ナチュラル50〜53
『ナチュラル50』
「はあ〜、涼しい〜」
仕事から帰ってきたイルカは、クーラーの前で涼んでいた。
「今日も暑かったですねえ」
先に帰っていたカカシは夕飯の準備をして、部屋を涼しくしていた。
帰ってくるイルカのために。
「夏って、感じがしますよね」
そう言って、にこっと笑ったイルカは「夏だあ〜」と嬉しそうにしている。
「イルカさん、夏が好きですもんね」
「そうなんです、夏が好きで」
俺は夏の男です、なんて冗談を言っていた。
「それに」とカカシは夕飯の準備をしながら話す。
「最近、やっと忙しくなくなりましたね」
「あー、そういえば」
イルカはネクタイを緩めて上着を脱ぎ捨てた。
緩めてネクタイを外して、ワイシャツも脱ぐ。
下には風通しのよい布地のTシャツを着ている。
Tシャツ一枚になったイルカは洗濯物を纏めて腕に抱えた。
「先月、六月はカカシさんも俺も仕事が忙しくて残業の日々でしたね」
「そうそう、先月は何故か忙しくて」
忙し過ぎて疲れて、休みの日は二人して家で、ごろごろと寝てばかりいた。
外出といえば、食料品等の調達くらいで。
カカシにしてみれば、そんな生活は大歓迎であったが。
「週末の休みはどこかに出かけますか?」
「そうだねえ」
仕事の忙しさも落ち着いてきたので、休みの日に出かける体力と気力が出てきた。
「イルカさんは、どこか行きたいとこある?」
「俺は特にないですねえ」
あ、洗濯物置いてきます、とイルカが洗濯機のある洗面所に消える。
「外出か〜、デートだよねえ」
うーん、と考え込むカカシ。
「外は暑いし、どこに行っても人は多いしねえ」
どうしようかな〜。
どうせなら、イルカと二人きりになれる場所がいい。
「イルカさんと家にいるのが一番、俺は好きなんだけどなあ」
家だったら、どんなにイルカにイチャイチャしても誰も見ていない。
誰も邪魔しない。
「あー、そうだ」
洗面所からイルカが、とことこ戻ってきた。
「出かけるのもいいですけど、カカシさんが見たいって言っていた映画をレンタルして見ませんか?」
家で、ゆっくりと。
「あー、いいですねえ」
カカシの希望と合致する。
もってこいのイルカの提案だった。
「あ、それと」
カカシは思い出した。
「ついでに旅行のパンフレットとか貰ってきませんか?」
「旅行?」
「そ、夏休みに山に行くか温泉に行くか、それとも海外旅行とか」
イルカと計画を立てるのは楽しい。
おまけに涼しい部屋でイルカと二人きり。
万々歳。
「ね、そうしましょ」
「そうですね」
イルカも笑顔で頷いた。
それから、二人してカカシの作った夕飯を食べて。
二人仲良く、夏の一夜を過ごしたのだった。
『ナチュラル51』
昼休み。
弁当を食べ終えたカカシがメールを打っていた。
「また、イルカさんにメールですか?」
近くにいたカカシの後輩のヤマトが茶々を入れる。
「いいだろ」
短く答えたカカシはヤマトを睨む。
「イルカさんへのメールは俺の日々の糧なの」
手馴れた手つきで携帯電話のキーを素早く打っていく。
「今日の夕飯は俺が作りますから・・・」
打っているのが声に出ていた。
「俺に任せてください、っと」
送信ボタンを押す。
イルカにメールが送信された。
その様子を見ていたヤマトが質問する。
「今日の夕飯は先輩が作るんですね、何を作るんですか?」
ヤマトはカカシとイルカの関係を知っている。
イルカとも顔見知りで携帯電話の番号とアドレスを交換している仲だ。
「そんなの教えないよ、と言いたいところだが特別に教えてやるよ」
何故かカカシは偉そうだ。
カカシはヤマトがイルカの携帯電話の番号とアドレスを知っているのを快く思っていない。
寧ろ、嫌だと思っている。
イルカから遠ざけたいと思っている。
それは心狭きカカシの嫉妬心からだ。
イルカに近づく者は容赦しないというのがカカシのスタイルである。
「イルカさん、夏になると食欲が落ちるんだよねえ」
はあ、と溜め息を吐く。
「イルカさん、夏が大好きなんだけど暑さに弱いの」
「へええ」
「俺は、イルカさんが夏が好きなら俺も好きって感じ。暑さには滅法強いよ」
「ああ、ですね」とヤマトが納得したように頷く。
「先輩って何気に体が普通の人の倍以上、丈夫ですからね〜」
「うるさいよ」
ぎろっとヤマトに鋭い視線を投げつける。
「で、暑さに弱いイルカさんは食欲もなくなる。そうすると冷たくて喉越しのいいものばかり食べたがるの」
冷たくて喉越しのいいものって何だろう?
