AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する




ナチュラル



『ナチュラル41』



あれからカカシからの電話はない。
イルカは何回か掛けているが繋がることはなかった。
「はあ」
暗い溜め息が出る。
どうしても気持ちが沈んでしまう。
「カカシさん、どうしてんだろう・・・」
メールは一日何回か来るが挨拶程度のものだった。
「もう出張に行ってから二週間か・・・」
案外、時が経つのは早い。
「あと二週間すればカカシさん、帰ってくるんだよなあ」
多分・・・。
カカシの出張予定は一ヶ月。
長引くこともあるかもしれない。
寂しいが仕方がない。
「カカシさん、遊びに行っているわけじゃないんだし」
仕事で行っているのだ。
慣れない土地でカカシも苦労していることだろう。
「家から離れての生活って大変だよな」
イルカよりもカカシは大変なのだ。
「俺に出来ることを頑張ろう」
カカシが帰ってきたときに家で、ゆっくり過ごせるように家を綺麗にしておいて、カカシの好きな料理もたくさん作っておこう。
前向きに考えた。
ふと時計を見ると午後一時を回っていた。
昼は食べていないが、腹は減っていない。
ちょうど外回りに来ていたイルカは食欲はなかったが、どこかに手ごろな店はないかと辺りを見回した。
この前の電話でカカシに、きちんと食べていると言ったからには軽くでも食べなければ。
そう思ってのことだ。
きょろきょろしていると後ろから声を掛けられた。
「イルカさん!」
振り向くと見た顔がある。
「あ、ヤマトさん」
カカシと同じ会社で働いているカカシの後輩のヤマトであった。
ふとしたことが切っ掛けで知り合って、以後、メールのやり取りをしていたりする。



「どうしたんですか、こんなところで」
ヤマトは人懐こく話しかけてきた。
「えと、昼を食べようかと・・・」
「そうなんですか?僕もです!」
はきはきと元気に受け答えしてくる。
「どうですか、よかったら一緒に食べませんか?」
食事に誘われた。
一人で食べるよりいいかもしれない。
イルカが頷くとヤマトが、にこりとした。
「この近くに美味しい店があるんです」
行きましょう、と言うヤマトについて行った。
ヤマトに連れられていった店は洒落たレストランといった感じだった。
イタリア料理風かフランス料理風な。
女の子が好みそうな店で、実際、店の中は女性が多い。
それでもって値段は手ごろだった。
「どれでも美味しいですよ」
にこにことヤマトに言われて、イルカはメニューを見るが、よく解らない。
結局、ヤマトと同じものを頼んだ。



「あ、美味しい」
料理が運ばれてきて、一口食べる。
ヤマトが言ったとおり美味しくて、味付けもあっさりさっぱりとしていて口当たりがよい。
食欲がなかったイルカでも、すいすい食べれた。
「なら、良かったです」
ヤマトも料理を口に入れた。
「美味しくて安くて。ここの店は結構利用しているんですよね」
食事をしながらヤマトは喋った。
「イルカさんの顔色が悪かったので食べてくれて、ほっとしました」
「え、俺、そんなに顔色悪かったですか?」
「ええ、とても」
ヤマトは頷いた。
「今にも倒れそうでしたよ」
「それは言いすぎですよ」
やっとイルカも笑みを浮かべた。
「最低限の食事はしてましたから」
「というと」
ヤマトが訳知り顔で言う。
「やっぱり、先輩がいなくて寂しいんですね」
「・・・ええ、まあ」
カカシとの関係のことはヤマトも知られている。
「カカシ先輩って」
ヤマトが料理を口に入れて、もぐもぐと咀嚼すタ。
「今、出張に行ってますよね」
「はい、忙しそうで」
「あー、それなんですけど」
ヤマトはごくり、と料理を飲み込み、水を飲む。
「出張が忙しいのは事実なんですけど、それ以上に大変なのが先輩が担当している部署の美人の女性主任らしいですよ」
「・・・え」
思わず、ヤマトを見つめる。
「なんでも毎晩毎晩、飲みに連れ出されて、ひどいときは朝までコースだとか」
そんな事実は初めて聞いた。
「先輩が業務連絡で会社に連絡してきたときに愚痴ってましたから」
「・・・そ、そうなんですか」
一気に食欲がなくなった。
「ああ見えても先輩、本気を出すとお酒メチャクチャ強いですからねえ」
ヤマトは更に何か話していたがイルカには聞こえていなかった。
初めて聞く事実にショックを受けている。
美人の女性主任か・・・。
その言葉はイルカの心に重く圧し掛かってきたのだった。



