若き忍の星5
「まあ、それはおいといて」
それとは恋愛関係のことだ。
さてと、とイルカは立ち上がると、そっと隠れ家の外へ出た。
外といっても結界の張ってある中である。
目を閉じて意識を集中し、耳を澄ます。
木々が風でざわめく音、動物の足音や鳴き声、虫の声。
それに混じって微かな音がした。
イルカの耳は、それを敏感に察知した。
意識を更に集中させて音を聞き分ける。
かさ、と音がする。
草を踏む音。
動物ではない、人間、それも数人の。
音は隠れ家から少し離れたところで聞こえた。
まだ、ここは見つかっていない。
ここを見つけようとしているのは間違いないと思うけれど。
その何者かが、こちらに好意を抱いているとは考えにくかった。
同じ里の忍ならば隠れ家のことはしっているはず。
油断は禁物、おそらく敵対する者と言ってもいいだろう。
「ちっ」
イルカは舌打ちした。
「町から、きっとつけられていたんだ」
町から帰ってくるときの気配に対する嫌な予感は当たっていた。
眉を顰めて唇を噛む。
「まずったなあ」
町にいた時に変な雰囲気を察したが一瞬だけだったので、気のせいかとも思ったのだ。
「きっと、あれも見られていたに違いない」
イルカが言う、あれとは町から出て離れた場所で里への式を飛ばしたことだ。
自分の状況とカカシの素性、動向を問う式を放ったのだ。
その式は返事を貰ったらイルカのチャクラを目指して、イルカの元に返ってくるように細工してある。
「ふーむ。俺もまだまだだな」
腕を組んで自分の未熟さを反省した。
「中忍になって二年、もっと修行の余地ありだな」
人生何事も勉強と、失敗しても前向きに捉えるところがイルカらしい。
・・・といっても。
今の状況は非常に芳しくない。
敵に、ここが知られるのも時間の問題だろう。
「どうしようかな〜」
考え始めたイルカが何かの気配に顔を上げると里から返ってきた式が目に入った。
返ってきた式の内容に目を通してイルカは頷いた。
納得という風に。
その式を手の中で、ぼっと燃やしてしまう。
証拠が残らないようにだ。
「りょーかい」
式にはイルカへの指示が書いてあった。
カカシについても。
「よし!じゃあ、頑張るかなっと」
イルカの口元に知らず知らず、笑みが浮かんでいた。
無邪気とは程遠い、忍の顔で笑うイルカだ。
「見てろよ、俺は絶対に勝つからな」
誰ともなく宣言してしまう。
それからベストの胸ポケットを押さえた。
「いざとなれば、これがあるしな」
これとは薬品を開発する部署にいる友人がくれたものだった。
友人はイルカの毒薬に対抗する薬を処方した後に言っていた。
「もしも一週間以内に里に帰ってこれない事態に陥ったら、これを飲めよ」
手の平に乗るくらい小さい青い小瓶をくれた。
中には液体が入って揺れている。
「なに、これ?」
イルカが訊くと友人は、にやりとした。
「万能薬だ」
「ばんのうやく?」
「そう、何にでも効く薬だ」
ものすごく怪しげだった。
「これ、ほんとーっに飲んでも平気なんだろうな」
「あったりまえだろ、俺を信じろ」と言われても、いまいち信用できないイルカであった。
何しろ、薬品を開発にかけては、どこにもひけを取らない木の葉の里ではあるが、この薬品開発に関わる人間が一癖も二癖もある人間ばかりであったからである。
イルカの友人も例外ではなかった。
「まあ、じゃあ、貰っとくよ」
ベストのポケットに仕舞い込むと友人は、もう一つ、万能薬の入っている小瓶によく似た小瓶をよこした。
「これもやるよ」
「これは何だ?」
ふふふ〜と不気味に笑った友人は言った。
「すっごくいいもの。好きな女の子でも飲ませろよ」
「あー、うん」
結局、そのもう一つの小瓶の中味の正体は教えてくれなかったのだ。
それも持ってきてしまっていた。
「あー、余計なことまで思い出しちゃったよ」
イルカは溜め息を吐く。
「あいつ、これがなければ好いやつなのに」
変なことばっかりするからな〜とぼやく。
「まあ、いっか」
気を取り直したイルカは隠れ家の中へ、すっと姿を消したのだった。
「カカシさん」
そっと呼びかけられてカカシは目を覚ました。
どうやら、ぐっすりと眠っていたらしい。
こんなことは珍しい。
いつも眠りは浅いのに。
「どうしたの、イルカ」
「ええ、まあ、ちょっと」
寝ているカカシの傍らに肩膝を突いたイルカがカカシの額に手を当てた。
「体調はどうですか?」
「うん、かなりいいよ」
「熱もないみたいですね」
「まあね」
カカシの額よりもイルカの手の方が明らかに熱い。
「ねえ、イルカ」
「なんです」
額から離れていくイルカの手をカカシは掴まえた。
「俺よりもイルカは大丈夫なの」
「大丈夫とは?」
イルカが眉を潜める。
カカシの言っていることが心外だとでもいうように。
「俺は平気です」
一言で、ばっさりと切り捨てられた。
「そういえば捻ったと言っていた足は?歩けますか」
「それは、ちょっと無理だけど。肩を貸してくれたら・・・」
不承不承、答えるカカシの顔は不満そうだ。
イルカが自分の質問に答えなかったことを不服としている。
「あのさ、イルカ」
カカシは、もう一度言った。
「無理しなくていいよ、俺だったら」
何とかなる、と言おうとしたのだがイルカの声に遮られた。
「カカシさん」
イルカの目は真剣だった。
「カカシさんのことは俺が守ると言ったじゃないですか」
ふと穏やかな顔になったイルカの目に優しい色になった。
「だから安心して俺に守られていてください」
その言葉にイルカの覚悟のようなものを感じたカカシは何も言えなくなってしまった。
「そっか」
目の前のイルカの顔に手を伸ばして頬を撫でた。
撫でずにはいられなかったのだった。
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