その手の温もり1
イルカは全速力で森の中を走っていた。
久しぶりに体にある力を総て使って走っている。
大きな木が茂る場所まで来ると素早く木の陰に身を隠した。
息が切れて、はあはあ、と荒い息遣いが漏れてしまう。
息を整えながら、修行不足かもな、とイルカは頭の隅で、ちらりと思い苦笑した。
最近、アカデミーやら受付けの仕事が忙しくて、修行をする暇がなくてなあ、と心の中で思った時だ。
気の陰に隠れてイルカ目掛けて、一本のクナイが正確に狙いを定めて飛んできた。
途端、イルカの思考岐路は切り替わり、闘いのことだけで、いっぱいになる。
次の攻撃はどこから、敵はどこに、反撃はいつするか、頭の中で即時に計算し計画を立てた。
それは反射的なもので忍として訓練され身についた習性だ。
目と耳、五感を集中して静かに辺りの様子を探る。
慎重に気配を探っていくと、どうやら敵は三人で、力の程は中忍のイルカと大差ないようだ。
チャクラの量がイルカと同じくらいだと感じる。
どこの里の忍なのか見当はつかないが。
「敵は三人、中忍か・・・。」
なら、なんとかなるかも、とイルカは僅かな望みを持った。
この場合、闘わずして逃げるのが得策かもしれない。
なにより、とイルカは懐の書状を忍服の上から手で押えた。
これを里まで確実に届けなければならないし、それが一番の優先事項だ。
ちょっとした頼みごとと言われて、五代目火影に頼まれて、その火影直々の使いとして、木の葉の里から少し遠くの国のある人のところまで書状を受け取りに行ったのだ。
くれぐれも他言しないように内密に、と指示を受けた。
火影直々だということを鑑みればイルカが受け取って里まで届けようとする書状は、余程、大事なものに違いない。
だから狙われたのか・・・。
っていうかさ、イルカは火影に恨み言が出てしまう。
そんなに重要な書状だったら俺でなくて、もっとこう頼りになる忍に行かせればいいのになあ。
頼りになる忍、そこでカカシの顔が浮かんだ。
カカシは上忍で並大抵の忍者では適わないほど力を持っていて戦略にも長けている。
・・・カカシさん。
最近、そのカカシとイルカは急速に仲を深めていっている。
上忍が苦手なイルカであったが教え子を通じて知り合ったカカシは気さくで、年齢も近いこともあって意気投合することも多かった。
時々、二人で食事や飲みに行ったり、最近は休日も時間が合えばお互いの家を行き来したりもしている。
そういえば、カカシさんも今、里外の任務に出ているんだっけ。
息の整ったイルカは敵の不意を突いて、再び走り始めた。
里に帰ったら飲みに行こうと、カカシさんと約束していたんだよな。
イルカがカカシのことを考え、思考が闘いから脇道に逸れた時、そこに隙が生まれたのか敵の放った煙幕と光弾が炸裂し、火の点いた爆薬が大きな音を立てて爆発した。
「ん?」
任務が終わり里に帰る途中、森の中で小休止を取っていたカカシは顔を上げた。
「どうした、なんかあったか。」
カカシと共に任務に当たっていたアスマが不審そうに眉を顰める。
「いやあね。」
西の方角をカカシは見ながら「なーんか、あっちからさあ。」と指差した。
「爆発音が聞こえたような気がしてさ。」
「爆発音だあ?そんなもん、俺は聞こえなかったぞ。」
アスマの答えを意に介する風もなくカカシは決断した。
使役している忍犬の一匹を呼び出す。
白い煙が上がり、一匹に小型犬が姿を現した。
「なんじゃ、カカシ。」
「あ、パックン。あのねえ、ちょっとお願いがあるんだけど。」
爆発が聞こえた方を指差し、指示する。
「あっちの方の様子を先行して、急いで見に行ってくれない?爆発音が聞こえた気がしたんだよね、俺もすぐ行くから。」
「分かった。」
優秀な忍犬は頷くと姿を消した。
「俺も行くか?」
アスマが訊くとカカシは首を振った。
「いや、ここで待機していて。何かあったら呼ぶから。」
「了解。」
カカシは、すぐに忍犬の跡を追いかける。
追いかけながら呟いた。
「どうも、イルカ先生がいそうな気がするんだよねえ。」
カカシの第六感が、そう告げる。
確かイルカ先生も任務に行くって言っていたし、こういう時の予感って何故か当たるんだよね。
そう思いながらカカシは走る速度を、尚一層、速めたのだった。
その手の温もり2
text top
top