ナチュラル
『ナチュラル』
「おはよう、イルカさん。朝ですよ〜」
言ってからカカシは寝ているイルカの額に、チュとキスをする。
「う〜。眠い〜。起きたくない〜」
唸ったイルカは布団に潜り込む。
カカシは普段の寝起きは悪いものの、ここぞというときの寝起きはよかった。
「そう?なら、寝ていていいよ」
優しく言ってカカシは布団から出ているイルカの頭を撫でた。
「仕事なんて辞めて、ずっと家にいて、どこにも行かないで」
優しい声とは裏腹に言っている内容は穏やかではない。
「家から、一歩も出ないでオレの帰りを待っていてね」
その途端、イルカはガバッと布団から身を起こした。
「起きます!仕事に行きます!」
「そーお。残念」
カカシは肩を竦めるとイルカに朝食の準備が整っていることを告げた。
それから「今日も会社まで車まで送りますね。帰りも迎えに行きますから」と言う。
カカシとイルカは社会人で、お互いに好きあって一緒に住んでいる。
なのに、カカシは無理矢理でもなく強引ではなく、ナチュラルにイルカに仕事を辞めさせてナチュラルに束縛しようとする傾向にあった。
それだけ、イルカへの愛が深い。
「マジで本気みたいなとこがあるからな〜、カカシさん」
カカシは十分に本気だったのだが、イルカは気がついていなかった。
『ナチュラル2』
「げっ!」
会社を出たイルカは目の前に止まっている車を見て固まった。
車はカカシの所有する車で、当然のことながら運転席には所有者のカカシがいる。
イルカを目ざとく見つけたカカシは窓を開けて「早く乗りなさいよ」と言ってきた。
「あ、はい」
慌てて乗り込んでイルカはシートベルトを締めた。
車は静かに発進する。
「あの…」
どこか不機嫌そうなカカシにイルカは恐る恐る話しかけた。
「今日は遅くなるとメールしませんでしたっけ?」
「ああ、見ましたよ、メール」
「遅くなるから迎えはいらないので、先に寝ていてくださいって」
時刻は深夜近い。
カカシもイルカも明日は仕事があるなら休むべき時間帯だ。
「先に寝るたって、イルカさんがいないのに寝れませんよ」
「でも…」
「イルカさんが心配で」
きっぱりとカカシは言い切った。
「どこで何しているのか、事故や怪我や病気とか」
カカシは心配性の一面もある。
「オレの知らないどこの誰かと一緒にいるのかと思うと腸煮えくり返りますよ」
怖いことを、サラッと言ったカカシは冷静に運転をしている。
「やだなあ、カカシさん」
いつもの冗談かと思い、イルカもサラッと流した。
「どこの誰かって会社の人ですよ。そりゃあ、カカシさんとは面識はないですけど」
だから安心してほしい、という意味でイルカは発言したのだが、カカシは違った。
「ふーん、会社の人と仲がいいんだ…」
カカシの新たなる嫉妬心を増やしただけであった。
『ナチュラル3』
「今日出かけるって言ってませんでしたっけ?」
休日の朝、イルカはカカシに言った。
「確か、今日は俺、買物に出かけたいっていいましたよねえ?」
「ああ、そうでしたね」
台所でコーヒーをカップに注いでいるカカシは涼しい顔をしている。
「はい、どうぞ」
淹れたコーヒーをイルカに手渡してきた。
「あ、ども」
受け取って口を付けるとコーヒーはイルカが、いつも飲むテイストだった。
砂糖少な目の、ちょっと甘め。
カカシはイルカの好みを熟知していた。
「まあ、そんなことどうでもいいじゃないですか」
カカシは、あっさりと言い放つ。
「休日なんですから出かけないで家で二人きりでいましょうよ」
「そりゃあ、そんな休日もいいですけど俺は買物に行きたいんですけど・・・」
「あのねえ、イルカさん」
カカシはイルカの前に来ると子供に言い聞かせるように優しく、ゆっくりと言った。
「家の外には俺たちの他に人がたくさんいて二人きりになんてなれないでしょ。家にいれば誰にも邪魔されずに二人きりなんですよ」
そして、にこりと微笑んだ。
そんなカカシにイルカは怯む。
「でも、俺、必要なものがあってですねえ」
「そんなのオレが買っておいてあげますから」