『ナチュラル42』



その日、やっと時間が出来たカカシはイルカに電話していた。
ツゥルルル〜という呼び出し音は鳴るのだが一向に応答がない。
・・・おかしい。
カカシは時計を見てみる。
時間は午後十時少し前。
この時間ならイルカは帰っているはずだ。
今日は、やっと酒豪の女主任の魔の手から逃げてきたってのに。
イルカの声が聞きたいがために。
イルカと話すために。
イルカとの時間と作りたいために。
何度か、イルカの携帯電話に掛けては切り、掛けては切りを十回以上繰り返してカカシは諦めた。



もしかして・・・。
イルカさん、寝ているかもしれないし。
イルカさん、お風呂中かもしれないし。
イルカさん、残業かもしれないし。
イルカさん、誰かとお酒でも飲んでいるのかもしれないし。
それは嫌。
お酒を飲みに行くのは構わないのだが、それが誰なのかカカシは知りたい。
どこの誰と、どこに行き、何を話して何を食べて何を飲んで、何時から何時まで、どうやって過ごしたのか。
我ながら、馬鹿だと思うほどイルカのこととなると何もかも知りたくて堪らない。
世間では、これを束縛というらしいが、そんなことはどうでもいいし、関係ない。
カカシにはイルカ、イルカにはカカシ。
この世で、これ以上、大切で必要なことはない。
電話を諦めたカカシはイルカにメールを打ち始めた。
とっても長文のメール。
イルカに伝えたいことを書いて送信した。
見てくれたら、きっと返信してくれるに違いない。
イルカの返信は言葉少なだけれども、カカシの欲しい言葉をくれる。
愛がこもっていた。
だけども、その日は待てど暮らせどイルカから返信がくることはなかった。



次の日、カカシは定期報告として自社である会社に電話していた。
電話の相手は会社の後輩だ。
「あー、もしもし。こちら、順調変わりなし。予定通りに事は運んでいるから。詳細はメールの通りで、報告書にも、そう書いておいて」
手短に済ませた。
「分かりました」
後輩はカカシの性格を知っていたので、それ以上のことは言わない。
代わりに余計なことを言ってしまった。
「そういえば、この間、イルカさんに会いましたよ」
「イルカさん!」
電話を切ろうとしていたカカシの手が止まる。
「イルカさんとどこで会ったんだ?」
「そんな怖い声出さないでくださいよ〜」
電話口の後輩が慄いていた。
「いいから早く話しなさいよ」
「えーっとですね、仕事中に外で偶然会って昼飯食べただけです」
「昼飯〜!」
「怒らないでくださいよ。本当に偶然なんですから」
「で?」
「あー、怒ってますね。偶然会って二人きりで昼飯食べただけなのに」
「それについては後で話がある」
「怖いなあ」
「それで?」
「それでって、それだけですよ。イルカさん、余り食欲がないみたいで昼飯、半分以上残していましたけど」
「何!」
貴重な情報が手に入った。
「寝不足みたいで目の下に薄っすら隈ができていました」
「・・・そうか」
「先輩に会えなくて寂しいみたいですよ」
その言葉にカカシは嬉しいような気持ちになったのだが、次の瞬間、それは怒りにとって変わった。
「だから、僕、先輩は美人の女主任と毎晩、朝まで飲みに行っているだけなので何も心配しなくていいって言っておきました」
「・・・あのね」
すう、と息を吸い込んだカカシは大きい声を出した。
「ふざけんな!」
受話器の向こう側で後輩が息を飲む気配がした。
「イルカさんになんてこと言うんだっての!俺は自分が進んで飲みに行っているわけじゃないのに!何、勝手にイルカさんに言ってんの!」
一気にまくし立てた。
「俺のことは自分でイルカさんに言うんだから、外野は黙ってろ!」
「・・・・・・すみません」
ガチャン、とカカシは電話を切った。
怒りのあまり、肩で息をしている。
はあはあはあ、と息を吐きカカシは頭を抱えた。
イルカさん、絶対に誤解している!
どうしよう!
離れていては何もできない。
イルカに弁解することも何もかも。
絶体絶命だった。



