうかしましたか?」
まさか、ばれたのか俺の心中。
イルカ先生の頬は、酒で仄かに赤くなっている。
「いえね。」
ちょっと悪戯っ子のように笑った。
何度も言うけど可愛い。
同性に対して可愛いなんて不適切な感じがするけど。
俺の目にはそう映るから不思議だ。
これも愛ゆえか。
ああ、今晩はイルカ先生、うちに泊まっていってくれないかな。
同じ部屋で枕を並べて寝てみたい。
ああ、究極の俺の夢。
叶う日は来るのかなあ。
そんなことを考えて一人、悦に浸っていると。
イルカ先生が話しかけてきた。
さっき、言いかけた続きだ。
「カカシ先生、今、楽しいですか?」
「え?ええ、まあ。」
イルカ先生といて楽しくないなんてあり得ない。
「すごく楽しいですよ。」
答えて、グラスに入った酒を飲み干した。
イルカ先生もお酒を飲んで。
「やっぱりね〜、そうだと思いました。」
にこりと微笑む。
無邪気な笑顔だ。
「やっぱりって?」
どうして分かったんだろう。
俺が首を傾げているとイルカ先生が、ずいっと俺の方に体を寄せてきた。
浴衣なので露出も多く、素肌が見えている。
そんなイルカ先生にドキドキしていると。
頭の上に、ぽんと手を置かれて撫でられた。
「イルカ先生、どうしたの?」
急に頭を撫で出すのは何で?
「だってね〜。」
イルカ先生は俺の頭から手を離して。
「耳がパタパタってしていて、楽しそうなんですもん。」
「え?」
慌てて頭に手をやると。
耳が生えていた。
この前と同じものが。
狼の耳が生えていた。
月夜の狼男 2
月夜の狼男 4
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