ナチュラル
『ナチュラル34』
夕方。
カカシが帰宅するとイルカは既に起きていた。
台所で何やらしている。
「あ、お帰りなさ〜い」
カカシの帰宅に気がついたイルカが振り向いて微笑んだ。
「本当に早かったですね」
時計を見ると六時ぴったりであった。
「そりゃあ、まあ」
カカシはイルカの傍に近づいた。
そうっと両手でイルカを包む。
「すっごく早く帰るって言ったでしょ」
優しく抱きしめた。
「俺は有言実行の男ですからね」
「はいはい」
イルカは、おかしそうに言うと手を伸ばしてカカシの頭を撫でた。
「お仕事お疲れ様でした」
労いの言葉を言う。
カカシは「うん、イルカさんのために頑張ってきました」と頷いて、イルカにキスをした。
「で、イルカさん、何してたの?」
イルカが立っていた台所を見ると、いい匂いが漂っている。
「あ、夕飯の準備をしてました」
「そんなの俺が帰ってきてからやるって言ったでしょ」
ほんの少し、カカシは咎めるような口調になる。
「イルカさんは怪我人なんですから大人しくしていないとダメですよ。料理も洗濯も掃除も、イルカさんの世話も、ぜええーんぶ、俺に任せておけばいいんです」
「そう言われても」
イルカは口調する。
「痛みもだいぶ治まって、寝ているのが暇だったんです」
だからカカシさんの帰りに合わせて飯を作っていました、なんて可愛い顔で言ってくる。
「もー、イルカさんてば!」
カカシは、ぎゅーっとイルカを抱きしめる。
「可愛すぎですよ〜、俺をそんなにも好きで愛してくれているとは!ありがとう、イルカさん!」
抱きしめたまま、イルカを持ち上げている。
持ち上がったイルカは空中で足をバタバタさせたものだから、スリッパが脱げてしまった。
「ちょっとカカシさん!」
「好き好き、イルカさん〜」
カカシは、とっても嬉しそうな顔をしている。
その顔を見るとイルカは、まあ、いいかと思ってしまった。
カカシの愛情表現は照れくさいときもあるけれど、本当に愛されているんだなあ、と実感する。
それは悪いことではなかった。
むしろ、歓迎すべきことで・・・。
そのことを余り、イルカは口にしなかったけれども。
漸く、床に下ろされたイルカは、ふと気がついてカカシに訊いた。
「今日の商談は上手くいきましたか?」
確かカカシの今日の仕事相手はイルカの会社だった。
商談内容までは知らないし、教えてもらうつもりはないが、何となく訊いてみた。
「ええ、そりゃあ、もう!」
カカシは満面の笑みを見せた。
「バッチグーですよ〜、安心してください。完璧です、絶対に大丈夫です。イルカさんが心配することは一分もありません」
「・・・はあ、そうですか。よかったです」
何か、引っ掛かるものを感じたのだが、それはカカシの言葉で意識が逸らされた。
「俺、実はお腹、ペコペコでご飯食べたいです」
「今、用意しますね」
「あ、いいです、俺がやりますから。イルカさんは座っていて」
椅子の誘導されてしまう。
「あと、イルカさんの好きなお店のデザート買って来ました」
カカシが掲げた白い箱からは甘い匂いがする。
「イルカさん、ここのプリン好きでしょ。ご飯食べたら、食べさせてあげますね」
「いえ、自分で食べれますから」
照れたイルカは赤くなった。
それを見て、カカシが笑う。
なんとも幸せに満ちた夕飯の風景であった。
後日。
足の怪我が良くなったイルカは出社して、いの一番にハヤテに会いに行った。
「あのさ、ハヤテ。訊きたいことがあるんだけど」
「あ、イルカ。もう良くなったんですか?」
「うん、もう平気。色々、サンクス」
「そうですか、では快気祝いをしなければいけませんね」
「あ、ありがとう」
「では、メンバー集めて今夜にでも・・・」
「今日は早く帰るようにカカシさんに言われているから、その」
「じゃあ、明日にしますか。カカシさんに、ちゃんと言っておいてくださいね」
「うん、分かった」
「メンバーはゲンマさんと、それと・・・」
「じゃなくて!」
イルカは何かをはぐらかそうとしているハヤテを強引に遮った。
「カカシさんとの商談で何かなかった?」
明らかに何かあったようでハヤテは一瞬にして黙ってしまう。
「何かあったんだな?何があったんだよ?」
「いやあ、まああ。ゴホゴホゴホッ」
ハヤテが無駄に咳き込む。
「おい、ハヤテってば」
「うーん」
ハヤテは、ちらとイルカを見ると深々と溜め息を吐いた。
「世の中、知らないほうが幸せなこともあります」
その発言にイルカは不安になる。
「それでも聞きたいですか?」
「・・・うん」
ドキドキしながらイルカは返事をした。
内心、どうしようと迷ってはいたが、やはり知っておくのがベストのような気がした。
