Time is money 8
久しぶりのカカシとの酒は、最後は二人とも押し黙ったまま酒を飲む形になり沈んだ空気で幕を閉じた。
店を出て、カカシと歩いていたイルカは別れ道に来てから、もう一度頭を下げた。
「すみません。」
他にも色々と言いたかったが、それしか言葉が出てこない。
カカシは、そんなイルカの手を取って言った。
「イルカ先生の所為じゃないんですよ。ごめんね、俺の方こそ。」
「でも。」
もしも、イルカがカカシの好きな人の心当たりがついたら、その仲を応援できたかもしれないのに。
後悔が押し寄せてしまう。
もう少し俺が気の利いた人間だったらな、と。
「いいんです。俺も、間が悪かったというかタイミングを間違えたというか、まあ、そんな感じなんで。」
カカシは寂しそうな顔をして笑った。
優しい仕草で手に取ったイルカの手を撫でて慰めてくれている。
イルカの胸は痛くなった。
カカシ先生に、こんな顔をさせてしまうなんて。
「それより、また一緒に飲んでくださいね。あ、今度は俺の家で、酒を飲のってのもいいですね。」
家なら、ゆっくりできますしね、とカカシは誘ってくる。
「そうですねえ、家で飲むのもいいですね。俺の家でもいいですから。」
そう言ってイルカは微笑んだ。
カカシも今度は、寂しそうではなく嬉しそうに笑う。
その顔を見てイルカは、ほっとした。
カカシ先生には笑っていてほしい、心からそう思った。
カカシと別れて、一人、家路を急ぐイルカは考えた。
カカシ先生の好きな人を何とかして突き止めて、そんで、その二人の仲を応援したい。
寂しそうな顔より、カカシ先生には嬉しそうな顔をしていてほしい。
イルカは決心した。
好きな人と一緒になればカカシ先生は里でも寂しくないし、きっと心は安らげる。
そうなれば、一番いい。
カカシの隣に好きな人がいれば、きっとカカシは、その人と幸せそうに笑うに違いない。
それを想像してイルカは自分までも嬉しくなってきた。
カカシ先生が幸せになる。
それは、とても良いことだと思ったのに。
でも、と家路に向かうイルカの足が止まった。
その時、俺はどこにいるんだろう?
もうカカシ先生の隣に俺はいることはない。
二人だけで一緒に食事とかということもなくなるだろう。
互いの家を行き来する必要もない。
自分でも何だか説明のつかない、辛いような悲しいような気持ちが押し寄せてきてイルカの胸は潰れそうになった。
もう、俺、カカシ先生の傍にいられないのか。
それが答えだった。
親しい人が遠くなってしまう。
イルカは、それが、とてつもなく寂しいことだと感じたのだった。
自分の気持ちは知らない振りして押し殺すことにしたイルカは、カカシの好きな人を密かに探すことにした。
手始めにアカデミーの同僚の女性に聞いてみる。
「なあ、結婚してない上忍のくの一の方で、サラサラの髪をしていて、髪が少し長い人って誰?」
聞かれた同僚の女性は呆れたように答えた。
「そんな人、何人いると思ってるの?」
「そっか。じゃあさ、身長は俺より少し低いくらいの人は?」
カカシが自分より少し低いと言っていたのでイルカは自分を基準にして言ってみた。
「うーん、女の人にしては背が高い方ってことね。」
「うん。」
そうねえ、と言って、やっぱり同僚の女性は肩を竦める。
「情報量が少なすぎ。もっと決定打になるような情報はないの?」
「えーと。」
イルカは昨夜、カカシが言っていたことを思い出しながら腕組みをしながら言ってみた。
「性格は明るくて元気。チャームポイントは顔の傷とラーメンが好きなこと。」
同僚の女性は、胡散臭そうにイルカを見てから、すっと指を差した。
目の前のイルカを。
「それ、イルカじゃないの?」
「違うって。女性だよ、上忍の。」
カカシが好きな人は上忍の女性に決まっている、とイルカは頑なに思っていた。
「ふーん。」
同僚の女性は、少し考えて何人かの上忍のくの一の名前を挙げた。
「その中で確か、今、里にいるのは一人だけで右頬に一線の傷がある方よ。」
そのくの一の名前を教えてくれた。
「一楽の常連なんだって聞いたわ。あそこのラーメン屋さん美味しいものね。」
「そうか。」
更に、そのくの一の詳細をイルカは聞き出した。
その女性が、カカシ先生の好きな人とは限らないが姿を見ておきたい気持ちがあったのだ。
「サンキュ。助かったよ。」
「いいけど。でも、どうしたの?」
イルカに聞かれた同僚の女性は首を傾げた。
「イルカが、そんなこと聞くなんて珍しいじゃない。」
「うーん。それは・・・。」
それは、言いたくても言えなかった。
密かに探すことに決めたからには秘密にしておきたい。
ばれたらカカシにも迷惑がかかるだろうし。
イルカは首を横に振った。
「今は言えない。もしも、上手く事が運んだら言ったら言ってもいい、かな?」
「なあに、それ。」
同僚の女性は、少し笑ってイルカの肩を叩いて言った。
「よく分からないけど頑張ってね。」
もちろん、イルカは頑張るつもりだった。
カカシの好きな人であるかもしれない女性を一目、見てみたいイルカであったが、中々その時間は取れなった。
仕事が忙しかったのである。
年度末なのでアカデミーは次の年度の準備で慌しく、兼任している受付けの仕事も引き継ぎ書類の作成やら何やらと、しなければいけないことが山のようにあったのだ。
それはイルカに限ったことではなくて、中忍全体のことなので文句は言えない。
急がしい中、イルカは時々カカシのこと思い出していた。
カカシ先生、どうしているかな?
元気かなあ、と、カカシの笑顔を思い出すと元気が出る。
あの日、酒を飲んだ日以来カカシも、どうやら任務に行ってしまったようで会うことはなった。
日々、忙しい最中、イルカはたくさんの書類を両手で抱えながら受付け所のある棟の、一階の庭に面する廊下を歩いていた。
この書類は受付け所から五代目火影の部屋まで急いで運ばなければいけないのだ。
外は春めいてきていて、いい陽気であった。
「もう春だなあ。」
歩きながら外を見ていたイルカは、ふと足を止めた。
見知った顔があったのである。
カカシだ。
笑顔のカカシが、そこにいた。
嬉しそうに誰かと、何かを楽しげに話をしていたのだ。
その顔は、以前に飲みに行ったとき、カカシが自分の好きな人のことを話していた時の顔を同じだった。
幸せそうな顔だったのだ。
イルカは、カカシに呼びかけようとして止めた。
カカシの幸せそうな顔を見て。
カカシが話している誰か、その隣の人物を見て。
隣の人物は、以前、同僚の女性に聞いたくの一に特徴がよく似ていた。
右頬の傷、サラサラで少し長めの髪で背は高く元気に笑っている。
好感のもてそうな人柄と明るい雰囲気。
もしかして、この人がカカシ先生の好きな人なのかもしれない。
傍目から見ても二人はお似合いのカップルに見えた。
この二人が恋人同士でも誰も疑うことはしないだろう。
イルカの入る余地は、どこにもありそうにない。
俺はカカシ先生には必要ない。
イルカは、はっきりと悟った。
唇を強く噛む。
胸が激しく痛み、治まりそうになかった。
その気持ちは失恋にも似ていたのだった。
Time is money 7
Time is money 9
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