ヤマトは首を傾げる。
「この一週間、ずっーっと麺類ばっかりでさ。ざるそば、ざるうどんから始まって、そうめん、冷麦、冷やしラーメン、冷たいスパゲッティに冷やし中華」
「麺のオンパレードですね」
「そうなんだよ」
苦い顔するカカシ。
「こんなのばかり食べていたら夏バテしちゃうし。今日の夕飯は俺が作って、白いご飯をイルカさんに食べさすの」
カカシは、いそいそと数冊の本を取り出した。
料理の本だ。
夏バテしない夏の料理とか、夏のスタミナ料理とか。
そんなタイトルが銘打ってある。
「今日はイルカさんに何を食べてもらおうかな〜」
本のページを捲るカカシの顔は、とても楽しそうであった。
『ナチュラル52』
「わあ!綺麗!」
仕事から帰ってきたイルカはカカシの作った夕飯を見て、歓声を上げた。
「かわいい〜」
テーブルに並べられた料理の数々に見蕩れている。
「すご〜い!これ、全部、カカシさんが作ったんですよね?」
「そうですよ〜」
嬉しそうに目を輝かせるイルカにカカシはご満悦だ。
作った甲斐があるというもの。
「これなら、楽しく食べられるでしょ?」
カカシの作った料理は一口サイズで見た目も華やか、彩りも鮮やかで目を惹きつけられる。
「はい、とっても美味しそう」
イルカは頷く。
「この手まり寿司とか、模様に手が込んでますね」
「うん、色々、研究したの」
「あ、文字にもあるんですね」
カカシは抜かりなく、イルカラブを手まり寿司の模様にしていた。
それを読み取ったイルカは、ほんのり赤くなる。
「・・・カカシさんてば」
「ふふふ〜、これはお約束ですよ〜」
「・・・・・・もう」
照れてしまったイルカは洗面所へ逃げていってしまった。
それを見送るカカシの顔は、にやけている。
「いつまでたってもイルカさんは可愛いなあ〜」
本気で、そう思っていた。
「いただきま〜す」
手を合わせるとイルカはカカシの作ってくれた料理を食べ始めた。
「おいし〜」
顔を綻ばせている。
「すっごく美味しいです」
べた褒めだ。
「なら、よかったです」
夏場は食欲が減退するイルカだったが、この日はよく食べた。
さっぱりしたものを中心に、だけども適度にカロリーが取れるものをカカシは作っていた。
「明日は何か食べたいものありますか?」
イルカが食べてくれるなら、いくらでもカカシは作るつもりだ。
「え、いいですよ」
ふるふるとイルカは首を振った。
「カカシさん、忙しいですし、明日は俺が・・・」
「いえいえいえ」
カカシはイルカの言葉を遮った。
「俺が作りますよ。そんなに忙しくないですし」
「そうですか?」
心配そうなイルカの顔。
「でも・・・」
「まあまあ、いいじゃないですか。俺、イルカさんのために料理を作るのが好きなんですよ」
にこにことカカシは人のいい笑みを見せる。
下手に出ながらも、拒否されないように。
「そうですか、だったらカカシさんにお任せします」
何でもいいです、とイルカは了承してくれた。
「分かりました」
よかった、と内心、思いながらカカシは頷いた。
次の日。
暑い日は辛いものがいいかもしれない。
汗が出て、新陳代謝が良くなって、何より食欲が増進されるという・・・。
そんなことをテレビや雑誌で見かけた。
夏こそ、辛いもの!と。
「ふむふむ」
そんなことを書いてある雑誌を昼休みの時間、会社で熱心に読みふけるカカシ。
いつもの愛読書はお座なりになっている。
「じゃあ、今日は辛いものにしてみようかな・・・」
滅多に食べないからイルカは喜んでくれるかもしれない。
・・・と、カカシは思ったのだが。
仕事から帰ってきたイルカはテーブルの上の料理を見て、申し訳なさそうに謝ってきた。
「すみません、俺、辛いものはちょっと・・・」
「・・・・・・・・・あ」
そこで、漸くカカシは思い出した。
家で滅多に辛いものを食べない理由を。
イルカが辛いものが苦手だからだ。
なので、メニューに出ることは殆どなく。
「忘れていた・・・」
がくっとカカシは膝を床に突く。
「俺としたことがイルカさんの好みを忘れるなんて・・・」
情けない、と落ち込んでいる。
「あ、あの」
そんなカカシをイルカは急いで慰めた。
「少しなら食べれますし、水を飲みながらだったら大丈夫ですから」
「そんなこと言っても、イルカさん・・・」
「せっかく、カカシさんが作ってくれたんですから食べたいです」