「聞きたい」
「絶対に後悔しないですね」
「うん、多分」
「恨みっこはなしですよ」
「・・・いったい、何があったんだよ」
不安が掻き立てられる。
ハヤテは誰にも聞かれないように声を潜めた。
「あんなに背筋が寒くなった商談は初めてでした」
ごくり、とイルカは唾を飲み込む。
「カカシさんの殺気で部屋が満たされて、そして笑顔がまた怖くて。まさに、あれこそ顔は笑っていて目が笑っていないという笑顔だったんですねえ」
「・・・・・・で?」
聞くのが怖くなってきた。
イルカの心臓が、ドキドキしてくる。
「カカシさん、言ってましたよ」
「・・・・・・・・・何を?」
「イルカは」
「俺が?」
「決まった結婚相手がいて、つまり婚約者です」
そしてハヤテは衝撃発言をした。
「将来は寿退社予定だと。下手なことしたら、その婚約者が黙ってないからって」
「それ、本当に言ったの?」
「もちろんです」
ハヤテは大きく頷いたであった。
『ナチュラル35』
「あの、ちょっと待ってハヤテ」
イルカは話を聞いて軽く混乱してきた。
「何で商談の話から結婚の話?そもそも、カカシさんの応対したのはハヤテだろう?どうして、そんな話題になるんだよ」
「えー、それはですねー」
ハヤテの顔は渋い。
非常に言い難そうだった。
「しかもカカシさんが怖かったって?怒っていたってこと?」
「まあ、結果的にはそうなりますね」
「・・・よく分からん」
イルカは眉間に眉を潜める。
「だって昨日、カカシさん帰ってきたら上機嫌で完璧だとか安心だとか言っていたんだぞ」
「それは、仕事とは別の意味で言っていたのでしょう」
そこで始業時間になってしまった。
「あ、もう時間だ」
「ですね」
しかし、このままでは何が何だか分からない。
「後で、ちゃんと説明してくれよ」
「イルカが、そう言うのなら。昼にでも、また会いましょう」
そこで二人は分かれた。
昼時、イルカはハヤテを会えたものの、昼に入ったのが遅かったので碌に話をすることができなかった。
カカシの作ってくれた弁当を広げたところでハヤテの昼休みは終わってしまったのである。
「それでは、私はお先に失礼します」
「うん」
「話は、また後でですね」
「ああ、休憩時間にでも」
今日中にハヤテを話をしておきたい。
ふっと笑ったハヤテはイルカの弁当を覗き込んだ。
「手が込んでいますねえ、ハート型のニンジンとか海苔で白米の上にイルカラブ!とか・・・」
「え?ああ、うん。カカシさんが作ってくれたんだよ」
「彩り鮮やかで美味しそうなこと、この上ないですね」
少々、羨ましげだ。
「そうなんだ、カカシさんの料理、いつもとっても美味しくて」
ふっと笑ったハヤテは「ご馳走様でした」と言うと去っていてしまった。
後ろ姿は、どことなく寂しそうで。
ちなみにハヤテはコンビニで買ってきた弁当を食べていた。
「そういえば」
一人、昼を食しながらイルカは思った。
「今日は、あの人に会ってないなあ」
あの人とはイルカに怪我をさせた人物だ。
余り、会いたくもないのだが・・・。
「でも、俺が怒らせたり、もしかして嫌われる原因を作っていたりしたら」
だから、先日のような行為に出たのかもしれない。
理由を聞いてみたい、とイルカは思っていたのだ。
場合によっては謝罪もしてもいい、とさえ思っている。
「どこに行っちゃったんだろ」
不思議に思いながらもイルカはカカシの愛情たっぷりの弁当を完食したのだった。
『ナチュラル36』
次の日。
偶々、イルカはハヤテと外回りの仕事であった。
「あ、あのさー」
イルカはハヤテに話しかける。
「飲み会の話なんだけど、カカシさんが今日はダメだから週末の金曜日にしてくれって」
「・・・若干、疑問が残るような返事ですが金曜の方がいいとゲンマさんにも言われましたので金曜日に決行したいと思います」
「うん」
「店は私が手配しますので」
「分かった、ありがと」
にこっと笑うイルカを見ながらハヤテは、イルカの心配性の恋人はきっと現れると予感していた。
「あ、でさ、昨日の話の続きなんだけど分からないことがあるんだよね」
昼になり適当な店に入ると早速、イルカがハヤテに聞いてきた。
「よくよく考えると繋がらない部分があってさ」
「・・・気がつくのが遅いですよ、イルカ」
「ごめんごめん」と素直に謝り微笑むイルカを見てハヤテは、のんびりとした和やかな気分になりながらイルカらしいと思いながら聞き返した。
「で、どの部分が繋がらないんですか?」
「うん、それがさ」
イルカとハヤテは同じ時期に入社しているので、同期であり気安い仲だ。
気が合うので一緒にいることも多い。
「カカシさんの商談したときってハヤテと誰がいたんだ?それにカカシさんが怖いってどういうことなのかな〜って」
