モテ期襲来
カカシさんはモテている。
とっても。
それがカカシさんの印象だった。
カカシさんのいるところに女あり、というか何と言うか彼んと言うか・・・。
それはカカシさんの身近にいればいるほど、よく分かる。
実感する。
一緒にいると、必ずと言っていいほど女性の影がカカシさんに現れる。
その確立100パーセントといっても過言ではない。
詳しく説明するとだ、女性の影とは女性がカカシさんをお誘いするということだ。
熱烈に激しく、猛アタック。
押して押して押し捲っている。
見ていて、ものすごいエネルギーを感じてしまう。
女性って、なんて情熱的なんだ。
ある意味、感銘を受ける。
いいなあ、あのパワー。
オレにも分けてほしい。
女性の影が、ちらつく度にカカシさんは丁寧に謝ってくる。
「イルカ先生、本当にすみません」
「いいええ、ちっとも」
オレは定番の言葉を口にした。
何とも思っていませんから気にしないでください、って言う。
言うんだけど、その後、カカシさんは残念そうな顔になる、いつも。
ちなみに女性の情熱アタックはカカシさんは総て断っている。
好きな人がいるからって。
そうすると大抵の女性は悲しそうに去って行ってしまう。
ちょっと、お気の毒だ。
今日も、また、そんな女性が現れた。
カカシさんと夜、連れ立って酒を飲んでいたときだ。
そんな女性が現れた。
「すみません、少しよろしいですか?」
店の中での告白かな〜。
酒を飲んでいたオレは聞こえないふり知らないふり、他人のふりで傍観している第三者を装う。
で、いつものように告白を受けてカカシさんは断っていた。
「好きな人がいるからって」
女性は潔く身を引いて、やっぱり悲しげに去って行く。
なんか可哀想かもしれない・・・。
「イルカ先生、すみません」
カカシさんは、また謝ってきた。
「いいええ、気にしないでください。何とも思っていませんので」
定番の言葉を口にした。
まあ、酒を飲んでいるから本音を言うとカカシさんが羨ましかった。
あんなに女性に言い寄られて、モテてモテてモテて、モテて・・・。
オレも人生の一度くらいはモテてみたい。
そんな願望を、つい口に出してしまった。
「カカシさん、モテていいなあ」
「そうですか?」
カカシさんは眉を潜める。
本人は断るの大変そうにしているのに、この発言は軽率だったかな・・・。
反省。
だけど。
「イルカ先生、モテたいんですか?」
ずばり、訊かれてしまった。
ヤバイ、オレの邪まな願望がばれた・・・。
オレは正直に白状した。
「モテたいですよ、モテるなら」
まあ無理だろうけど、あはははは〜。
笑いで誤魔化した。
だけど。
「そうだったんですか」
カカシさんがオレを見て心得たように、にっこりと笑った。
「だったら大丈夫。イルカ先生、きっとモテますよ」
何故か断言された。
はてな?と思ったオレだったが酒の席の戯言だろうと流してしまったのだが。
次の日からカカシさんの言ったことは本当になった。
オレのモテ期が襲来した。
カカシさん一人だけにモテるっていう、モテてモテて困ってしまうっていう・・・。
でも、なんか違う。
オレはモテるのは女性を想定してだ。
男性じゃない。
それを言うとカカシさんが、にこやかに微笑む。
にこやかの中に余計なプレッシャーも混ぜて。
「イルカ先生、モテたいって言ったでしょ?性別は指定していなかったじゃない」
そりゃあ、そうだけど。普通は、だって男性は女性に、だろ?
「まあまあまあ。オレにモテていれば問題ないですよ」
・・・問題ない、のか?
で、今はカカシさんに狂おしく情熱的に激しく、押されて押されて押されまくっている。
流される日も遠くないような気がする。
そして、この頃からカカシさんに女性の影はなくなった。
同時にカカシさんには本当に好きな人がいると噂が流れた。
女性に好きな人がいるから、と断っていたのは事実だったのだ。
だから女性はカカシさんには言い寄るのを止めたのか〜。
切り替え早いな・・・。
斯く言うオレは。カカシさんにモテて困っている。
カカシさんのことは嫌いじゃないし、むしろ好きだけど、こんな展開は予想外で、どうしたらいいのか解らない。
そしてカカシさんのように上手く断る術もなし。
願い叶ってモテるようになったけれど。
果たして、これで良かったのだろうか?
オレの明日はどうなるのだろう・・・。
そして、俺は今モテている。
誰にって?
カカシさんに。
そしてカカシさんは男だ。
俺も男で。
男が男にモテていた。
「イルカ先生!」
今日もカカシさんは元気だ。
嬉々として俺のいる受付所に現れた。
「おはようございます!」
朝に似つかわしい爽やかな笑顔で。
周囲に無駄に爽やかさを振りまいている。
「・・・おはようございます」
対して俺は夜勤明けなので最低限の挨拶だ。
夜勤明けなのに夕方までお勤めしなければならないのも原因の一端だった。
まあ、仕事だからしょうがないのだけどね。
溜め息が出てしまう。
あー、早く帰りたい。
「どうしたんですか?イルカ先生」
元気がありませんね?とカカシさんが顔を覗き込んできた。
「いーえ、元気ですよ」言って、俺は疲れた顔で笑って見せた。
大サービスの元気溌剌の笑顔。
元気がないと言われると空元気でも出してしまうのが俺の悲しい性格だ。
少々、捻くれていると自分でも自覚している。
「ふーん、そう?」
カカシさんは首を傾げて何事か考えていたが俺の顔に自分の顔を近づけると俺の耳に何かを囁いた。
・・・振りをして俺の耳朶に息を吹きかけた。
「なっ・・・」
何すんだ、受付所で!と俺が怯んだ隙に更に耳朶を、ちろっと舐められた。
一瞬で顔の覆面を下ろして、そんな芸当するなんて、さすが上忍!ではなくて・・・。
「気持ち悪っ!」
俺は、つい本音を漏らしてしまった。
舐められた耳朶を押さえながら。
・・・・・・・・・あの昔の、おぞましいことを思い出しそうになって、ぐっと堪える。
カカシさんは「ひどーい、イルカ先生〜」って言っていたけど、どっちがひどいんだよ。
あったまくる!