にこりと笑うイルカは本当に、そう思っているようだった。
「ね?食べましょう、美味しそうですよ」
「はい」
イルカに慰められたカカシは一緒に辛い夕飯を食べたのだが、後で後悔することになる。
「イルカさん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です・・・」
ベッドの中のイルカは冷や汗を浮かべながら頷いた。
「一晩、寝れば治りますから」
「ごめんねごめんね、ごめんね」
辛いものを食べたイルカは刺激が強すぎたのか、食後、腹痛を起こしていた。
「俺が辛いものなんて、作ったばっかりに」
「カカシさんは悪くありませんよ、気にしないでください」
青い顔に冷や汗を浮かべてイルカは首を振った。
「俺のことを考えて作ってくれたんですから」
「・・・イルカさん」
その夜、夏バテや疲労も相俟って熱を出してしまったイルカは結局、次の日、会社を休む羽目になったのだった。
『ナチュラル53』
朝からカカシは、そわそわとして落ち着きがなかった。
手に携帯電話を握りしめている。
仕事の合間に何度も何度も携帯電話の画面を見ては、がっくりと落ち込んでいた。
覇気も元気もない。
そんな感じで、午前の仕事が終わり昼休みになった。
「はあああああ」
昼休みになるとカカシは思いっきり深く重い溜め息を吐いていた。
何回も。
「はあああああ」
いつもの自信に満ちたカカシはどこへやら、今日は意気消沈している。
同じ会社の後輩であるヤマトは、そんなカカシを見て、何となく原因は分かっていたのだが、敢えて口を出さなかった。
面倒なことになるのが分かりきっていたから・・・。
そんなヤマトを見ながらカカシは、これ見よがしに溜め息を吐く。
「はああああ〜、あーあ」
ふうとか、はあとか。
我慢の限界が来たヤマトは、つい訊いてしまった。
「どうしたんですか?」
「え?あー、うん」
溜め息を吐いていたカカシが長々と語り出した。
「昨日の夕飯、失敗しちゃってねえ」
肩を落とす。
「イルカさんに元気を出してもらおうと俺が作っただけどねえ、それがさ」
はあ、と息を吐き出す。
「イルカさんの苦手なものだったんだよねえ。俺、忘れててさ。イルカさん、頑張って食べてくれたんだけど体調崩しちゃって」
「・・・体調崩すって、いったい何を食べさせたんですか?」
そっちの方がヤマトは気になった。
「何って、辛いもの。イルカさん、苦手なんだよね」
「へえ、そうなんですか」
「そうなの」
「でも、体調、崩すって・・・」
「疲労や夏バテも重なってて、俺がトドメさした感じ・・・」
「それは大変でしたね」
「大変なのはイルカさん」
そして、今日、イルカは会社を休んだらしい。
「ま、イルカさんも疲れが溜まっていたし、ちょうどいいとは思うけどね」
休養になるから、とカカシは肩を竦めた。
「で、イルカさんから電話がないかと朝から携帯電話を肌身離さず持っていたということですね」
「そういうこと」
と、その時、カカシの携帯電話の呼び出し音が鳴った。
昼休みはマナーモードは解除にしてあった。
「あ、イルカさん!」
画面を見たカカシが急いで電話に出る。
幸いなことに部屋にはカカシとヤマトしかいなかった。
「もしもし、イルカさん!どうしたの?具合悪い?大丈夫?」
カカシの声は心底心配している。
「え・・・。何?え?・・・ほんと?イルカさん、ダメです、家で大人しくしていないと。休んでいて・・・。ええ〜、もう会社?」
数分、何かを抗議していたカカシだったのだが、イルカからの電話が切れた後に、ばたっと机に突っ伏した。
「どうかしましたか?イルカさんに何か?」
「イルカさん、体調が良くなったから午後から出勤したんだって」
「え、出勤?」
「そう。おまけに今日は会社の飲み会が入っていて遅くなるって」
「はあ、それは・・・」
何とも慰めようがない。
「あ・・・」
カカシの言葉でヤマトはあることを思い出した。
「そういや今日、うちの会社も飲み会ですよ。暑気払いとかで」
そんなことカカシは、すっかり忘れていた。
「最悪だ〜」
呻いたカカシは、当分、浮上できそうになかった。
ナチュラル47〜49
ナチュラル54〜56
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