「今頃、それですか」
注文して運ばれてきた料理に手をつけながらハヤテは簡潔に説明した。
「商談したのは私と例の人ですよ」
「例の人?」
「イルカに怪我させた人です」
「・・・ああ」
「で、カカシさんが怖かったのは私ではなく、その人に対してです」
「へー」
「カカシさんがあんなに怖くなるのはイルカが原因以外に有り得ないでしょう」
「そ、そう?」
変なところでイルカは照れている。
「眼力や雰囲気などの迫力も相当なものでしたが、商品の強度を示すパフォーマンスとか言って、商品と全く関係ない鉄パイプをくの字に折ってしまう腕力とか握力とか常人じゃなかったですよ」
「ふーん」
「かなり鍛えている人ですね、カカシさんは。何かスポーツとかやっていたんですか?」
「さあ?」
イルカは首を傾げた。
「聞いたことないけど。何かやっていたのかなあ。運動神経いいし、力持ちだしね」
「力持ち?」
「俺なんか簡単に抱き上げちゃうんだぜ」
「・・・そうですか」
要らない情報も聞かされてしまい、脱力してしまうハヤテであった。
『ナチュラル36−2』
「要するにですね」
食後のコーヒーを飲みながらハヤテは結論を述べた。
「カカシさんが体よく脅しを掛けたので今後一切、あの人がイルカに手を出すことはありませんよ」
「ふーん、そうなのか・・・」
それを聞いたイルカはコーヒーを一口飲んで考え込んでしまった。
「どうかしたんですか、イルカ」
「うん、あのさあ」
砂糖もミルクも入っていないコーヒーを無意味にスプーンでかき混ぜながらイルカは心配そうな顔になった。
「そんなことしてカカシさんの会社での立場が悪くならないかなって思ってさ」
カカシのことを心配していた。
「俺のことでカカシさんが不利な立場になったりしたら・・・。カカシさんに俺のことで迷惑かけたりしたくないし」
それを聞いてハヤテは、ふっと微笑んだ。
「大丈夫ですよ」
イルカのカカシへの思いを聞いて微笑ましく思ったのだ。
「カカシさんはイルカに関しては、なりふり構わない感じですし。それに立ち回りも上手く要領もいいですから」
慰めになってない慰め方をしている。
「イルカは何も心配することないでしょう」
「そうかもな」
そう言ってイルカも微笑んだ。
そして週末。
金曜日が訪れた。
イルカの快気祝いを名目とした飲み会は、既に普通の飲み会になっていた。
しかもハヤテの予想通り、カカシも参加して。
「おいおい、なんで、あの人がいるんだよ」
ゲンマが隣に座っているハヤテに耳打ちする。
「はあ、そう言われましても」
ごほ、と咳をしてハヤテは目の前の二人を見つめた。
テーブルは長方形、ハヤテとゲンマが隣り合わせに座り、その前にはカカシとイルカが隣合わせに座っている。
ゲンマは居心地悪そうにしていた。
「イルカが参加すれば、あの人も現れるのを予測するのは容易です。イルカあるところに、あの人ありでしょう」
「そりゃ、そうだけどもよ」
ゲンマは諦めたようにビールを飲み干し、お代わりを注文している。
飲みに徹するつもりらしい。
イルカに構っていたカカシがハヤテに話しかけてきた。
「この間は、どーもねえ」
「いえいえ」
「ほんと、助かったよ」
感謝している。
ハヤテのグラスにビールを注いだりしていた。
「あ、すみません」
ビールを注いでもらいながらハヤテは、ちらと視線を走らせた。
片手では、しっかりとイルカの手を握っているカカシに。
イルカの利き手を握っているので、イルカは飲み物は飲めるけれども食べ物に関してはカカシが食べさしていたりする。
「これからもイルカさんをよろしくね」
まるで過保護過ぎる保護者のようだった。
「私の方こそ・・・」
言ってハヤテもグラスに口をつける。
「はい、イルカさん。これ、食べる?美味しいよー」
「あ、はい、食べます」
ニコニコするカカシに、嬉しそうなイルカ。
二人は本当に仲がいい。
仲睦まじい。
周りの空気をピンク色の染め上げている。
はーっと溜め息を吐いたハヤテはゲンマに告げた。
「ゲンマさん、私の分もビールのお代わり頼んでください」
「俺は既に日本酒だが」
「じゃあ、日本酒も一緒にお願いします」
「ラジャー!」
ハヤテも飲みに徹することにしたようだ。
「今日は、とことん飲むか!」
「そうですね」
珍しくハヤテは同意し、ゲンマは喜んだ。
カカシとイルカは早々に二人で帰宅するかと思いきや、ゲンマとハヤテに朝まで付き合い盛り上がったのだった。
ナチュラル31〜33
ナチュラル37〜40
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