いきなり、こんなことするなんて。
おまけに受付所で。
おまけに朝から。
おまけに俺は夜勤明け。
最悪のコンディションじゃないか!
「他の人がいるのに!」
言ってから、しまったと思った。
するとカカシさんは今まで見たこともない笑顔を浮かべて。
にやーりって。
さっきの爽やかな笑顔と180度違う笑顔だ。
・・・この人、こんな顔もするんだ。
人が良いだけじゃなかったんだなあ。
変なことに感心しているとカカシさんは、にやーりとしたまま目を細めた。
「ご要望にお応えして今度は人がいないところでやりますね!」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「了解しました〜」
明らかに誤解したまま受付所を出て行ってしまった。
「ちょっと待て!」と俺が伸ばした手は空しく宙に浮いている。
・・・何なんだ、朝から。
息を吐いた俺は気持ちを切り替えて仕事に勤しむことにした。
ようやく昼になった。
もう帰れる。
帰る間際になって、ほっと一息つこうとしたら何故かくの一の人に絡まれた。
くの一の人は俺の帰宅時間を遅らせる。
この、くの一の人は綺麗だけど気が強そうな人だ。
・・・なんつーか、くの一の人って職業柄もあるけど気が強そうな人が多いよなあ。
「ちょっといいかしら?」
俺に本当のモテ期が襲来かと思ったが、全く違っていた。
ちょっといいかしらって駄目って言ったら、どうなるんだろ。
まあ、拒否はできないのは目に見えている。
相手は上忍だったから。
くの一の人は、すらりとした長い指で俺を指してきた。
「あなた、カカシのことを気持ち悪いって言ったらしいわね」
「あー、はい」
朝、耳朶を舐められたから。
あれは嫌だ・・・。
嫌なんだから、しょうがない。
駄目なものは駄目なんだ。
くの一の人は怖い目をしていた。
「カカシを気持ち悪いなんて言うなんて!」
すごく怒っている。
「そんなこと言うなら私が貰うわよ」なんて言う。
俺は肩を竦めた。
「いいですよ」
そして言った。
「好きにしてください。別に何とも思っていませんから」
カカシさんのことは、と告げるとくの一の人は拍子抜けしたような顔をしていた。
カカシさんは良い人で嫌いじゃないけど、恋愛感情はないはず・・・。
「カカシのこと好きじゃないの?」
「・・・何とも思っていませんよ」
「そう」
くの一の人は頷いた。
そして「分かったわ」と去って行った。
何が分かったのかなあ・・・。
それからカカシさんに再び、モテ期が襲来したみたいだった。
それも俺の発言が原因らしい。
カカシさんの俺への態度から、こりゃ脈なしと判断した女性たちだったが俺がカカシさんのことを何とも思ってないと分かったから、またアタックを開始したらしい。
カカシさんて、やっぱりモテるんだ〜。
それにしても女性はすごいなあ。
馬鹿にしているわけではなく、自分をぶつけていく、その勇気に尊敬してしまう。
どっちかっていうと俺は逃げてしまう方だから。
しかし。
俺がくの一の人にした発言を耳にしたカカシさんは俺に詰め寄ってきた。
「どういうことですか!」
どういうことですかって言われてもなあ。
「事実の通りです」
「なんですか、それ」
俺の発言が気に食わないらしく、カカシさんはきつい目つきになった。
口調も荒く、怒っているのが一目瞭然。
「だからカカシさんのことは何とも思っていませんから」
俺は地雷を踏んだらしい。
いきなり、カカシさんに手首を掴まれた。
「それ!」
それって?
「何とも思ってないって本当に思っているんですか?」
カカシさんの迫力に押されながら俺は「そうです」となけなしの勇気を振り絞って言った。
しかも強気に出て。
「へー、そうですか」
カカシさんは冷たい目で俺を見た。
「何とも思ってないって言われて俺は傷つきました」
俺は無言。
「でもね」
冷たい目が僅かに愁いを帯びた。
悲しそうに。
「そう言っているイルカ先生の方が、ずっと傷ついたような目をしているよね」
「え・・・」
「それが気がかりでした」
ふわり。
俺の両頬がカカシさんの手に包まれた。
「その言葉、イルカ先生が自分自身に言っているみたいで」
どきり、と心臓が音を立てた。
「・・・何かあったんですか?」
「何かって」
何にもない。
何にも・・・。
今は・・・。
俺は、どんと有りっ丈の力を込めてカカシさんを突き飛ばした。
不意を突かれて、よろけるカカシさん。
その隙に逃げ出した。
脱兎のごとく。
モテたかったというよりも。
邪まな思いを抱かれず、純粋に人に好かれるカカシさんが羨ましかっただけだったと、その時に気がついた。
モテ期愁来
text top
top