ナチュラル
『ナチュラル5』
カカシとイルカはお互いに別の会社に勤めている。
初めて会ったのはイルカが取引先としてカカシの会社に赴いた時であった。
「こんにちは、初めまして」
営業スマイルを、これでもかと炸裂させてイルカは初対面のカカシに挨拶をした。
次いで会社名、部署を名乗り名刺を渡す。
「うみのイルカと申します」
カカシは黙って名刺を受け取った。
これまでカカシの発言はない。
カカシの名刺も黙って渡された。
カカシはイルカのことを遠慮無しに、じろじろと頭の先から爪先まで鋭い目で見ている。
・・・なんだ、この人、とイルカは思ったものの取引先の相手なので顔には出さない。
取引相手に、こんな態度をとるなんて会社で相当偉いのか、この人?
そんな推測も出てしまう。
相手の態度は、ともかくとして取引は成立させたかった。
頑張って、ここまで漕ぎ付けたのだから。
今まで取引を交渉していたのは別の人間で、イルカはカカシと今日、初めて会う。
最終的な取引の契約なので偉い人、つまりカカシが出てきたのかもしれない。
「あの、それでですね」
カカシの態度は気になるが取引を成立させねば、とイルカが言葉を発するとカカシが、それを遮った。
「ねえ、イルカさん」
「・・・あ、はい」
初対面の人間に、いきなりファーストネームで呼ばれてイルカは戸惑った。
「・・・何でしょうか?」
「この取引を契約して成立させたいんだよね」
「それは、もう」
願ってもない。
その通りだった。
「いいよ、契約しても」
「本当ですか!」
イルカは努力が報われたとばかりに満面の笑みを浮かべた。
とっても嬉しそうに。
「ありがとうございます。当社としても・・・」
「でもね」
今度は強行にカカシは、またもや遮った。
「条件があるんだよね」
「条件・・・」
やはりイルカは戸惑ってしまう。
こんなことは初めてだ。
条件て何だろう。
途端に不安になった。
「まあ、簡単なことなんだけどね」
ニヤリ、とカカシが笑ったように見えた。
向かい側の席から立ち上がりカカシがイルカの方へと来る。
「イルカさん」
おもむろにイルカの手を取ると立ち上がらせられる。
両手を、しっかりと握りしめられていた。
「俺と同棲してくれたら取引を契約します!」
そう言われた。
しばらく意味が解らずにイルカは呆然としていた。
頭の中が真っ白になっている。
魂が抜けた状態だ。
・・・・・・この人、なに言ってんだ。
「会社に初めて来たときにイルカさんを見かけてからイルカさんのことが、ずっと頭から離れません。これは恋なんです!イルカさんに一目惚れしました!」
・・・・・・・・・この人、なに言ってんだ。
「それから何回か会社に訪れたイルカさんを柱の影や廊下の角に隠れて、ずっと見ていました。今日もまたイルカさんが来ると聞いて、担当していたやつに無理矢理変わってもらったんです。今日の契約が終わるとイルカさん、来なくなるって聞いて」
その頃には既にイルカはカカシに抱きしめられていた。
「イルカさんほど素敵な人は、この世にいません。大好きです!愛しているんです!」
・・・これって告白ってやつか〜。
思考能力が停止しつつもイルカは何とか考えた。
・・・・・・これって愛の告白ってやつか〜。
同じ男の人からだけど。
「取引を成立させたかったら俺と同棲してください。一緒に住んでくれたら契約します!」
おまけに同棲とかぬかしている。
・・・なんなんだ、これ。
「好きなんです、イルカさん!」
思わず気を失いそうになるが、そんな場合じゃないとイルカは自分を抱きしめているかかしの胸を、どうにか押し返すと、きっとカカシを睨んだ。
「な、なに言ってるんですか!」
「ダメですか、同棲・・・」
「そうじゃなくて!」
イルカは何故か、真っ赤になっていた。
「取引を盾にして同棲を迫るなんていけません」
最もな意見だった。
「それに俺は好きな人となら、こんなことしなくても同棲は考えます」
本当に気持ちが通じ合った相手となら一緒にいたいと思うのが自然な感情だ。
恋人同士ならナチュラルな流れだろう。
「そう、よかった」
カカシは、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、同棲しましょうね」
「はあ?」
今度こそ、イルカは目を瞬いた。
この人、俺の話、聞いていたのか?
