内緒の話 その四
次の日。
目の下に隈を作ったアスマと後輩のヤマトがカカシを見て恨めしそうな顔をしていた。
「ひどい顔だ〜ね」
ぎょっとしたカカシが身を引くと二人は不気味な笑いを浮かべる。
「昨日は地獄を見たぜ・・・」
「死ぬかと思いました・・・」
紅の酒に最後までつき合わされたらしい。
「先輩、途中で逃げるから」
ヤマトから恨み言を言われた。
「まあ、いいじゃないの」
カカシは、ふっと溜め息を吐いた。
「こっちはこっちで大変だったんだからさ」
「へえ、何があったんですか?」
目の下に隈を作っている癖にヤマトが興味津々と言った様子で訊いてきた。
「イルカ先生と何かあったんですか」
「嫌なやつだなあ」
図星を指されてカカシは顔を顰める。
「何があったんですか、教えてくださいよ」
ヤマトは粘り強く訊いてくる。
ここら辺にヤマトの強さの秘密があるのかもしれない。
カカシは、割と恋愛に興味があるんだなあと後輩に対して新たな発見をしたのだった。
「まー、それは内緒だから」
先輩の威厳で一言で終わらせた。
まさか、イルカに好きな人がいて、しかもその人に以前、失恋していたなんて言いたくない。
口が裂けても言いたくなかった。
しかも、それが誰かも判明していない状態で。
「分かりました」
ヤマトは、あっさりと引き下がった。
こんな時、カカシが絶対に口を割らないのを知っているからだ。
しかし、とんでもないことを言う。
「じゃあ、イルカ先生に訊くからいいです」
「ちょっと待て!」
「イルカ先生が話してくれないのなら、それはそれでいいので」
「あのなあ」
「イルカ先生とは今度、ゆっくり話そうと思っていますので」
「こら・・・」
「僕とイルカ先生の友人同士の付き合いに口を出さないでください」
憎らしいことを言ってカカシをけん制している。
「いくら先輩でも、です」
結構、ヤマトは強かであった。
その後、受付所でイルカと会う機会があったのだがイルカは至って普通であった。
普通にカカシに接してくれた。
笑顔を見せてくれるし、その笑顔に翳りもない。
カカシを見て顔を伏せるようなことも視線を逸らすようなこともしない。
それはいいのだが。
でも、とカカシは思う。
元の屈託のない関係に戻れた訳ではない。
奇妙な壁をイルカとの間に感じていた。
説明するのが難しい。
普通に接してくれる分、壁が分かりにくくなっていた。
それにさ、とカカシは憂鬱になる。
イルカ先生が失恋した相手って誰だろう。
考えると落ち込んだ。
失恋したけれど今も、その人のことが好きなんだよね・・・。
イルカがいつまでもいつまでも好きな人とはどんな人なんだろう。
はああと深い溜め息が出た。
そんなにイルカ先生に想ってもらえるなんていいなあ。
羨ましいと心底、思ったのだった。
もやもやとした気持ちのまま、数日、過ごしたカカシはイルカと二人きりで話すことを躊躇っていた。
自分の気持ちも整理できていない状態でイルカと話しても良い結果は生まれない。
そう思ってのことだった。
本当のところはイルカと二人きりで腹を割って話してまでは行かずとも、もやもやとした気持ちをすっきりさせたいと思っているのだが。
三年前に失敗した出来事も気になっている。
そのことを思い出すと顔から日が出るほど恥ずかしいのもあった。
あーあ、イルカ先生、どうしているかなあ。
日々、イルカのことを考えるのには事欠かない。
愛読書である本を手にしていても気がつくとイルカのことを考えている。
さすがに任務の時は別だったが。
そんな折、カカシの元に任務が舞い込み、その打ち合わせとして里中で任務を同行する相手と会っていた。
同行する相手は偶々、くのいちであった。
相手も忙しいらしく里中を歩きながら、大雑把なことを話す。
詳細は後ほど資料と顔を突き合せてとのことになっていた。
「で、ということだからさー」
「分かったわ、だいたいは」
せかせかと歩きながら話していたのだが、ふとカカシの足が止まった。
人ごみの中を真っ直ぐに見ている。
その先にはある人が。
「どうしたの、カカシ?」
話し相手のくのいちが不思議そうにしている。
「あ、いや、ね・・・」
視線はある人に釘付けだ。
そのある人とは勿論、イルカであった。
どんなに人がいてもイルカを見分けられる自信がカカシにはある。
イルカは誰かと話していた。
その誰かはカカシの良く知る人物、後輩のヤマトだった。
「ねえ、ちょっと」
くのいちがカカシの腕を引っ張る。
「早く行きましょう、この後、詳しい打ち合わせでしょ」
カカシを急かす。
「うん、まあ、待ってよ」
イルカはヤマトと会話を二言、三言交わし、少し笑って目を伏せた。
何だか寂しそうな表情に見える。
そんなイルカを慰めるがごとく、ヤマトがイルカの肩に軽く手を置いて元気付けるように叩いていた。
その様子を見てカカシの頭に、かっと血が上る。
一瞬、血が上ったものの訓練された感情の制御によって、すぐに冷静になった。
なんでイルカ先生がここに・・・。
よりによってヤマトと。
冷静になったものの視線は外せない。
じっと見ていると不意に何かを感じたのか、顔を上げたイルカと目が合った。
カカシを見止めたイルカは、はっとなって青ざめた。
イルカの変わり様に何事かとヤマトがイルカの視線の先を見てカカシを発見する。
ヤマトの手はイルカの肩に置かれたままだ。
「あのさ、先に行っていてくれない」
カカシは話していた相手に言い捨て、イルカに近づこうとしたのだが。
それより早くイルカがヤマトに一礼すると、さっとその場を去ってしまった。
カカシが来るよりも先に。
後に残っていたヤマトにカカシはしょうがなく訊いた。
「イルカ先生と何で会っていたの、待ち合わせ?何、話していたの?」
「偶然、会ったんです。話は、ちょっと訳ありなことです」
「訳ありって?」
イルカのことなら知っておきたい。
「プライベートなことですよ」
ヤマトは、しれっとして言う。
「プライベートなことって?」
カカシは食い下がった。
渋々といった感じでヤマトは答える。
「相談事があるとかで。よかったら相談に乗ってもらえないかって言われたんです」
「相談・・・」
二人の仲の良さを見せ付けられたようでカカシはショックを受けた。
ががーんと頭の中を揺さぶられたように。
だからヤマトの言葉も耳に入っていなかった。
「先輩こそ、綺麗な女性と連れ立って目立っていましたよ。今、お付き合いしている方ですか?」
お似合いでした、と。
内緒の話 その三
内緒の話 その五
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