その手の温もり20
退院の手続きをして家への帰り道、イルカの隣にはカカシがいた。
イルカの荷物を半分持ってくれている。
隣を歩くカカシを見ながらイルカは改めて言った。
「今回、カカシさんには大変お世話になりました。ありがとうございます。」
歩きながら頭を下げるとカカシは気さくに手を振る。
「いいのいいの。俺じゃない誰かがイルカ先生の面倒を見る方が俺の心臓に悪いから。」
「はあ。」
「目が見えなくて耳が聞こえないイルカ先生が前面的の俺に頼ってくれている時、すっごく幸せだったなあ。可愛くて。」
カカシは何やら回想している。
「このままの時間が続けばといいなあ、と思ったりしたけど。」
イルカの肩にカカシの肩が触れた。
近い距離のカカシにイルカは、どぎまぎしてしまう。
「やっぱり、イルカ先生には俺の名前を呼んでほしいし、その目で俺を見てほしい。」
穏やかな雰囲気を漂わせつつ、優しく笑うカカシにイルカは見蕩れてしまう。
「はい、イルカ先生。」
カカシが荷物を持っていない方の手を差し出した。
「手を出して。」
言われるままにイルカはカカシの手の上に自分の手を重ねる。
ぎゅっと握られた。
軽い力だったが絶対に離さない、そんな感じで。
カカシに手を引かれてイルカは歩き出す。
握った手からカカシの手の温もりが伝わってきた。
イルカが一番安心する温もりである。
その手を握り返しながらイルカの口から自然に言葉が出た。
「この手が俺を助けてくれたんですよね。」
助けてくれたことも初めてキスしたことも忘れたことはない。
カカシに言うのは照れくさいけれど。
あの時からカカシに対して仄かな想いが芽生えて、再会した時には確かな想いになってしまった。
同性同士だとか、相手は上忍だとか自分を諦めさせようとしたけれど・・・。
隣のカカシを見ながらイルカは心から思った。
諦めないでよかったなあ、と。
好きでいてよかった、と思ったのだ。
「ん、どうしたの。イルカ先生。」
イルカの微妙な雰囲気の変化を感じ取ったのかカカシがイルカを振り返る。
「え、いやあ、あの。俺、カカシさんのことが好きだなあって思って。」
口に出すと照れくささが倍増する。
「男同士だって悩んだりしたけど好きな人は、やっぱり好きだなあって・・・。」
その言葉を聞いたカカシの顔が、ぱあっと明るくなった。
「嬉しい!」
カカシは目を細めて、にこにことした顔になる。
幸せそうだ。
「イルカ先生が俺のこと、好きだって言ってくれた!すっごく嬉しい〜。」
「そんなに喜んでもらえると俺も嬉しいです。俺もカカシさんに好きだと言われて嬉しかったし。」
「じゃあ、早く帰りましょう!」
俄然、張り切りだしたカカシはイルカの手を引っ張った。
「帰るって、どこに?」
カカシが手を引く方向はイルカの家の方向ではない。
「俺の家。」
当然のようにカカシは答えた。
「カカシさんの家に。なんでですか?」
不思議そうにするイルカ。
「俺、自分の家に帰って掃除とか洗濯とかしないと・・・。」
「だってイルカ先生の、お腹の傷は完治してないから二、三日安静にしていないといけないんでしょ。なら、俺の家で安静にしていればいいじゃない。」
「でも、これ以上、ご迷惑をお掛けするわけには・・・。」
「だってイルカ先生のお世話をしたいんだもん。」
「お世話って。」
子供じゃないんだから自分でできます、とイルカが言いかけるとカカシが瞳を、きらん、とさせた。
「お世話以外にもしたいことがあるからねえ。」
そういえば、カカシは病院で『ここでは色々できない。』とか何とか言っていた。
思い出したイルカは、恐る恐るカカシに訊いてみる。
「病院で言っていた『色々』って何ですか?」
ふふふ、それはね、とカカシは意味深に笑って一言、言った。
「ひ、み、つ。」
「秘密って、それって。」
カカシの秘密は何だか恐いものがある。
「じゃあ、一つだけ教えてあげる。」
イルカの耳にカカシは囁いた。
「最初はキスだよ。」
「最初・・・。」
「そ、最初はキスから。」
最初はキスして、それから、どうするのだろう。
考えるイルカは怖気づく。
だからカカシに言った。
「一応、俺、まだ怪我人ですから。」
「分かっています。」
「今はキスするだけで精一杯ですから。」
「大丈夫大丈夫。」
「まずは友達路線からお願いします。」
「全部、俺に任せてくださいよ。」
カカシは楽しそうに嬉しそうに幸せそうに返事をしてくる。
イルカは多少、不安は残るもののカカシに手を握られることで、すごく安心してしまう。
好きな人の手の温もりは、いつだって一番、心安らぐものなのだった。
終わり
その手の温もり19
指先の温もり
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