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内緒の話 その七



イルカは酒の勢いで言ってしまったらしく「あ」と口を押さえた。
見る見るうちに、かあっと赤くなっていく。
「あの、俺・・・」
一瞬で酔いが醒めてしまったのかイルカが俯く。
そしてカカシに詫びた。
「すみません、失言でした」
伏せられた瞳の色が見えない。
今は、どんな色をしているのか、カカシは気になった。
「カカシさんが誰と付き合おうと、そんなのカカシさんの自由なのに」
イルカの肩が下がって、ふっと小さく息を吐くのが分かる。
「俺が何かを言う権利なんてないのになあ」
自嘲するようにイルカは笑った。
「せっかく、自分の気持ちに整理がついたと思ったのに」
その言葉にカカシの心の奥底に眠っていた何かが、ぴくりと反応した。



「イルカ先生」
名を呼ぶとイルカの肩が揺れた。
「この前の女性は次の任務の同行者で、好きでも何でもないんです」
カカシは弁明した。
「彼女なんかじゃありません」
「でも・・・」
イルカは言いよどんだ。
「カカシさん、好きな人がいるって前に言っていましたよね」
「前?」
記憶にない。
「前に、いつまでもいつまでも好きだと思う人がいるって」
「ええ、そういう人はいますけど」
それを、いつイルカに言ったのかカカシは思い出せない。
「いつ、俺がそんなことを言ったんでしょうか?」
覚えがないので恐る恐る訊いてみると意外な答えが返ってきた。
「三年前の、ある晩です」
「え、それはもしかして・・・」
イルカとの間に深い溝が出来た一件だろうか。
カカシが、ずっと気にかけていたこと。
ある意味、カカシが大失敗した件だ。
「あのですね」
もう一度、三年前のことをイルカに確認してみることにした。
もしかしてカカシの認識と大きなずれがあるのかもしれない。
「あの晩のことですが・・・」
カカシは三年前のことを思い出しながら話を始めた。



三年前。
あの晩、カカシはひどく酔っていた。
珍しく酒を飲んでいたのだ、しかも自棄酒を。
完全に自暴自棄になっていた。
任務で稀に見る大失敗をしたのだった。
自分が情けなくて嫌になって、ついつい酒に逃げてしまった。
酔っ払って何もかも忘れてしまいたかったのだ。
そうして酒を飲み悪酔いしてしまったカカシは深夜、自宅へ帰るべく、ふらふらと道を歩いていた。
自棄酒を煽るように飲んだものだから酔った体は、あっちへふらふら、こっちへふらふら。
いわゆる千鳥足というものである。
上忍なのに、こんな俺って、と自棄になってしまう。
どうせ俺なんて俺なんて。
深い溜め息を吐いて自分を責めた。
そんなカカシの背後から声を掛ける者がいた。
その声はカカシの心へ涼やかな風が舞い込むように清涼感を齎した。
「・・・大丈夫ですか?」
その声の主はイルカであったのだ。



「だいぶ、ふらついていますけど」
もしよかったらお送りしましょうか、とカカシに手を差し伸べてくれたのだ。
「イルカ先生」
カカシの声でイルカは相手が誰だか分かったようだった。
「あ、カカシさんですか?」
「そうでーす」
腕を肩に回して、ふらついている自分を支えるようにしてくれたイルカに遠慮なくカカシはもたれ掛かった。
以前から好感を持っていたイルカに下心があったのかもしれない。
「どうしたんですか、カカシさんが酔うなんて珍しいですね」
足取りが怪しいカカシを引っ張るようにイルカは歩く。
「俺だって酔いたいときがあります〜よ、人間だもん」
「そうですね」
イルカは頷いた。
「誰でも、そんなときがありますよね」
カカシの言うことを否定もせず、しかし何も訊くこともせず素直に同意してくれた。
今のカカシが普通の状態ではないと察してくれているのだ。
「イルカ先生は〜」
体をイルカの預けてカカシは質問した。
「なんで、こんなところにいるんです?」
「俺は」
イルカは淡々と答える。
「仕事で遅くなってしまって」
帰宅途中だったのだ。
「仕事って、もう零時を回っていますよ」
カカシの指摘にイルカが苦笑するのが分かった。
「まあ、残業ってやつですね」
「そうですか〜」
「はい、そうです」
やり取りが何だか楽しい。
ささくれだっていたカカシの心が和らいでいく。



