その手の温もり2
「いなくなったか・・・。」
三人の敵を、どうにか撃退したがイルカ自身も、だいぶ体にダメージを受けていた。
手持ちの薬で応急処置をしたものの、不安が残る。
まず敵の放った爆薬の爆発音で耳がやられ、光弾のせいだろうか目が開かなかった。
煙幕にも何か仕掛けてあったのかもしれない。
原因は思い当たるものがいくつかあるのだが、要するに今のイルカは耳が聞こえず目が見えずの状態であったのだ。
体の節々にも痛みがあるが怪我をしているのか見えないので分からない。
少しばかり血の匂いがするので、どこかが負傷しているように思う。
目が見えないだけでも不安なもんなんだな、おまけに耳が聞こえないってのが重なると不安倍増だな。
ふっと息を吐くとイルカは手探りで木の幹を探し出し、そこに腰を下ろした。
座った途端に、どっと疲労感に襲われる。
体の力が抜けて手足が弛緩し、地面に投げ出されるような格好になった。
・・・これからどうしよう、火影さまの書状が守れたのは幸いだったけど。
色々と考えてみるが、上手いこと考えが纏まらず、疲労だけが押し寄せてくる。
とにかく仮眠でもとってみよう。
聞こえなくなった耳と見えなくなった目が、いつ回復するのか見当がつかないのだ。
寝て体力を取り戻せば、もしかして耳か目、どちらかでも回復するかもしれない。
一縷の望みをかけてイルカは眠りに就こうとした、その時だ。
「誰だ?」
何かの気配に気がついたイルカが声を上げた。
「誰かいるのか。」
「わしじゃ、カカシの忍犬のパックンじゃ。」
カカシが先行して様子を見に行かせた忍犬がイルカの元に到着したのだ。
「どうしたのじゃ、イルカ殿。大丈夫か。」
パックンは、とことこと短い足でイルカに近寄り、地面に投げ出されているイルカの手を、ぺろりと舐めた。
「・・・・・・犬?」
暫くしてイルカから疑問府を持った言葉が出た。
「犬って見て分からんのか。」
驚いたパックンがイルカの目を見ると固く閉じられている。
「もしかして誰かにやられたのか。」
だが耳の聞こえぬイルカはパックンの問いに答えられない。
「・・・犬、だよな、その小さな気配は人間とは違う。そして空気の振動から吠えているのではなく話しているのか・・・。ということは忍犬か?」
「そうじゃよ、イルカ殿。わしはカカシの忍犬でパックンじゃ、会ったことが数回あろう。」
「ごめん。」
イルカから済まなさそうな声が漏れた。
「今、耳がやられて聞こえないんだ。一時的なものだと思うんだけど。」
せめてイルカは犬の頭でも撫でてやろうとでも思ったのか手を上げたのだが、その手は力なく、ぱたりと再び地面に落ちた。
「そうじゃったのか、こちらこそ、すまなかったのう。」
パックンは慰めるようにイルカの手を、ぺろりと舐める。
「ははは、優しいな、お前は。」
イルカは声を出して笑ったが、その声には、やはり力がなかった。
「でも。」とイルカは呟くように言う。
「忍犬がいるということは近くに主人である忍がいるってことだよな。その方は上忍なのか?」
イルカの問い掛けにパックンは、またイルカの手を舐める。
「そうか、上忍の方なのか・・・。」
そのことを聞いてからイルカは黙り込み、次に口を開けると懇願するように言った。
「なあ、お前の主人に俺のことは黙っていてくれないかな。そのう、俺のことは上忍の方の手を煩わせるほどのことじゃないと思うし、駄目かな?」
パックンには答えられない。
主人の命令は絶対であるし、何より目の前に傷を負っているイルカがいるのに放っておくことはできない。
「あのさ、こんなこというと変かもしれないけど、俺・・・。」
思い切ったようにイルカはパックンに告白してきた。
「ちょっとした理由でなんだけど、上忍の方たちが苦手でさ。できたら、上忍の方とは・・・。」
そこでイルカの言葉は不自然に途切れてしまった。
「イルカ殿!」
慌ててパックンがイルカの顔を覗きこむと、イルカは頭を木の幹に持たれかけながら荒い息を吐いている。
どうやら、様態が急変したようだ。
「パックン、何が・・・。あ、イルカ先生!」
ちょうどタイミングよく、そこへカカシが到着した。
パックンは安堵の息を吐いてから手短に経緯を話す。
「分かった。」
カカシは真剣な顔をして頷いたが、パックンの話に首を捻った。
「イルカ先生は、上忍が嫌だから上忍に助けられたくない、って言っていたの?」
「嫌ではなくて苦手だとおったぞ。ついでに言うなら助けられたくないのではなく、手を煩わせたくないと言っておった。」
「うーむ。」とカカシは顔を顰めて何事か考えていたが、閃いたという風に顔を輝かせた。
「じゃあ、俺、パックンとは関係ない通りすがりの中忍ってことでイルカ先生を助けるよ。」
「・・・・・・何を言っておるのだ、カカシ。」
「その方が事を運びやすいじゃない。だって、俺、イルカ先生の嫌がることしたくないんだもん。」
カカシは、あっさりと言った。
「イルカ先生のこと好きだから。」
その手の温もり1
その手の温もり3
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