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その手の温もり5



うとうとと覚醒しかけていたイルカは、ふと漂ってきた薬品の匂いで、ぼんやりとだが意識が戻ってきた。
薬の匂い・・・。
目を開けようとしたのだが、何かで瞼が固定されているのか開くことができない。
耳を澄ましても何も聞こえず、現在の状態が判断できなかった。
ここはどこなのか、どうして自分はここにいるのか。



手探りで起き上がろうとしたイルカは、上半身を起こしたところで体に痛みが走り動きを止めた。
脇腹が痛む気がして、手で触ってみると布が巻かれている。
恐る恐る自分の目元も触ってみた。
同じく、布が幾重にも巻かれて開かないようになっている。



暗闇で音のない世界。
イルカがいるのは、そんな場所だ。
どうやら、自分は傷の手当てをしてもらったようだが、果たして誰にしてもらったのだろうか。
敵か味方か・・・。
傍に尋ねられるような人の気配はない。



更に手探りで辺りを探るとベッドらしきものの上にいるようだった。
怪我した脇腹を庇いながら右足を、そっと足を床に下ろしてみる。
残る、もう片方の足を床に下ろそうとした時、何か温かいものが自分の肩に触れてきた。
床に下ろした足を持ち上げられて、おそらくベッドの布団であろう場所に入れられる。
優しく肩を押されて、イルカは横になっていた位置に体を戻された。



イルカを押し戻した手はイルカの肩まで布団を掛けると、離れていこうとする。
その手を離したくなくてイルカは手を伸ばして、その手の主に触れようとした。
「待ってください。」
思わず、縋るような声が出た。
懇願するように。
「行かないで。」




イルカの願いが通じたのか、手の主はイルカが伸ばした手を握ってくれた。
その手の心地よさに安心したイルカは手を握り返してしまう。
暗闇で音の聞こえない世界で誰かがいる、自分一人じゃないと分かる、手の温かさは有り難かった。
とても心強く感じる。



握った手の主はイルカの傍に椅子でもあって座ったのか、その場に留まる気配を見せた。
ふわり、と手の主の気配が伝わってくる。
その手の主の気配はイルカが、よく知る人物に似ていた。
だから安心するのかもしれない。
よかった、ここにいてくれるんだ。
深い安堵感と同時にイルカは恥ずかしさに襲われた。
いい大人が何やってんだと思っている、よな。
慌てて取り繕うように言い訳をしてしまう。



「すみません、こんな・・・。手を握るなんて子供みたいなことしてもらって、馬鹿みたいだなと思っているとは思いますが、でも、俺、こうしてもらっていると・・・。」
矢継ぎ早に言葉を発するイルカを、手を握ってくれている相手はイルカの手の甲を、ゆっくりと撫でてきた。
ゆっくりゆっくり、摩るように手を撫でもらっているうちに混乱していたイルカの心は、だんだんと落ち着いてくる。
目が見えないことも音が聞こえないことも、どうしてこうなったのか思い出してきた。
ああ、そうだった、任務の帰りで敵に襲われて、でも助けてくれた人がいて、それは木の葉の里の仲間だったんだ。



きっと今、手を握ってくれている相手が助けてくれた人かもしれない。
確か助けてくれる前にも、こうやって手を撫でて落ち着かせてくれた。
少し違和感があるような気がするが手の温かさが、すごく似ている。
優しい手の感触だった。
そう思うとイルカの口から言葉が出ていた。
「あの、あなたが俺を助けてくれたんですか。」
イルカの手を撫でていた誰かの手が、ぴたりと止まる。
「だったら、お礼を言わせてください。ありがとうございました。」
撫でる仕草は止まったが手は握られたままだ。
「ここは木の葉の里ですよね。」
落ち着いた頭で考えを整理しながらイルカは言った。
「あなたが俺を里に連れ帰ってきてくれて、病院に運んでくれたんですよね?」
相手からの反応はない。
イルカは、途端、不安になった。



「・・・・・・俺、間違っていますか。」
手を握っている相手は逡巡しているようだったがイルカの手の平に円を描いた。
丸である。
正解の意味だと悟ってイルカは肩の力を抜く。
そして次の質問をした。
「あなたは誰なんですか?」
もしよければ名前を教えてください、と姿の見えない相手にイルカはお願いする。
相手はイルカの手の平に指で、おそらく自分の名前であろう文字を書いてきた。
最初に『は』、次に『た』と書かれて、そして次の文字を書こうとした指の動きが急に止まる。
指の動きと共に相手の気配も固まってしまったかのように動かなくなってしまったのだった。





その手の温もり4
その手の温もり6




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