だから休みの日はオレと二人きりで家にいましょう、と言われてしまう。
「食料品とかの買物とかは済ませてありますから大丈夫ですよ」
「・・・でも」
「ね、イルカさん」
最強の笑顔で駄目だしされるとイルカはカカシに逆らえない。
なんだかんだ言ってもカカシのことが好きなのだ。
好きだから休日に二人きりでいるのも反対できない。
カカシと家にいるのも好きだった。
「じゃあ、そうします」
イルカが頷くとカカシは満足そうに微笑んでイルカの頭を撫でた。
ついでに引き寄せて抱きしめたりもする。
「大好き、イルカさん」
その言葉に嘘偽りはないのだが、いささか度を過ぎている感もある。
だけどもカカシにとっても、それはとても自然なナチュラルなことであったのだった。
『ナチュラル4』
イルカが家から携帯で誰かに電話していた。
傍らにはカカシがいる。
手に持っている本のページを捲り、字を目で追っていた。
「あ、こんちわ。休みの日にどーも、うみのです」
イルカは仕事の関係で電話していたのだ。
「すみません、金曜に伝えようとして忘れていたことが・・・」
カカシは相変わらず、本を読んでいた。
「え?いや、あははは〜。そうなんですよ、さすがゲンマさん!何でも分かっていますね。本当にすみません、忘れていて・・・」
イルカは何回か謝ってから電話を切った。
ふと、カカシを見ると・・・。
手帳に何やら、メモを取っていた。
「あれ、カカシさん。本、読むのやめたんですか?」
「いーえ」
カカシは何事か、メモするとイルカを見た。
「今のゲンマって誰ですか」
「ゲンマさん?会社の先輩ですよ」
手帳に何か書き込んだカカシはイルカに再び、質問した。
「そのゲンマって男だよね」
「はあ・・・」
「何歳くらい?」
「年ですか、俺より上かな。正確には知らないですけど」
「ふーん。親しいの、そのゲンマと?」
「親しいってか、同じ部署ですから。時々、昼飯を一緒にしたり、飲みに行ったりしますよ」
面白くなさそうな顔でカカシは手帳に何かを書き込んでいる。
「あー、もしかして!」
イルカはカカシの手帳の覗き込んだが、その前に閉じられてしまった。
「カカシさん、ゲンマさんのこと気にしているんですか?」
「あったり前でしょ!」
不機嫌そうに眉を顰めたカカシは手帳をどこかに仕舞いこんだ。
「イルカさんの傍にいるやつは問答無用で嫌いです。オレの敵ですね!」
「・・・何を言っているんですか」
少々、呆れ気味にイルカが言うとカカシに、きっと睨まれた。
「だってですねえ」
そんなカカシの様子にイルカは怯む。
「ゲンマさんとカカシさんは会ったこともないのに・・・」
「ほら、オレの名前より先に、そいつの名前を言っているじゃないですか!」
「・・・・・・・・カカシさんとゲンマさんは会ったこともないのに。身も知らぬ相手に敵対心燃やしても、しょうがないんじゃないかと」
とりあえず、イルカは言い直した。
カカシもだが、イルカはカカシの会社の人間とは取引き関係以外に会ったことはない。
「俺はカカシさんが好きだし、他の人に心を移したりしませんよ」
そう言うと、やっとカカシは怖い顔を緩ませた。
「イルカさん、愛してますよ」
イルカの傍に来て、ぎゅっと抱きしめる。
カカシは非常にイルカに執着しており、イルカの周囲の人間にいつもヤキモキしている。
そんな必要ないのになあ・・・。
抱きしめられる心地よさにイルカは身を委ねる。
こんなにカカシさんが好きなのに。
まあ、時折、カカシの必要以上の愛情に溺れてしまいそうになってしまうが。
好きになってしまったものは変えられない。
そんなことを思いながらイルカは頭の片隅で思い出した。
カカシさんが持っていた、あの手帳なんだったんだろ?
その手帳はカカシがイルカの事を詳細に記録している『ラブラブイルカダイアリー』なるものだった。
ちなみに命名はカカシによる。
ナチュラル5〜7
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