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モテ期愁来



全速力で走って家に着いた。
玄関を開けて鍵を掛ける。
がちゃり、という音がやけに響いた。
肩で息をしていたのだが徐々に落ち着いてくる。
気持ちを落ち着けるために目を閉じた。
心臓に手をやると鼓動が早い。
どきどきどきどき、と心臓が体中に血液を流している。
「ふう」と息を吐いた俺は玄関に靴を脱ぎ散らかして部屋に上がった。
冷蔵庫を開けて入っていた牛乳を、そのまま直のみする。
冷たい牛乳を一気に飲み終えると、だいぶ気分が落ち着いていた。
額宛もベストも脱ぎ捨てた。
「はあああ〜」
大きく深呼吸する。
つ逃げ帰ってきちゃったけど、自分の仕事が終わっていて良かった。
ついでに明日も仕事が休みで良かった。
誰にも会いたくなかったから。
今日は、さっさと風呂に入って寝てしまおう。
そう決めた俺は風呂場に直行した。




風呂から上がって俺はベッドの上にいた。
ぐでーっとうつ伏せになっている。
あー、落ち着く。
ベッドの上は俺の憩いの場だ。
家の中で、とても大好きな場所だ。
そのベッドの上には枕が二つ、あった。
一つは普通の枕で頭の下に敷くやつ。
で、もう一つは実は抱き枕だった。
大き目の枕で両腕で抱きしめても余るほど。
この枕を抱きしめていると妙に安心した。
二十歳を過ぎたので、ぬいぐるみの類は卒業して抱き枕にしたのだ。
二十歳過ぎた男がぬいぐるみを多数持っていたら、一般的には変に思われるから泣く泣く枕に変えたのだ。
ちなみに、ぬいぐるみは大事に押入れにしまってある。
誰にも見えないように。



あー、枕を抱きしめていると、ほんと安心するなあ。
枕は、ふかふかで柔らかくてあったかい。
大好きだ。
子供もこんな感じなので好きだ。
動物も好き。
女の人も、きっとこんな感じに違いない。
男は・・・。
まあ、違うだろうな・・・。
・・・女の人は一先ず置いといて、子供と動物はいい。
子供と動物は変なことしないから。



ふとカカシさんを思い出した。
カカシさんを思い切り突き飛ばしてしまった。
あの後、どうなったんだろうか。
激しく気になり始めた。
どうしよう、今から謝りに行ったほうがいいかなあ。
すごく怒っているだろうなあ。
ひどいことも言っちゃったし。
気が重い。
謝って冷たい態度を取られても文句はないけど、謝らないと不味いよなあ。
顔を合わせたら気まずいし。
だんだんと気持ちが沈んできた。
・・・あーもう、あーもう、どうしたらいいんだ〜。
悶々と考え込んでいたら玄関先に人の気配がした。
一瞬、身構えたけど、その気配の正体はすぐに分かった。
カカシさんだ。



こんこん。
静かに扉がノックされた。
反射的に俺は腕の中の枕を抱きしめた。
声を出さず動かないで、じっとしていたんだけど外からカカシさんの声が聞こえてきた。
「こんばんは、イルカ先生」
声は感情の抑揚を感じさせない。
どっちかっていうと穏やかな声。
「俺です、カカシですけど・・・」
ちょっと躊躇いがあった。
「いらっしゃったら会ってくれませんか?」
控えめな申し出だった。
それでも何と言っていいものやら、と俺が黙っているとカカシさんは辛抱強く言ってきた。
俺が部屋にいるのは、ばればれだろうに。
「あの、何もしませんから。会ってほしいんです、イルカ先生」
切々と訴えてくる。
「誓って何もしませんから」
・・・そこまで言われたら俺だって黙ったままじゃいけないと思う。
抱きしめていた枕をベッドに戻して、抱き枕だとばれないように枕を二つ並べてから玄関の方に近づいた。
このとき、自分が既に寝る準備をしてパジャマだと気がついたんだけど着替えるもの面倒だし、男同士だし、ま、いっかと玄関を鍵を開けた。
そろっと玄関の扉を細く開けて、外にいるカカシさんを確認すると玄関を開いた。
「どうぞ」
「ありがとう」
カカシさんは、ほっとしたように微笑んだ。
優しい顔だった。



部屋に招き入れるとワンルームなのでベッドが目についたようで、ぎょっとされた。
「枕が二つありますけど・・・」
俺を上目遣いに見て慎重に言葉を選んできた。
「誰かと同棲でも?」
同棲?
そういう時は同居って言うんじゃないのか?
「いいえ、違います」
きっぱりと否定しておいた。
でも、抱き枕のことは伏せておいた。