「ところでカカシさん、家の方向はこちらでいいんですよね?」
イルカの問いかけにカカシは、こくりと首を立てに振った。
「はいはい、いいですよ」
以前、イルカは一度だけカカシの家に来たことがあるので道をある程度は覚えていたらしい。
かなりの時間をかけてカカシの家に到着した。
「カカシさん、カカシさん」
イルカに肩を揺らされ気がついた。
どうやらイルカに引き摺られるようにして歩かされていたカカシは半分、眠りに落ちていたのだ。
「着きましたよ、家に。鍵はどこですか?」
「あー、鍵ね」
ポケットを探って鍵をイルカに渡すとイルカはカカシを抱えたまま、器用に鍵を開けた。
「カカシさん、大丈夫ですか。歩けます?」
「うーん、ちょっと駄目かもしれません」
任務と酒で疲れた体は、ぐったりとしている。
「あの、じゃあ」
イルカは躊躇いながら申し出てきた。
「部屋の中までお連れしても構いませんか?」
「あー、どうぞどうぞ」
適当に答えるとイルカはカカシを、カカシの部屋の中に連れて行く。


「水でも飲みますか?」
イルカはカカシを座らせると甲斐甲斐しく、世話を焼く。
「少し酔いを醒ましたほうがいいかもしれません」
「あー、うん。そうですね」
返事をしながらカカシは額宛もベストも放り投げた。
ばったりと床に寝転がる。
眠くて、しょうがない。
「カカシさん、お水を持ってきましたよ」
イルカが優しくカカシの肩を揺すった。
「どうも〜」
床に肘を突いて頭だけ起き上がる形をとるとカカシはイルカが持ってきてくれた水を、ごくごくと飲み干した。
「もっと飲みますか?」
「いいええ」
「寝るならベッドがいいですよ」
「うーん、そうですねえ」
言いながらもカカシは動こうとはしなかった。
動くのが面倒で、このまま寝てしまいたかったのである。
寝て、何もかも忘れたかった。



「ベッドに行きましょう」
イルカがカカシに手を貸して起き上がらせる。
「ちゃんとしたところで寝ないと疲れがとれませんから」
ぐだぐだしているカカシをベッドまで運んでくれた。
「カカシさん、平気ですか」
カカシをベッドまで運んでくれたイルカはカカシの重さによろめいたのか、一緒にベッドに倒れこんでしまった。
「わ!」
偶然、イルカはカカシの体の下になる。
「お、重・・・。すみません、カカシさん、退いてもらえますか」
「うーん」
カカシの目の前にはイルカの顔。
体の下には押し倒された体制のイルカがいた。
「あのねえ」
カカシは、にやりと笑った。
酔っ払い特有の悪乗りの笑みだった。
普段、抑えている心の部分が酒を飲むと曝け出されてしまうのにも一因がある。
「イルカ先生」
妙な猫なで声を出してカカシはイルカの顔を両手で挟んだ。
「どうしたんですか、カカシさん」
警戒心も抱かずに不思議そうにしているイルカ。
「俺ねえ、実は・・・」
カカシは、すっとイルカに顔を近づける。
「やりたいと思っていたことがあるんです」
「やりたいこと?」
「ええ」
両手でイルカの顔を挟んでいるカカシはイルカの唇に自分の唇を重ねた。
好きだったイルカにキスをしたのだ。
酒の力と勢いで。
呆然としているイルカに何回もキスをした。
長いキスも深いキスも。
イルカが抵抗しないのをいいことに。
幸せな気持ちになった、イルカとキスをしていると。
いつしかカカシは幸せな気持ちのままに眠りに落ちて。
目が覚めた時、イルカの姿はなかった。
イルカとキスをしたことまでは、しっかりと覚えていたのだが。
その後、何がどうしてどうなったのか、カカシは綺麗さっぱり忘れていたのであった。





内緒の話 その六
内緒の話 その八





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