「だってねえ」
カカシは嬉しそうにイルカを抱きしめた。
「オレは、もうイルカさんのこと好きだし、残るはイルカさんがオレのことを好きになればいいだけだから先に同棲しても問題ないでしょ」
超展開な理論だった。
「え・・・」
「ね?」
「ねって言われても、あの、俺は・・・」
「よかったですねえ、お互い。好きな人を同棲できることになって」
にこにこ顔のカカシは同棲は決定したと言わんばかりだ。
「ちょっと待ってください」
「どうしたの、イルカさん。ああ、引越しは今週の日曜でいいですね」
「待ってって・・・」
「オレの家、広いんで二人で住んでも大丈夫ですよ」
「あのですね・・・」
「楽しみですねえ。一緒に住むの」
割とではなく結構、カカシは強引だった。
どんどん、話が進んでいく。
「ちょっと待ってくださいよ」
とうとう、イルカが悲鳴に似た声をあげる。
「展開、速すぎです。俺は、まだ、あなたのこと好きじゃないし」
「それは同棲してからでいいですよ」
「あなたのこと何も知らないし」
「これから教えてあげますから。あ、カカシと呼んでくださいね」
「そんなこと言ったって」
反論は次々に交わされる。
「お互いの事を知るのはこれからですよ」
結局、カカシに上手く言い包められてしまった。
それから、なし崩し的にカカシとの同棲が始まって今に至る。
カカシは最初に宣言したとおりにイルカの引越しを実現させて同棲に持ち込んだ。
その時はイルカはカカシを好きでもなければ嫌いでもない状態であったのだが・・・。
そこは同棲していくうちにカカシのことを知っていき、徐々に好きになっていったのだった。
『ナチュラル6』
「イルカさーん、お弁当できましたよー!」
カカシがウキウキとイルカに手作り弁当を渡してきた。
「今日は一日中、会社でデスクワークでしょ」
「あ、はい」
「腕によりをかけましたからね!」
「ありがとうございます」
カカシは時々、弁当を作ってくれた。
いつも料理は凝っている。
と、いうよりカカシは料理が得意で上手かった。
ただ時折、それが裏目に出る。
弁当を受け取ったイルカは恐る恐る聞いた。
「この前みたいのじゃないですよね?」
「違います」
カカシは笑顔でキッパリと否定した。
「そうですか」
それを聞いてイルカは安心して受け取ったのだが、昼休みに弁当の蓋を開けた瞬間、また閉めた。
「…これ、どうしよう」
弁当の中味は、とても美味そうだったが如何せん、白米の上に海苔でキレイに書かれていたものがあった。
それすなわち『カカシさん大好き』プラス、ハートマーク。
この前は『カカシ&イルカ』プラス、ハートマークだった。
「ぜんぜん、変わらないじゃないか…」
もー、カカシさんてばと言いながらイルカは弁当を完食したのだった。
『ナチュラル7』
ガラガラガッーシャン!
カカシが手に持っていた鍋を落とした。
鍋は仕舞うところだったので中には何も入っていない。
カラカラ。
鍋が蓋がイルカの足元まで来て止まった。
「あの…」
イルカは今し方、言ったことについて言い淀んでいる。
カカシの顔は真っ青になっていたからだ。
まさか、そんなに驚くとは思ってもみなかった。
しかし、会社勤めをしていれば普通はあると思う。
「えと、俺、明日から出張で…」
カッラーン!
今度は手に持っていたオタマをカカシは落とした。
「そんで一泊二日、家を留守にしますって…」
言いかけたイルカにカカシが詰め寄った。
「なんで!」
ぐいっと迫ってくる。
「なんで!なんで出張?なんで一泊二日?なんでイルカさん?」
なんで?と言われても仕事だから、しょうがない。
「誰とどこ行くの?」
訊かれてイルカは素直に答えてしまった。
「一人で、飛行機に乗って…」
地名を言う。
するとカカシが破顔した。
「ああ、そうなの。よかった〜」
何がいいのだろう。
「じゃ、オレも一緒に行きますね!」
「………え?」
「有給余っているし、イルカさん一人ならオレが一緒に行っても問題ないでしょ」
多いに問題ある。
「いやいやいや、ダメですって、カカシさん」
「イルカさん、オレがイヤなの?」
「そうじゃなくて俺は仕事ですから」
「でも離れるのは耐えがたいし、イルカさんが心配で心配で心配で」
「子供じゃないんで大丈夫ですよ。すぐに帰ってきますから。カカシさんは家で待っていてくださいね、俺、カカシさんがいる家に帰って来たいんです」
やんわりと断った。
カカシを傷つけないように、いつもイルカを思ってくれているカカシを。
「イルカさん!」
ガバッとカカシに抱きつかれた。
「早く帰ってきてくださいね!」
どうやら一緒に来るのは諦めてくれたらしかった。
そのかわり、今度、二人きりの旅行を約束させられた。
誰もいない場所へ二人きりで行くらしい。
ナチュラル1〜4
ナチュラル8〜10
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