『ナチュラル43』



「帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい」
仕事をしながらカカシは知らずに呟いていた。
「家に帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい家に帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい」
心の声が出ていたのだ。
「あー、もう!帰りたい帰りたい帰りたい帰りたいってか、帰る!今週の金曜日、最終の飛行機で帰る絶対に帰る!帰ってやるんだから!」
傍で聞いていた件の女主任が、それを溜め息を吐いた。
「何を子供みたいなことを言っているのよ」
仕事でしょ、といなす。
それを、きっとカカシは睨み返した。
「うっさいな。出張のお陰で恋人が寂しい想いをしているのに!出張しても毎週恋人に会いに帰る予定だったのに!忙しすぎて帰れないし!」
全部お前のせいだとカカシは女主任に八つ当たりをしている。
全くもって子供っぽい。
子供っぽいことをしている自覚がカカシの心の隅にあるものの、やはり背に腹は変えられない。
ぶっちゃけ仕事よりイルカが大事だ。
「なによ!」
女主任は逆にカカシを睨む。
「恋人がいるなんて初耳よ。最初に言ってくれていたなら、飲みになんて誘ってないわ!」
「大事な恋人のことを誰彼構わずに話す主義じゃないの俺は!大事なものは懐深くしまっておくのが俺のポリシーなの!」
「・・・なんか」
女主任が深々と息を吐いた。
「あなたの恋人は大変そうね」
「ほっといてよ」
いらいらと返事をしながらも仕事を着々としていくカカシに女主任はある提案をした。
「確か、来週いっぱいで出張は終わりよね?」
「そうだよ」
「だったらねえ・・・」
「なんだよ」
「今週末、土日に出勤したら、その分早く帰っていいわよ」
「・・・え?」
「だから、来週の金曜日で出張終わりなんだったら土日に出勤して、その分やってしまいなさいよってことよ」
「ああ・・・」
「そしたら、早く帰れて恋人に会えるわよ」
非常に魅力的な提案だった。
「今週末、帰るのを我慢すれば早く出張が終わるのよ」
そうしたら。
そうしたら、出張が終わりイルカと離れることはない。
当分、出張はないはずだし。
早く帰った方がいい、よな・・・。
イルカに会いたい、家に帰りたい。
そのためには仕事を終わらせる必要がある。
だから・・・。
「分かったよ」
カカシは、その条件を飲んだのだった。



その夜。
カカシはイルカに電話を掛けた。
「もしもし。あ、イルカさん?」
「カカシさん!」
電話の向こうの声は少し元気がない。
元気がないのが気になるカカシだ。
「イルカさん、元気?大丈夫?ちゃんと食べている?寝ている?朝、起きれる?体調悪くない?熱はない?だるくない?」
矢継ぎ早に尋ねるとイルカが、くすっと笑った。
その顔が受話器を通してカカシには見える。
「大丈夫ですよ、全部」
イルカは滅多に弱音を言わないのも知っている。
「あのね、イルカさん・・・」
イルカを気遣いながらカカシは話を切り出した。
「今週の金曜日ね、帰ろうと思っていたんだけどね」
「ああ、駄目になったんですね」
あっさりとイルカは言った。
察しがよい。
「う、うん、そうなんだ」
ごめんね、と謝るとイルカは「いいんですよ」と言う。
「仕事ですから、気にしないでください」
「うん・・・」
答えながらカカシの胸に重い塊が落ちてくる。
これでいいんだ、と思いながらも少し後悔してしまっていた。
やっぱり帰ればよかったかな、と。



「それでね・・・」
カカシが先日、ヤマトから聞いたことについての弁解をしようとしたところ先にイルカに言われた。
「今週末、カカシさんが帰ってこないならヤマトさんの家に遊びに行ってもいいですか?」
「・・・・・・え」
思いも寄らぬ言葉だった。
「ヤマトさんがカカシさんがいなくて暇なら来てもいいって言ってくださって」
どことなくイルカの声が弾んでいるような気が、カカシはした。
「ヤマトさんの家にはゲームがたくさんあるので、一緒に対戦ゲームしないかって言われて」
「それって」
カカシは、ごくりと唾を飲み込んだ。
「それって、泊まるってこと?」
「泊まる?まだ、分かりませんが土曜日に来るのなら泊まっても構わないとヤマトさんは言っていましたけど」
「ふーん・・・」
先ほど胸に落ちてきた塊とは別の塊がカカシの胸に、また落ちてきた。
その塊の名前は、はっきりとしている。
嫉妬だ。
強烈な嫉妬がカカシの全身を駆け巡る。
「カカシさん?」
不審に思ったイルカがカカシの名を呼んだのだが、答えることができなかった。




ナチュラル37〜40
ナチュラル44〜46





text top
top