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ナチュラル



『ナチュラル19』



「あ!」
その日、ヤマトがイルカを見かけたのは偶然だった。
昼間、仕事で外に出たときにイルカを見かけたのだ。
時刻は昼時を過ぎた頃。
ヤマトが裏通りの近道を歩いているとスーツを着たイルカを見かけた。
話したことはないが一度だけ姿を見たことがある。
尊敬する先輩に関わる人だったので、その姿は瞼に焼き付いていた。
清楚な感じで誠実そうな人柄。
それがヤマトがイルカに対する印象である。



見かけたイルカは、ひどく困ったような顔をしていた。
「・・・すみません、今日はもう、これで」
断りつつも、強く出られないようで。
もちろん、断るからには相手がいた。
「まあまあまあまあ、いいじゃないですか」
同じくスーツ姿の相手は、にこにこしながら半ば、強引にイルカの手首を掴んで引っ張っていた。
「ここで会ったのも何かの縁です、少し時間を都合してくれてもいいでしょう」
物言いは、どこかカカシを連想させる。
顔や姿はカカシに似ても似つかなかったが、行動や雰囲気はカカシを連想させる。
「ええっと、でも・・・。その・・・」
イルカは歯切れが悪い。
もしかして断りたくても仕事上の関係で強く出れない相手なのかもしれない。
何となく、雰囲気を察したヤマトはイルカに助け舟を出した。
「イルカさん!」
名前を呼ばれてイルカは、はっと振り向いた。
そしてヤマトの姿を見止めると一瞬、不可解な表情をした後、安堵したような顔をした。
「お待たせしました。時間に遅れてしまってすみません」
ヤマトは、いかにも待ち合わせに遅刻したような振りをした。
「だいぶ、待ちましたか?」
「・・・え?いいえ、そんなことないです」
イルカは首を横に振る。
「俺も、さっき来たところで」
「そうですか」
ヤマトは笑顔を絶やさないようにしてイルカの腕を軽く引いた。
イルカの掴まれていた手首は自然に離れる。
見るからにイルカは、ほっとしたようだった。



「昼飯を約束したのに遅れてしまって申し訳なかったです」
ヤマトは、あくまで何事もなかったかのように笑みを絶やさない。
「あ、いえ・・・」
「美味い店、知っているので行きましょう」
ヤマトが誘うとイルカは、こくりと頷いた。
「はい」
そんな会話をしていると相手は、いつの間にか消えていた。
最後に苦々しげな顔をしていた。
相手が去ったのを確認してヤマトはイルカと共に大きな通りへと出る。
人が大勢いる場所へ来るとイルカは、やっと笑顔を見せた。
「すみません、ありがとうございました」
助かりました、と頭を下げる。
「あの方は以前、取引のあった会社の方で俺のこと気に入ってくださったみたいなんですけど」
イルカは苦笑いをする。
「でも俺、あの人、苦手なんです」
肩を竦めた。
「断ろうとしても、なんだか断れない雰囲気があって」
「そうでしたか」
現在、出張中のカカシはこの事実を知っているのだろうか?
するとイルカがヤマトの考えを読んだように唇に人差し指を立てた。
「このことはカカシさんには内緒にしてください」
微笑みながら言うイルカ。
・・・かわいいかも、イルカさん。
ヤマトは、ぼんやりそんなことを考える。
それから二人して遅い昼食を食べたのであった。



『ナチュラル20』



「たっだいま〜」
上機嫌でカカシが帰ってきた。
帰ってきた途端に荷物を放り出してイルカに抱きつく。
「イルカさん、寂しかったですよ〜」
抱きついてイルカの頬に自分の頬を摺り寄せた。
スリスリ。
愛しげなカカシの所作にイルカはくすぐったそうに肩を竦めた。
「寂しいったって」
そう言いながらもイルカもカカシの背に腕を回す。
「たった二泊三日でしょう、離れていたのは」
「そんなことないですよ〜」
スリスリしていたカカシがイルカの目を覗き込んだ。
「俺にとっては永遠とも思える時間でしたよ」
「大げさですねえ」
イルカは苦笑する。
「本当ですって」
カカシも微笑する。
そして優しげな顔でイルカを見つめた。
「あ、えと」
急に照れくさくなったイルカは、ほんのりと赤くなった。
「お帰りなさい、カカシさん」
「うん、ただいま」
もう一度、カカシが言って二人の顔が近づき、唇が触れ合うと思った瞬間。



