その手の温もり19
「いいじゃない、それで。」
何か困ることでもあるのかとカカシは首を傾げた。
一生添い遂げようという考えはカカシの考えと、ぴったり一致する。
「駄目なの?」
「だって俺たち男同士だし。」
イルカの弱弱しく微笑んだ。
「俺の夢は儚く砕け散ったんです。」
若さゆえの思い込みだった、とイルカは弁解した。
「ええ〜。」
カカシは勿論、抗議の声を上げる。
「あのねえ、イルカ先生。こういう場合はねえ、男同士でも・・・。」
ぐぐっと迫ってきたカカシにイルカは慌てたように言葉を続けた。
「ちょっと待って、カカシさん。まだ、話には続きがあるんです。ね、聞いてくださいよ。」
渦中の話題から気を逸らすように言う。
「一旦、このことは置いといて、俺の話を聞いてください。」
「じゃあ、一旦、置いとくだけね。」
念を押してからカカシは、多少、気になっていたイルカの話の続きに耳を傾けた。
「カカシさんの助けられた俺は、緊張が一気に解けて、体が震えが止まらなくなって・・・。」
「俺が口移しで水を飲ませたんだよね。それが、初めてのキ・・・。」
キス、と言いかけたカカシの口をイルカの手が塞ぐ。
「ま、まあ、そういうこともあって・・・。それで、今度はカカシさんが倒れてしまいましたよね。」
「ああ、チャクラ切れでね。」
「だから、俺はカカシさんを連れて任務の目的地に行こうと思いました。俺を助けてくれた人を、今度は俺が助ける番だと思って。でも、途中、敵にまた運の悪いことに遭遇してしまって、その時はカカシさんを護らないと、自分でも思わぬ力が発揮できたんです。」
「ああ。」
確かに自分を護ってくれたイルカは強かった。
それが好きになってしまった要因でもある。
カカシは、いつも誰かを護る側だったから。
「で、敵を何とか撃退して俺は任務を受けた命令書の届け先に到着しました。カカシさんのことが心配で、手当てしてほしいと上忍の方たちにお願いしたところ、『カカシは単なるチャクラ切れだから寝ていれば治る。』と言われて安心はしたのですが・・・。」
イルカは暗くなった。
「上忍の方たちは俺が怪我をしていると言い出されて掠り傷程度だったのにも関わらず、手厚く怪我の手当てをしてくれましたそれは、もう色々と至れり尽くせりと。・・・自分で怪我の手当てくらいできると辞退したのですが、上忍の方の力には適わずベストも上着に脱がされて、丁寧に掠り傷を手当てをしてくれました。そのことには感謝していますが、正直・・・。」
はあっとイルカが大きく息を吐き出した。
「上半身を裸にされて大勢の前での怪我の手当てをされるって恥ずかしかったです。善意から出た行動だとしても、十五歳の俺には気持ちの上では割り切れず・・・。」
十五歳と言えば思春期に当たる難しい年頃で、怪我の手当てと言えども上半身を大勢の前で晒すのはイルカにとって、大変に複雑な心境だったに違いない。
「そんで俺は、人生初めてのキスや上半身を手当てされて見られたことに激しく動揺してしまい俺は、その年の中忍試験も落ちました。」
カカシの嫌な予感は的中した。
「あらら。それは、まあ・・・。ねえ。」
掛ける言葉が見つからない。
「それで次の年の中忍試験を受験する時は直前に任務を受けることはせず、普通に受験して合格しました。」
「それは何よりです。」
やっとカカシは、ほっとする。
「よかったですね、イルカ先生。」
「まあ、なんというか。そうですね。」
渋い顔をしてイルカは頷く。
「誰も悪くない、強いていえば俺が勝手にしたことで、俺は上忍の方が苦手になっていたんですよね・・・。」
「まあ、しょうがないよ。」
イルカの上忍が苦手な理由が分かってカカシは、とりあえず一安心した。
悪い意味で苦手ではなかったからだ。
「今は、どう?やっぱり上忍は苦手?」
カカシは冗談半分くらいに訊いてみる。
するとイルカは首を振った。
「今は、余り・・・。苦手だという意識は少しありますけれど。」
微笑んでカカシを見る。
「カカシさんと知り合ってからは、それほどでもなくなりました。」
「そっか。」
カカシも微笑み返す。
「じゃあ、俺は?俺のことは、どうですか?」
ずばっと切り込んだ。
イルカの目を見て真剣な声で言う。
「俺は、イルカ先生に初めて会ってキスした時から、ずっとイルカ先生のことが好きです。」
指を絡ませていた手に力を入れる。
「好きな気持ちは、あの時から変わっていません。好きで好きで。イルカ先生が大好きです。」
「えっと、あの。」
カカシの熱烈な告白にイルカは戸惑っている。
「イルカ先生も俺のこと、好きでしょう。初めてのキスの相手の俺を忘れないでいてくれたんだから。」
「それは・・・。」
うろうろとイルカは視線を泳がせて答えようとはしない。
「ねえ、教えてよ。」
カカシが正面から、ぴたりとイルカの体に自分の体を密着させる。
どきどきとしているイルカの心臓の鼓動がカカシに伝わってきた。
それが答えだと分かってはいるものの、カカシは、ちょっぴり意地悪な気持ちになる。
「ねえねえ、教えてイルカ先生。」
困っているイルカも可愛くて、意地悪したくなるのだ、少しだけ。
「ここじゃ駄目です。」
困ったイルカが小さい声が聞こえる。
「ああ、それもそうだね。」
カカシは、あっさりとイルカを開放した。
「病院じゃあ、あれだもんね。色々できないしねえ。」
「え、色々って・・・。」
「今、医者を呼んできますから、目も耳も完全に治ったか診てもらいましょう。完治していたら、退院できますもんね。」
そしてカカシは医者を呼びに行ってしまう。
医者の診断は目、耳とも後遺症もなく回復、腹の傷に関しては二、三日自宅で安静にしていればよい、というものであった。
その日のうちに退院の許可は出たのだった。
その手の温もり18
その手の温もり20
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