部屋に入るとカカシさんはいきなり頭を下げてきた。
「先ほどはすみませんでした」
・・・・・・え?
「えっと、いや俺もすみませんでした」
俺も謝った。
っていうか本来なら俺が謝って然るべきだと思う。
別にカカシさん悪くないし。
いうなれば個人的感情でカカシさんに八つ当たりした感が強いし。
「本当にすみません」
「いや、俺の方こそ」
二人で頭を下げあった。
頭の下げあい合戦みたいで。
下げあって顔を上げたとき、ふとカカシさんと目が合って・・・。
つい笑ってしまった。
「頭の下げあいみたいですね」
「まあ、そうかも」
カカシさんも笑って頭を、がしがしと掻いている。
なんとなく仲直りの雰囲気で。
ほのぼのとした空気が流れた。



「あ、そうだ」
カカシさんが思い出しように言った。
持っていた手提げ袋を差し出してきた。
「もしよかったら食べませんか?」
袋からはいい匂いがする。
「夕ご飯、買ってきたので」
袋の中からカカシさんは二つの包みを取り出して、一つを俺に渡してきた。
包みからは、ものすごくいい匂いがする。
それに釣られて、ぐーっとなる俺のお腹。
我ながら素直だなあ。
この匂いが何なのか、もう分かっているのか〜。
「あ、お茶淹れてきますね」
せめて、お茶でも入れないと。
ほどなくして湯が沸き、茶を運びカカシさんの前に置いた。
あ、俺の家にはテーブルが一つなのでカカシさんと向き合う形で座った。
「じゃあ、食べましょうか」
「はい」いただきまーす、と手を合わせて包みの蓋を取ると、そこには艶めく飴色の輝きを放つ鰻があった。
つまり、まあ、カカシさんは鰻重を買ってきてくれたのだ。
御持ち帰りようの鰻の重。
さすが上忍。
太っ腹・・・。



美味いもの食べると人って幸せになるなあ。
カカシさんが買ってきてくれた鰻を有り難くいただきお腹がくちくなった俺はだいぶ、ガードが緩んでいたのかもしれない。
美味いもの食べてご機嫌な俺にカカシさんが自然な感じで訊いてきた。
「鰻、お好きなんですか?」
「ええ、好きです。美味しいですよね」
食べている間、何回も「美味しい!」と連発していた俺。
財布の都合で余り食したりしないけど。
「枕も好きなんですか?」
ベッドに、ちらっと見るカカシさん。
「あー、それは・・・」
好きと言われれば好きかもしれない。
「好きだと思います」
抱き枕に至っては好きというよりなければならないものだ。
必要不可欠。
「ふーん」
カカシさんは何かを考えているようだ。
茶を一口飲んで俺を真っ直ぐと見てくる。



「じゃあ、耳を舐められるのは嫌いなの?」
・・・・・・それか。
「嫌いです」
端的に俺は言った、はっきりと。
「でもさ、イルカ先生」
探るような視線だ。
「人がいないところでやれって言っていたでしょ」
「そうですね・・・」
「それって、少なからず俺に好意を持っていて二人きりならしてもいいってことじゃないの?」
「は?」
脱力。
そうきたか・・・。
「な、わけないでしょうが」
俺は、すーはーと息を吸って吐いて気持ちを落ち着けた。
「人がいなけりゃあ、嫌なことする相手に遠慮なく反撃できるでしょうが!」
そう、人が見てなければ、多少は卑怯な手を使ってでも反撃したい。
一矢報いたい。
「例え無駄な反撃でも、反撃後に相応にやり返されてもです」
無体なことをされたら、絶対にただでは済ませたくないのが心情だ。
あの時はギリギリ逃げて、そんな暇なかったけど。
何もなかったのが幸いだ。
部屋に不気味な沈黙が下りた。
室内の温度が下がったような。
「それってさ」
冷やり。
そんな表現が似合うカカシさんの口調。
「今までイルカ先生に、俺の他に、そんなことをした奴、いや奴らがいたってこと?しかも、イルカ先生の意に沿わずして無理矢理」
確認するような、ゆっくりとした言い方で。
答えたくなかったが答えてしまった。
「・・・・・・そうなりますね」
「へえ」
一言だけだけど。
その一言にはカカシさんの感情が現れていた。
激しい怒り。
たった一言にカカシさんの怒りは集約されていた。
なんでカカシさんが怒っているのか解らないが。
何故だかカカシさんは猛烈に怒っていた。



「分かりました」
カカシさんは怒りを鎮めて、ふうと息を吐いた。
いかっていた肩を下ろす。
「その不埒な輩たちに鉄槌を下して止めを刺すのは後にして。そういう理由でイルカ先生は今朝、怒っていたわけですね」
「そうです・・・」
もしかしてカカシさんに言わない方がよかったかな・・・。
鉄槌とか止めなんて不穏な言葉だ。
俺の不安に対してカカシさんは、にこと無邪気に微笑んだ。
「じゃあ、イルカ先生はそういう行為に対して嫌悪があるのであって、俺の事が嫌いなわけじゃないってことですね」
なんか事実が曲解されて湾曲されてない?
「イルカ先生は俺のことが好きかもしれない、好きになるかもしれない、ってことですよね」
どうして、そうなる?
カカシさんの目は期待に満ち、きらきらと輝いていた。



モテ期襲来
モテ期終来



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