どこからか電子音が鳴った。
携帯電話のベルの呼び出しだ。
しかもイルカの。
やむを得ず、イルカは携帯電話を手に取り、電話に出た。
カカシと言えば、明らかにむっとしていて、だけどもイルカを抱きしめる腕は離さずにくっ付いたままだ。
そして・・・。
「あ!ヤマトさん!」
イルカの弾んだ声で、ぴくっと眉が動いた。
「・・・ヤマト?」
低い声が漏れるがイルカは気づかない。
カカシの様子に気づかずに電話の相手を話している。
「先日はどうも。いえいえ、こちらこそ。え・・・?ああ、カカシさん?いますよ」
どうやらイルカの電話を使い、カカシと連絡と取りたかったらしい。
だが、カカシは。
「先日はどうも?こちらこそ?なんだ、それ」
顔が険しくなっている。
そしてイルカから電話を渡され、電話に出ると世界を凍りつかせるような世にも恐ろしい声で対応した。
「なんで、イルカさんの携帯に電話を掛けてくるんだよ?」
相手が電話の向こうで竦みあがったのは間違いなかった。



『ナチュラル21』



電話を受け取ったカカシは腕にイルカを抱えたまま、怖い顔をしていた。
「え?なんだって?・・・へー、ふーん。はー、なるほどねえ」
なにやら剣呑な雰囲気だ。
「そんなこと言うんだ?あっそ。明日、もっと詳しく聞かせてもらうからねえ」
口調も怖い。
「帰社報告?そんなのとっくの疾うにしているよ。お前じゃなくて別の人に。だから、出張から家に直帰したんでしょ」
電話の相手は、まだなにやら言っているようだ。
「とにかく、詳しいことは明日、聞かせてもらうから」
最後に「覚悟しとけよ」と物騒なことを笑顔で言うとカカシは電話を切った。



「はい、イルカさん。電話、ありがとうございます」
にっこりと笑ってカカシはイルカに電話を返す。
先ほどの恐い気配は微塵もない。
「あ、いえ・・・」
イルカが何か言いたげにカカシを見た。
「あのー、今の電話って、その・・・」
「電話?ああ、俺が出張から帰ってきたか、会社に報告したかの確認の電話でした」
「そうじゃなくてですね・・・」
「まーまー」
カカシはイルカの言葉を遮った。
「せっかく、二人でいるのに仕事の話なんて詰まらないですよ」
ニコニコ笑ってイルカを懐柔してしまう。
「お土産、買ってきたんですよー、たくさん」
イルカの手を引いて自分の荷物の方へと連れて行く。
「ほら、これ、かわいいでしょ?」
「あ、ほんとですね」
ペアの湯のみだった。
可愛らしい動物の絵が描かれている。
「これもどうぞ」
現地でしか手に入らない携帯のストラップだった。
それに、名物のお菓子やらなにやら。
物に関しては総てカカシとペアになっている。
カカシは色々なみやげ物を披露し、イルカは楽しそうに見ている。
「わー、すごい!いつも、たくさんお土産ありがとうございます」
イルカがカカシの方を向くとカカシと目が合った。
イルカを見つめる目は優しくてあたたかい。
その目に惹かれるようにイルカが目を閉じると、そっとカカシの唇が重なる。
離れていた二人は今度こそ誰にも邪魔されず、キスをしたのだった。



『ナチュラル22』



「ふーん。で?」
会社での休憩時間、ヤマトはカカシに問い詰められていた。
もちろん、イルカの電話番号を知った経緯について。
いつ、どこで、イルカと会ったのか。
イルカと何を話したのか。
どちらかというと尋問と言った方が正しい。
「だから」
ヤマトは背中に冷や汗をかきながらも冷静に言った。
「仕事中に外に出て、偶々、イルカさんと会っただけなんですよ」
「ふーん。で?」
カカシは冷たい目に冷たい光を宿して、ヤマトを見ている。
「本当に偶然に会って、それで声を掛けたら僕のことも覚えていてくれて」
「最初になんて声を掛けたのさ?」
「えーっと・・・」
ヤマトは言葉に詰まる。
「どっちから声を掛けたわけ?」
「あ、僕から・・・」
「ナンパ?」
「違います!」
ヤマトと強く否定した。
嫉妬深いカカシに勘違いされては堪らない。
「僕は、ただイルカさんが見るからに困っていたから声を掛けただけで」
「困っていた?」
カカシの眉が、ぴくりと動く。
ヤマトが、しまったという顔になる。
そして、次にしまったという顔にしたことに対して、更にしまったという顔になった。
カカシは怖い顔というより。
怖いを通り越して、恐怖を具現したような顔になっている。



「イルカさんがどうしたって?」
「え?」とヤマトに詰め寄る。
「困ったことって何だ?」
「そ、それは・・・」
ヤマトはイルカとの約束を思い出す。
カカシに言わないでくれ、との。
絶対に絶対にカカシさんに言わないでくださいね、必要以上に心配する人ですから。
「ヤマト」
殺気を含んだような声で名前をよばれて背筋が、ぞっとする。
「きりきり吐けよ」
もはや、ヤマトに断るだけの気力も体力も勇気もなかった。




ナチュラル15〜18
ナチュラル23〜26





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