Time is money 9
イルカが動けずに呆然とカカシたちを見つめていると、カカシの方が先にイルカに気がついた。
「イルカ先生!」
手を振って駆け寄ってくる。
窓越しにカカシはイルカに、にこにこしながら話しかけてきた。
「久しぶりですね。元気でしたか?」
元気です、と答えようとしたイルカだが、先程、思ったことが心に張り付いて言葉が出てこなかった。
俺はカカシ先生には必要ない。
自分で思った、そのことに思いのほかイルカは衝撃を受けていた。
だから、こくりと首を縦に振るだけになってしまう。
それだけで精一杯だった。
カカシはそんなイルカの様子に気がついているのかいないのか、嬉しそうに話を続ける。
「俺、任務が立て込んでしまって忙しくて、イルカ先生に会いたいのに会えなくて寂しかったですよ。」
イルカの顔をカカシは覗き込んむように問いかけてきた。
「イルカ先生は、俺と会えなくてどうでした?」
寂しかったですか?と言ってきたがイルカは、どう答えていいのか分からない。
第一、喉がからからに渇いて声が出そうになかった。
無理に声を出そうとすると何かが溢れて出て止まらなくなるかもしれない。
イルカはカカシから視線を逸らして、大きく息を吸い込んで気持ちを落ち着かせようとしたが上手くいかなかった。
そんなイルカの様子に漸くカカシは気がついたのか、窓をひょいと乗り越えてイルカを同じ廊下に降り立った。
心配そうにイルカの額に手を伸ばしてくる。
「具合が悪いの、イルカ先生?もしかして熱がありますか?」
伸ばしてしてきたカカシの手がイルカの頬に触れるか触れないかというところで、イルカは反射的に身を翻してカカシの手を避けてしまった。
「イルカ先生・・・。」
カカシの手が空中で止まったままになる。
「どうしたの?」
イルカは戸惑うカカシの目を見たまま動けなくなってしまった。
こんなことをしたら、カカシが傷付いてしまう。
何か言い訳をしなければ、と頭では分かっているのだが言葉が出てこない。
先程のカカシの幸せそうな顔が目に焼きついて離れない。
一緒にいて幸せだと思う相手といればいいのに。
もう自分には構わなくていいのに。
だから、もう、いいんだと逆にイルカは自分に言い訳をして目を伏せる。
カカシの顔を見ていられなかった。
イルカの行動の意味が分からないカカシは、イルカを凝視したまま低く呟く。
「どうして?」
重苦しい沈黙が落ちた。
どうすればいいのか身動きの取れないような、息が詰まるような沈黙だった。
イルカは胸が苦しくて、これ以上、この場でカカシといるのが辛くて仕方がない。
早くこの場から立ち去りたい。
逃げ去りたかった。
そこへ二つの声がした。
「カカシ、もしかして、その人が?」
その声はカカシが話しをしていた上忍のくの一の声。
「あ、イルカ。こんなところにいた!急ぎの書類でしょう?五代目がお待ちよ。」
この声はイルカの同僚の女性の声であった。
イルカの同僚の女性は、以前、上忍のくの一について尋ねた件の同僚である。
妙な安心感を感じながらイルカは同僚の女性の方を振り向いて言った。
「あ、ああ。今行くよ。」
同僚の女性には気軽に声が出る。
「書類、たくさんあるのね。半分持つわ。」
イルカから同僚の女性は書類の束を、半分受け取った。
そしてカカシたちに、今、気がついたらしく軽く会釈をしてから、イルカの耳元に口を寄せて小さな声で囁く。
「ほら、あのくの一の方が、この前、イルカに話した人よ。」
「・・・うん。」
イルカは力なく答えた。
「分かったよ。」
カカシの顔が見ることができないイルカは同僚の女性が、カカシたちに「失礼します。」と挨拶するのに便乗して頭を下げた。
もうカカシと会うことはないかもしれない。
最悪なことも考えてしまう。
それでもいい、とイルカは自分の感情を無理矢理、心の奥底へを押し込んだ。
そして同僚の女性と連れ立って五代目火影の部屋へと急ぐ。
カカシは、そんなイルカを表情を失くして見送っていた。
その目は、とても冷たく見えた。
Time is money 8
Time is money 10
text top
top