内緒の話 その六
「あ、ええと・・・」
格好つけるカカシの前でイルカは戸惑っている。
無理もない。
突然の予期せぬ来訪者だったから。
「ヤマトさんはどうしたんですか?」
やっと、それだけ言った。
「ああ、ヤマトは」
カカシは、わざとらしく肩を竦めた。
「野暮用が入ったとかで来れないそうです」
正しくは野暮用ではなく任務だ。
イルカの家に来れないのは不可抗力である。
「あ、そうなんですか」
野暮用の意味を察したのか、イルカが少し赤くなった。
「だったら言ってくれればいいのに、ヤマトさん」
何回も繰り返される後輩の名にカカシは、ここにいない本人に対して、むかっとしている。
イルカ先生に何回も名前を呼んでもらえるなんて・・・。
俺なんか、ここに来てからまだ一回しか名前を呼ばれていない。
妙なことに気がいってしまう。
イルカの肩に置いた両手に思わず、ぐっと力を込めた。
「イルカ先生、俺・・・」
「あ、あのですね」
焦ったようにイルカが言う。
「ご、ご飯、夕飯、まだですか?」
「え?ええ、まあ」
「実はヤマトさんと食べようと夕飯を作っていたんですけど来れないようなので、それで」
じっとカカシを見つめていた目を逸らしながらイルカは言い訳するように言葉を続ける。
「それで、あの良かったら一緒にと思ったんですが」
声が小さくなっていく。
「考えてみたら、そんなの失礼ですよね。だって・・・」
「いえ、別に構いませんよ」
カカシは特に気にすることはない。
イルカ宅で夕飯を食べることが目的に一つであったのだから。
「俺こそ、突然に来てしまってすみません」
謝るとイルカは、ほっとしたように肩の力を抜いた。
その感覚はイルカの肩に置いた手から伝わってくる。
「じゃあ、あの。どうぞ、上がってください」
無事にイルカの家に招かれた。
ただイルカの肩に置いた手を中々、離すことが出来ず苦笑したイルカが、そっとカカシの手に触れて外したのが、とても印象的であった。
「簡単なものですけれど」
イルカが用意していた夕飯は焼き魚に味噌汁、その他諸々の普通のものであったがカカシは、それを見て嬉しくなる。
「あ、味噌汁は茄子なんですね!俺、これ好きだなあ」
茄子の味噌汁はカカシの好物である。
「あ、はい。・・・なんとなく作ったんですけど」
かなり前にイルカに自分の好物に話をしたことがあるので覚えていてくれたのかもしれない。
魚も秋刀魚ではないが塩焼きにしてある。
まるでカカシが来るのが分かっていたかのように。
「あ、そうだ」
持ってきた手土産をカカシはイルカに差し出した。
「これ、少しですけどよかったら」
持ってきたのは酒だった。
張り切って美味しくて高い酒を買ってきたカカシだ。
「すみません」
受け取ったイルカは僅かに複雑な表情を浮かべたのだが次には、にっこりと笑っていた。
「ありがとうございます、冷やしておきますから飯の後にでも飲みましょうか?」
それとも、もう飲みますか?と訊いてきた。
酒は冷やさなくても充分に美味しい種類だった。
「そうですねえ」
カカシは考えた。
酒を飲みながらの方が緊張も解れるかも。
先ほどから見ているとイルカは、どうも固い。
動きが、ぎこちない。
なのでカカシは提案した。
「酒を飲みませんか?イルカ先生の手料理を肴に飲む酒は、きっと美味いですよ」と。
酒を飲むことにイルカも依存はないらしい。
あっさりと頷いた。
「そうですよね、せっかくですから」
すぐ用意しますね、と台所に行ってしまった。
酒を飲むためのグラスか何かを取りに行ったのだろう。
その間にカカシはイルカの家の中を見渡した。
イルカの家はシンプルでアカデミーでの教材らしき物の山を除けば、余り物はなかった。
隣の部屋にはベッドがあるのが見える。
カカシの家と似たような感じの部屋だった。
必要な物意外はない。
これがイルカ先生の家か〜。
きょろきょろとしていると、ある物が目に入った。
「あ・・・」
ベッドの脇に棚にあった写真立てだ。
カカシもベッドの近くに写真立てを置いている。
その写真に目が釘つけられた。
それは知り合った頃に子供たちを含めて撮った写真だった。
カカシも写っている。
イルカと子供たちは笑っていたがカカシは冷めたような表情で。
あれは確か、子供たちが下忍になった記念にって撮った写真だ・・・。
カカシも大事に持っている。
あの後、笑えばよかったなあって思ったけ。
思い出して一人、苦笑いをしているとイルカが戻ってきた。
「お待たせしました」
手には綺麗な柄の陶器のグラスを持っている。
わざわざ、カカシの持って来た酒に合うグラスを探していたらしい。
「あれ、どうかしたんですか?」
一人笑うカカシを不思議そうに見てきた。
「あ、いや。あのですね」
カカシが理由を話すをイルカは懐かしむような顔になった。
「ああ、あの写真ですね」
優しい声がイルカから出る。
「俺、大好きなんですよ」
大好き・・・。
カカシ自身のことを言われたような錯覚に陥った。
酒が進むに連れてカカシもイルカも饒舌になってきた。
・・・というか酔って言葉も滑らかになってきたといった方が正しい。
イルカは熱くなってきたのか腕まくりをしている。
カカシは、といえば額宛もベストも、とうに脱ぎ捨てて、ついでに口布も下ろしていた。
素顔が丸見えだったが構わなかった。
イルカになら幾ら見られても構わない。
むしろ、もっと見てほしいといった心情だ。
イルカのグラスに酒を注ぎ、自分のグラスにも酒を注ぐ。
「美味しいですね」
楽しそうにイルカは酒を飲み干していく。
そんなイルカに釣られるようにカカシも酒を飲んでいく。
イルカと酒を飲むのはカカシも楽しかった。
自分に対して無防備になってくれるイルカに心が騒ぐ。
だが。
ふっと沈黙が訪れた時、イルカが不意に言った。
「この前、一緒にいた女性は彼女ですか・・・」
カカシの顔を真っ直ぐに見て問い質してくる。
「あの女性が好きな人なんですか?」
何故、このタイミングでイルカがこんな質問をしてくるのか。
思いもよらぬ質問だった。
咄嗟のことで返答に詰まるカカシであった。
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